16章 襲撃
走行中の電車の上で、大剣を構えて待ち伏せる菫子。
頬の横から吹き抜ける風が彼女の心の動揺を示しているかのようであった。
降下してきた治安保護兵たちはそのまま群れとなって電車の上に降り立ち、その場にいた菫子と対峙する。
「ミッション『元治安保護兵の反乱』を開始する」
「了解」
菫子と対峙していた治安保護兵たちは本部と連絡をしていた。
曾て菫子も本部からの指示を受けて動いていた・・・。・・・もしかしたら、彼らは自分自身の自己が無いのかもしれない。
「今度の標的は私たちか・・・!・・・悪いが、ミッションは失敗に終わらせて貰おう」
「生意気な口を叩くな!」
治安保護兵たちは束になって電車の上で彼女に剣を向けて襲い掛かったのだ。
計10人の治安保護兵はそんな菫子に牙を剥いたが・・・あっさりと返されてしまう。
治安保護兵の中を潜り抜け、すれ違いざまにオデュッセウスウェポンで斬りつけていく。
着ていたスーツ服の中から赤い内臓が血と共に腹から噴き出る。
そして呻き声と共に電車から落ちていったのであった。
最後の1人を右肩から両断し、左右に身体を裂かれた治安保護兵から分断された腸が飛び出る。
大きなミミズのようなものは他の内臓・・・胃や肝臓と共に雪崩のように体と言う蛹から飛び出した。
まるで成長途中の蝶の蛹を解剖したかのように・・・。
「・・・邪魔だ」
菫子はそんな身体を蹴とばし、電車の上から落とす。
血の引きずられた跡が電車の上に残り、彼女は剣の刀身に付着した内臓を手で取っ払って再び構え直した。
「さあ来い!まだいるだろう!」
彼女の頭上でプロペラを回しながら飛行し続けていたオデュッセウス・アーバンテクノロジーのヘリコプターの操縦士は何処か動揺していたようであった。
どうやら一瞬で全滅するとは予測もしなかった事態らしかった。
「もう上にはいない?」
電車の中からこいしが顔を出して菫子に問う。
そんな質問に、菫子は空を見上げ乍ら呟いた。
「まだ奴らは残ってるはず・・・。・・・油断するなよ」
「うん、分かったよ」
こいしは顔を引っ込め、菫子は気を引かずに天井のヘリコプターを見続けた。
そして1人の人物がそんな菫子の前に舞い降りたのである。
「あんたが主犯でしょ?菫子・・・今、あんたが社内で問題となってるのよ」
「その割には単独で来たのか、霊夢。そこまで問題となってなさそうだな」
「爆弾を落としたり、いろいろやったりしてるわ。・・・今のところ、あんたは全て逃げてきたみたいだけどね」
「ま、まさか今までB町やC町を侵略してるのは・・・私を追ってるからなのか!?」
「半分そうね。あんたが邪魔で仕方ないのよ。・・・大迷惑」
「・・・そうか。私を追って町を侵略したのか・・・。・・・じゃあ何故あの時、私たちはA町を侵略したのか?」
「それは今のあんたと同じように暴れてたからよ。―――でもあんたを沈めるよりはよっぽど楽ね」
「黙れ」
菫子は重たい剣先を彼女に向けた。
冷酷なる視線が、重たい刀身にぶつかる。
「・・・悪いけど、今のあんたは私たちにとって見れば害虫みたいな存在よ・・・、・・・治安保護兵の中でも成績優秀なあんたが敵になったんだから・・・」
「褒めるのか、私を。全然嬉しくないがな」
「問題は、あんたが「治安保護兵」と言う肩書を持ってたことよ。それで勇気を湧かせていろんな町の人々が反乱を起こそうとしてる。
何せ治安保護兵が反乱を起こそうとしてるのよ。・・・内部での反乱なんて、めんどくさいわ」
「それは自分の犯した罪に気づいたからだ・・・」
「自分の罪?所詮はあんたの思い違いじゃない。あんたは過去から逃れられないのよ」
彼女はそんな菫子を嘲笑っていた。
彼女の心を踏みにじるかの如く、呆れた眼差しで菫子を見据えていた。
「・・・菫子、あんたの自由にはさせないわ。オデュッセウス・アーバンテクノロジーには指一本触れさせないわ!」
「それが出来るといいな・・・霊夢!」
霊夢は菫子に向けて、会社から支給された剣を脇の鞘から差し抜いた。
長さは1mと平均的な長さの細い剣を構え、菫子を睨みつけた。
「これより元治安保護兵鎮圧部隊、最後の強襲に掛かります」
「了解。失敗しないことを祈る」
「・・・Mission、Start・・・!」
◆◆◆
霊夢は持っていた剣と共に一気に菫子に接近した。
逆風が彼女を邪魔するが、それでも速いと思える走りは治安保護兵で鍛え上げられたものであろう。
「・・・簡単に死んでたまるか・・・!」
菫子も強襲してきた霊夢に対して大剣を構え、すぐさま受け止めた。
剣と剣がぶつかった時の摩擦音が響き渡り、2人は強風が吹く電車の上で鍔迫り合いをしていた。
「あんたは粗悪よ・・・!・・・作物を荒らす害虫のように、私たちの邪魔になってるのよ・・・!」
「悪いね、そう思われていようが私には関係ない。勝手にそう思ってくれて結構。だからここで死ね」
菫子は大剣の大きなリーチを生かして彼女を遠くに薙ぎ払うと、霊夢はそのまま着地する。
そして懐から何やら黒い物体を取り出したのだ。
「この電車ごとおさらばしてやるわ・・・!」
それは紛れも無い―――手榴弾であった。
霊夢はそれを手に取り、菫子に向かって笑みを浮かべた。気持ち悪い笑みであった。
彼女の本当の心情を浮かべているかのようなものだったのだ。
「さよなら、菫子。・・・あんたの墓標はこの電車の瓦礫ね!あははははは!」
霊夢はそのまま上に投げると風に吹かれて菫子の方へ飛んでいく。
しかし菫子はオデュッセウスウェポンで更に真上に流したのだ。
「な、何ッ!?」
菫子の真上の手榴弾はそのまま空中で爆発し、菫子はすぐさま身を霊夢の方へかわした。
手榴弾の爆発で電車の屋根が崩れ、中が露見したのだ。
菫子は爆発を大剣で盾代わりに防ぎ、煤だらけの視界を右手で拭いた。
「うわっ!?」
「とうとう来たか・・・治安保護兵!」
中の4人はそんな霊夢の襲来に武器を構えた。
「まだ仲間がいたのね・・・。・・・手間をかけさせるわね」
「こっちも非常に手間がかかってるんだ、お互い様だろう」
霊夢はそのまま電車の中に飛び降り、菫子もそれを追いかけるように飛び降りた。
空中で霊夢はそんな菫子に斬りかかったが、中には他の菫子の仲間が存在したのだ。
「このまま倒してやるー!」
ジュノアは持っていた電磁銃の引き金を引き、電車内で放電現象を発生させる。
その放電現象は目の前に存在した霊夢の身体を貫通し、そのまま車外まで放出させる。
その瞬間に菫子は霊夢から離れ、ジュノアの攻撃を察知していた。
「ぎゃああああああああああああああああ!!!」
彼女の断末魔の声が上がったが―――彼女たちは容赦をしなかった。
スーさんはそんな霊夢に向かって手榴弾を投げ、そのまま電車内で爆発を起こしたのだ。
4人は離れていたため助かり、霊夢はそのまま爆発して吹き飛ばされ、手から足から首から、血が飛び出した。
雨のように降る紅。しかし彼女は腸が飛び出すような事は無かった。―――そこには彼女の持っていた力が関係していたのであろうか。
「とどめだ!」
最後に動いたのは、両手に短剣を構えたメランコリーであった。
吹き飛ばされた霊夢に高速で近づき、そのまま足で蹴とばしたのだ。
霊夢は手榴弾によって一部壁を失った電車から吹き飛ばされ、そのまま電車に置いて行かれたのだ。
レールを枕として、彼女は仰向けになって倒れていた。
そして電車は6人を乗せて、哀れ無常にも走り去ったのであった。