18章 寡黙
「・・・ここで終わらせる!お前の死骸は風化して石油にでもなるんだな!」
「どういう思考回路なんだ?・・・頭、逝ってるのか?」
EXルーミアは大剣を構えて重たい一撃を菫子にぶつけようとした。
しかし菫子もそれに反応し、オデュッセウスウェポンで彼女の攻撃を受け止め、金属音が響く。
そして同時にルーミア側の治安保護兵が動き出したのだ。
「菫子さん!ジュノアたちが他の治安保護兵をやっつけるから・・・今は戦いに専念しててね!」
「了解!」
5人は菫子に襲い掛かろうとする治安保護兵の前に立ち塞がったのであった。
そして大多数の治安保護兵を前に、怖気づくこと無く武器を構えたのだ。
「これで一対一だな・・・EXルーミア・・・!」
「だからどうした。所詮は雑魚の塊、あんな治安保護兵など私1人で処分出来る。・・・同じ治安保護兵だから連れてきただけだ」
「お前も雑魚だけどな」
菫子はルーミアと鍔迫り合いを行っていたが、力一杯を込めると彼女は力押しされ、一旦身を引いたのだ。
赤く染まるルーンが寂寥を示していた。
「私も雑魚だと・・・!?」
「そうだ。人をそうやって雑魚呼ばわりする程強がってるのが見え見えだ・・・。・・・そんな事も分からないのか」
「・・・くだらない妄想を喋りやがって・・・!・・・お前は腐ってるな!菫子!」
ルーミアは大剣を持っていた右手とは反対の手で闇の力を集めたのだ。
暗黒を司る彼女は真っ黒な闇の球を左手の掌の上に作り出し、菫子に向けて静かなる表情を浮かべたのだ。
「・・・どんなに鮮やかな色も・・・全て混ざれば黒になる。・・・闇になる。・・・菫子、お前も『黒』の一部となれ!」
そして彼女は溜めた闇のエネルギーを一気に解き放ったのだ。
左手の上から降臨した、暗黒の瘴気で出来た龍は大きな咆哮を上げて菫子に牙を見せる。
「・・・こんなのが私の敵?・・・漫才は止めてほしいものね」
元は治安保護兵でトップクラスの力を誇っていた彼女であった―――そんな龍を嘲笑したのだ。
彼女の元にいた治安保護兵は越しただろう・・・。・・・力がずば抜けて高い彼女に従う治安保護兵は沢山いた。
・・・そんな中の出来事、彼女の心を揺るがせた少女の一言で―――世界は変わろうとしている。
・・・菫子は尖った口調だ。だがその裏には、何処かで―――誰かに甘えたい―――そんな感情があった。
彼女は冷酷では無い。『冷酷に為らざるを得なかった』のだ。
菫子はオデュッセウスウェポンで襲い掛かろうとする魔障の龍に堂々と立ち向かった。
そして大剣の一撃で―――龍を一刀両断したのだ。
一気に粒子に回帰した龍は姿を消し、そこに残ったのは寡黙であった。
「・・・流石、治安保護兵トップクラスの実績だな。・・・期待を裏切らない」
「期待って何?・・・ルーミア、お前が期待することは何だ?」
「ここの鎮圧は誰も私たちと真朋に戦える奴はいなかった。・・・そういうことだ」
「雑魚の分際でよく言えたものだ・・・。・・・呆れた」
菫子はそんなルーミアを馬鹿にした表情をした。
自分よりも弱いくせに強がる奴・・・菫子が最も苦手とした種類であった。
「言わせて貰おう。・・・お前は私と比肩する程の実力は・・・無い。
・・・ここで散れ。そして、その哀れなる死に面を私に見せろ」
菫子はそんなルーミアに瞬間的に斬りつけたのだ。
彼女の動きが読めなかったルーミアは―――その場で立ち尽くしていた。
血塗れのオデュッセウスウェポンはルーミアの腸を抉り、血が溢れる。
それは彼女の眼の色のように・・・。
「全て混ざれば黒になる?・・・光の3原色を混ぜれば白になるのにな・・・。
・・・その格好つけた台詞と服装をどうにかしろ。・・・そして2度とその面を見せるな。
・・・不愉快だ」
◆◆◆
ここで菫子が剣を構えてさとりたちの姿を捜すと、彼女たちは治安保護兵を倒して町の人たちを助けていた。
飛空艇の中に連れられた町民たちの縄を解こうとする。
しかし結びが硬かったのであろう、今のところ助かっていたのはレミリアとフランであった。
2人は何とか飛空艇から脱出し、身を燃え行く家々の瓦礫に隠していたのであった。
「・・・吸血鬼姉妹はここにいたのか・・・。・・・私も手伝うとするか」
縄を剣で断ち切ろうと思った菫子は泊めてあった飛空艇に乗りこもうと―――した。
しかし、急に飛空艇の扉は閉まったのだ。
開閉の音に気付いたジュノアは察知して外へ飛び込むように出て、間に合った。
だが、他の4人は中で閉じ込められたままだった。
「な、何だと!?」
「悪いね菫子、お前の仲間と町の人たちは連れて行くぜ!」
「悪いけど、私たちもいるのよ」
飛空艇の操縦席から顔を覗かせたのは魔理沙と鈴仙であった。
助けようとした5人の隙を窺って、そのまま連れ去ろうとしたのだ。
「お前らの自由にはさせないぞ!」
「そんなの・・・私が赦すとでも思ったか」
ここで立ち塞がったのは・・・ルーミアであった。
懐から飛び出た、生々しい小腸が怪我の重大さを物語ったが、彼女は妖怪であった―――。
「・・・ルーミア・・・!・・・しぶとい奴だな・・・!」
「さ、さとりさんたちが!」
ジュノアの叫びが上がったと同時に、飛空艇はそのまま飛び立ったのだ。
大きなエンジン音を上げて、急上昇した。まるで菫子から逃げているかのように・・・。
・・・これをスクランブル発進と言うのであろう。
「・・・ま、守れなかった・・・守れなかった・・・!・・・どうして・・・」
僅かな一瞬の出来事であった。
血まみれたルーミアはそんな菫子の悲嘆に暮れた顔に薄笑いを浮かべていた。
「・・・力はあっても、行動力は無いんだな」
「・・・そうか」
菫子は無言でオデュッセウスウェポンを構え、目の前にいるルーミアの胸を貫いた。
そして刺さった状態で横に払い、胸と右腹から血が漏れていく。
ルーミアは表情を動かせないほどの激痛に襲われたのだ。
しかし妖怪の身である以上、彼女は死ねない。
―――菫子は容赦なかった。
ルーミアを横に斬り払った後、彼女の脳天を大剣で貫いた。
中から抉られた脳漿が静かな池の流れのように溢れていく。
彼女の持つ、残虐さが表に出た瞬間であった。
ルーミアは呼吸すら困難な状態に陥り、真っ赤な目からは寂しい涙の粒を流していた。
彼女は菫子の禁忌を犯したのだ・・・。
・・・全てを憎み、全てに絶望した菫子を作り出してしまったのだ。
レミリアも、フランも、そしてジュノアも、豹変した彼女を見据えては怯えていた。
「・・・ルーミア、お前にはその姿がお似合いだ」
菫子は脳天に大剣を刺しながら、そう呟いた。
そこには、EXルーミアより真っ赤な眼をした―――菫子が存在していた。