1章 異変
この小説はオリジナルの兵器が大量に登場します。
そこら辺はお察しください。
その日は何事も無い、平和な休日であった。
小学3年生の少女ジュノアは嬉しそうな表情で机の上に並べられた夕食を見た。
今日は工事現場で働く父、ジェイクが久々に家族の団欒に姿を現したのだ。
いつも父が帰ってくる時にはジュノアは寝ていた為、入れ違いとなってしまっていたが、今日は特別である。
大きなお皿に盛りつけられた若鶏の唐揚げが夕食の色彩を豊かにする。
母、父、そして娘を満遍なく照らす電灯は彼女の表情を示唆していた。
「・・・パパ・・・いつもお疲れ様!今日は私が料理を作ったの!この唐揚げ!食べてみてよ!」
「お、今日はジュノア特製か・・・旨そうだな」
早速箸を掴んでジュノアの作った料理をつまみ、そのまま大きな口に放り込む。
汗と似合う無精髭を生やした彼は味はどうであれ愛する娘が作った料理を味わって嬉しそうな表情を示す。
「お!旨いな!お前も料理が上手になったもんだ」
「ええ、ジュノアはいつも料理の練習をしてたのよ。仕事でいつも遅く帰ってくる貴方の為に・・・」
「そうなのか!こりゃあありがてえな!」
ジェイクはそんなジュノアの頭を優しく撫でた。
固い掌が頭に触れる。早帰りであった父の手にはまだ砂みたいなものがついていたが、彼女はそれこそが父の象徴だとも思っていた。
「いつか・・・パパに美味しい料理を作って・・・満足させてあげたいんだ!
・・・ジュノアね、それが夢なの!」
夢なの・・・
夢なの・・・
夢なの・・・
・・・そう、夢だった・・・
夢であって欲しかった・・・。
「パパ!ママ!どうして・・・どうしてこんな酷いことを・・・酷いことをするの・・・
・・・パパ・・・ママ・・・」
使えそうだから、と新たなエネルギー結晶であるアルカリュキオンの発掘場へ連行された父。
役立たず、と言われて斬り捨てられた母の首。
冷酷な剣を浴び、露見する血管から血が溢れる。残酷なまでに赤く染まった彼女の顔。
平和な街は一瞬で業火と化し、その中で淡々と作業を続けていたのが治安保護兵であった。
「ま、ママ――――――――――――ッ!!!」
そして彼女らは―――ジュノアにも手を出そうとした。
「いいからそこのガキも捕まえるのよ!」
「おいやめろ!流石にそれはやめろ!」
彼女の前に立ちふさがったのは母を殺し、父を連れ去った治安保護兵の同胞。
眼鏡をかけ、マントを羽織る彼女は悲嘆に暮れつつも怯え震えていた彼女の前で仁王立ちを図る。
「菫子!その餓鬼の味方になるつもり!?私たちのミッション内容をド忘れでもしたの!?」
「ミッションは分かっている!ここの鎮圧だろう!・・・でも、対象が違うだろうが・・・」
「・・・コイツは只の裏切り者、って訳か」
そう言い捨てたのは漆黒の両翼を生やした黄髪の少女であった。
「まあそうねルーミア、あんたの言うことと同じよ」
「裏切り者、、、違うだろ!私は・・・こんな小さい子までに手を出さなくても・・・!」
「まあいいぜ、お前は好きにしろ。
・・・その代わり、お前はクビだ。治安保護兵をこの場で辞めろ。二度と姿を現すな」
多くの街の人たち・・・勿論ジェイクも例外では無かった。
全員が手を縄で結ばれ、そのまま治安保護兵用の飛行艇に乗って行く。
そして全員が乗り終え、飛び立った飛空艇―――裏切り者と1人の少女を置いて。
淋しい風が吹いても響くは炎の音。
悲しみも消え、そこにあったのは目の前の人物への恨み。
少女は燃え盛る炎の如く、感情を煮えたぎらせた。
「・・・どうして・・・どうしてこんなことをするの・・・?」
残虐でもあった。恐怖でもあった。
しかし彼女は何故か自分をクビにしてまで庇ってくれた、目の前の治安保護兵が理解出来なかった。
そして支給された大剣を背中の鞘に仕舞い、家と共に崩れる少女を何処か同情した目で見据えていた。
元凶である彼女に同情する資格は無い、それは彼女も理解していた。
でも・・・何処か間違っている。
―――自分も、そしてこの世界も。
「・・・何時から治安保護兵はこんなことをやらされていたのだろうか?」
因みに「オデュッセウス・アーバンテクノロジー」を英略表記で表すと「OUT」になります。決して変な意味はございません。