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15章 奔放

こいしに連れられて彼女たちはB町が所有する駅まで歩いたのであった。

燃える炎は致し方無く、今は通りすぎることしか出来なかった。

しかし炎はまるで戦いの旅に向かう6人の意思そのものを現しているかのようであった。


「・・・何時から治安保護兵はこんな存在に為ってしまったのだろうか・・・」


不意に菫子は思っていたことを漏らしたのだ。

自分が在籍していた頃は「治安保護兵」の名の通り、町々の治安を守る、警察的な存在であったのに、今では恐怖の対象だ。


「・・・それは分からないわ。て言うか菫子も元々は・・・」

「私も全く覚えていないんだな・・・。・・・いつの間にか洗脳されていて、会社の命令なら・・・上の命令なら何でもした自分がいた」

「・・・そうだったのね・・・」


さとりはそんな菫子を憐れんだ。

菫子を恨もうに恨めない事実・・・彼女もまた、オデュッセウス・アーバンテクノロジーの被害者なのだ。


「・・・治安保護兵も、完全な悪では無いんだ・・・。・・・奴らも、私と同じ被害者なのかも・・・しれない」

「あ、駅が見えてきたよ」


先導していたこいしはそんな声を上げた。

駅も燃えていたが、中心部である町程の被害は受けていなかった。


「ここは余り被害が無いわね・・・」


メランコリーがそう呟くと、さとりは頷いた。


「ここを落とされたら電車が使えなくなるから頑丈に設計してあるのよ。

・・・でも、それもここで役立つとは思っても無かったわ」


駅舎はしっかりとしたコンクリート製で出来ており、こいしは中へと入っていく。

そんなこいしの背を追って彼女たちも駅構内へ足を進めた。

中には木のベンチなどが設置されていたが燃やされており、それ相応の被害があったものの最低限の設備は揃っていた。


「電車は私が運転するわ、D町まで行ってそこからOUTへ潜入よ」

「了解・・・って癖が出てしまったな」


菫子は昔の名残である返事をし、少し照れくさそうにする。

彼女にも羞恥心は存在したのだ。


「でも・・・また襲ってこないかな・・・」

「襲ってくるだろうね。電車が走ってる光景なんて、ご飯の上に梅干しが乗ってるようなものよ」


メランコリーは分かりやすくジュノアに説明すると、ジュノアは下を俯いた。

そこには幼き彼女の心が現れていた。


「・・・どうして・・・分かってくれないのかな・・・」

「それは奴らにも給料とか守りたい家族とかいる。奴らの存在については否定しないが・・・その行為は否定する」

「・・・でも・・・」


何処か上手く表現出来なかったのだ。

心の中に残る靄靄とした気分が・・・彼女の突っかかりそのものであった。


「・・・こんな話をしてたらキリが無いよ。早く電車に乗ろっ」


こいしは敢えて明るく振る舞っていた。

彼女の存在が・・・全員の不安定な心の支えと為るために。


「・・・そうだね。早く乗ろう」


駅に入線していたのは3両編成の小さな電車であった。

スーさんはこいしに続いて電車の中に入っていく。


「いざと言う時の為に、私は電車の上で待機しておく。奴らは必ずやってくるからな」

「分かったわ。運転は私に任せて」


そしてさとりは運転席に入る。

菫子はオデュッセウスウェポンを構え、電車の窓の淵や縁を使って何とか電車の上まで昇る。

架線が非常に邪魔であったが、治安保護兵の襲撃への為なら仕方ない。

メランコリーとジュノアも乗車し、さとりは発車させた。


◆◆◆


電車はゆっくりと加速していき、やがて駅のホームから離れた。

ガタン、ガタン・・・と静かな響きを聞かせ、町を離れて、荒野に出る。

遠くにはC町に落とされた爆弾によって崩れかけたオデュッセウスハイウェイ4號線が見える。


「・・・これが私たちが通った道路か・・・。・・・改めて見ると随分残虐に壊されているな・・・」


菫子はそんなオデュッセウスハイウェイ4號線を見ていた。

途中から瓦礫の山となった高速道路は空しさを漂わせていた。


刹那、耳にヘリコプターのプロペラの音が入ったのだ。

そしてさとりが窓から顔を出して叫んだのであった。


「菫子!前方から3台のヘリコプター確認!」

「了解!この剣の前で絶ち斬ってやる!中の4人はなるべく外に近づかないように!」


そんな菫子の言葉に対し、窓から顔を覗かせて反論したのはジュノアであった。

彼女は屋根の上に乗っている菫子は直接見えないが、上に向かって言い放ったのだ。


「私たちも戦うよ菫子さん!1人で受け止めようとしちゃ駄目だよ!

だってこれは私たちの旅だよ!過去のことにずっと囚われていたら・・・駄目だよ!やっぱり!」


そんなジュノアの発言に菫子は動揺した。

迫りくる3台のヘリコプター。菫子は4人に向けてもう一度言い直した。


「・・・中の4人も、戦えるなら手伝いを要請する!」

「オーケー!分かったよ!」

「そう来なくっちゃね!」

「精一杯戦うよ!」

「これは・・・私たちの戦いよ!」


中の4人もそんな菫子を期待していたのだ。

過去の罪に囚われて自分ばかり責め続ける菫子が・・・可哀想に見えたのであろう。


「・・・そうか・・・」


菫子は仲間の気持ちが初めて理解出来たような気もしたのだ。

今までは自分を抱擁するだけで精一杯であったのだ・・・。

不意な涙を雨滴のように落とす。


そして、左手を胸に当て、鼓動を聞いたのだ。


・・・ほんのりとした暖かさが、彼女の掌に残る。


「・・・さとり、運転は任せた。これより戦闘に突入する」

「1人でも侵入を許したら大変な事になるわ。無事を祈る」


そしてオデュッセウス・アーバンテクノロジーのロゴが刻まれたヘリコプター3台が走行中の菫子たちの電車の真上に到着する。

ヘリコプターの中から、曾てA町へ侵略ミッションを行った時の菫子のように、中から治安保護兵が彼女目がけて降ってきたのだ。


「さて・・・戦おう・・・!・・・お前らの好きにはさせない!」

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