11章 意思
オデュッセウスハイウェイを貫く、悠久なる白線も終わりが見え、バイクはそのまま町に到着する。
爆発で血肉となったC町の人たちの恨みを晴らすべく、彼女たちはそこへやって来た。
・・・単なる自我であろう。
殺された街の人たちは誰を恨むのだろうか。それは誰にも、分からない。
B町にバイクでたどり着いた一行に、町の人たちは驚いていた。
それもそうだろう、何故ならとてつもない轟音が響いたと同時に、爆発の方向から人がやって来たのだから。
「着いたな・・・」
菫子はバイクを停め、そのまま降り立った。
C町とは違う、新鮮な空気が鼻を貫く。
爆発は―――一瞬で世界を消した。死の宣告とも言うべきものなのであろうか。しかしB町の民を氷漬けさせたには紛れも無い事実であった。
「ここが・・・B町・・・」
「・・・私たちが精一杯生きれば、きっと・・・」
「違う」
メランコリーの発言に、菫子はすぐさま否定した。
そこには彼女の信念―――心情が含まれているかのようであった。
「・・・私たちの事を恨んでいるのは事実だ・・・。
・・・何も告げられぬまま死を迎えたのだから。
・・・これは仕方の無いことか?・・・それもまた、違う。これは全て「人為的」な現象に過ぎない。
―――私たちは、この罪・・・永遠なる負の心を持つからに、黒幕を・・・ぶっ潰す」
菫子は怒りを交えて語った―――そこにはオデュッセウス・アーバンテクノロジーへの果てしなき怒りがあった。
まるで怒れる獅子のように・・・心を逆立たせて、全てに怒りが如く・・・。
そんな菫子たちの来訪に気づいてやってきたのは町長であるさとりと妹のこいしであった。
2人は爆発が起きた方向からやってきた4人に問い詰めた。
「貴方たち!一体何があったの!?あっちで!」
「空襲だよ・・・。・・・治安保護兵による、街そのものの『殲滅』」
問うてきたさとりに対し、敢えて「殲滅」という言葉を強調した菫子。
無慈悲にも全てを撃ち砕いた1発の爆弾は―――心を揺らぎ無いものにさせていた。
「空襲・・・」
「・・・みんな、爆弾で・・・」
ジュノアはどうしようもない悲しみを口から零した。
哀れ悲壮なる涙が頬を伝う。
「・・・そ、そうなのね・・・」
「可哀想・・・」
さとりとこいしはそんな菫子たちの話を聞いて気分を落としていた。
隣の町であったC町が爆撃を受けた―――それは許せないことであった。
真摯にそれを受け止めた2人は・・・そんな4人をしっかりと見据えた。
「貴方たちは・・・逃げてきたの?」
「・・・」
そんなさとりの問いに彼女たちは黙らざるを得なかった。
それは彼女たちの犯した罪を漁るものであったからだ。心に残った「負」は、全てを覆い尽くしていた。
「・・・仕方ないだろ。全員が助かる方法は・・・無かったんだ」
「・・・」
辺りに沈黙が訪れる。
それは行き場を失った―――心情の叫びでもあった。
「・・・それならば、私たちも手伝うよ」
不意に口を開いたのは・・・こいしであった。
彼女は透き通った目で・・・何も悪く見ていない目でしっかりと見据えていた。
「・・・え?」
「・・・だって、4人はオデュッセウス・アーバンテクノロジーの攻撃から逃げてきたんでしょ?
・・・流石にこんなの・・・許されないんじゃないかな」
こいしは思っていたことを・・・上手く説明出来なかったが、4人に伝えた。
「・・・やっていいことと、やっちゃいけないことがある。
・・・これは『やっちゃいけないこと』じゃないかな」
「・・・そうね、こいし。私たちも・・・戦う時が来たのね」
さとりもこいしに同調した―――
―――それは菫子に同調したという事であった。
「・・・私たちを・・・受け入れてくれるのか」
「当たり前よ。爆弾から逃げてきたからって殺したら元も子もないわ。
―――それに、何か感じたのよ。貴方たちから・・・希望、とでも言うのかしら」
胸に両手を押しあてて・・・何か暖かいものを感じたのであろうか。
菫子はそんな2人に礼を述べた。
「有難うな、2人とも。・・・でだ」
ここで菫子は話を切り出した。
「私は元治安保護兵だったが、辞めて反逆を起こそうと思う。
・・・どうやってOUTへ行くか、分かるか」
菫子は今まで治安保護兵であったため、ミッション以外では殆ど外に出なかったのが事実であった。
行き方が分からないのだ。あの忌まわしき会社の元へ。
「あそこに乗りこむんですね・・・」
「そうね、私たちは―――戦う。犠牲になった、全員の為に」
メランコリーもまた、固い思いを口にした。
「・・・ならここから走る電車に乗ればいいわ。・・・それで一気にD町まで行けるわ。
後は確か・・・そこから走る電車に乗って、そのままOUTへ行けるわ」
「駅までならこいしが案内するよー」
「・・・助かる」
軽い礼を済ませた時・・・突如「大変だ大変だー!」という声と共に騒ぎが起こったのだ。
それは町の中を伝わり、6人の耳にも入った。
そして慌てていた町民は急いで町長の元までやってきたのだ。
「ど、どうしたのよ!?」
「こここここ鉱山内のききききき機械が突然暴走して人に襲い掛かってきて・・・!」
「機械の故障!?」
「鉱山?」
ジュノアは首を傾げていた。
鉱山といえば、山のイメージが強い。しかし視界の何処にも勇ましく聳え立つ山が見えないのだ。
「うん、といっても『地下鉱山』だからね」
「で、機械が暴走して、今どうなってるのか!?」
菫子は急いでやってきた町民に伝えると、息を過呼吸させながら答えたのだ。
まるでこの世の果てをでも見たかのような絶望の顔で・・・。
「まだ・・・暴走してる・・・!・・・この町も終わりだ!
・・・だって、奴らは町へ出ようとしていて、全員を襲おうとしてる!」
「何だって!?」
さとりとこいしは声を合わせた。
機械の暴走―――少なからず大量の機械を鎮圧させる能力を携えていなかったのは事実であった。
「・・・こ、この町も・・・」
「そんなの許しておけないよ!」
スーさんは怒りの声を上げる。機械の暴走・・・人に襲い掛かるように為るためには何かしらの人為的プログラムが必要だ。
―――黒幕が存在するのだ。町を制圧しようとする者が。
「・・・どうやら私たちの「ミッション」が出来たようだな。・・・受注しよう」
菫子は背中の鞘からオデュッセウスウェポンを差し抜いて・・・3人に言った。
「行こう、その地下鉱山へ。私たちが―――止める」