悪役「令嬢」ではない俺
・女装注意です。主人公女装が苦手な方はご注意ください。
・悪役令嬢モノですが悪役「令嬢」はいません。
・続くか未定で、微妙な終わり方をしています。
「あら、シュリア様。また殿方を侍らせてらっしゃるのね」
「そ、そんな……リオン様、わたし……」
「……ッ!リオン!!」
シュリアという少女がふるふる震えながらこちらを上目づかいに見上げ、王子はこちらを睨む。
後ろにいるその他大勢の男どももこちらをきっと睨みつけてくる。
「あら、本当のことを言っただけですわ」
くす、と悪役スマイルを浮かべる。
きっと今の自分の姿は、絵に描いたような悪役令嬢なのだろうーーーまぁ、令嬢じゃないんだけど。
「俺」の名前はリオン・フォルテリア。
国立魔法学園の女子制服を着て、長い黒髪につり目がちな目の悪役令嬢ってナリをしてるが、れっきとした18歳男子である。
俺がこんなクソ気持ち悪い演技をしなければいけないのには、ある理由があった。
俺の家、フォルテリア家は、王族の血筋の流れたかなり由緒正しい貴族だ。
俺はその三男で、ある程度自由が許されていた。
……そんな訳で、俺はかなり態度の悪いクソガキに育っていた。
自分のやりたいことは何が何でも通す、欲しいものは何が何でも手に入れる。6歳のチビジャ○アンの出来上がりだ。
まぁ専属の家庭教師のおかげで頭は悪くはなかったが、逆に言えばそれ以外人間として最悪な6歳児は、王宮でとあることをやらかしてしまったのだ。
第2王女様のお勉強仲間として王宮によばれた俺は、王女様の可愛らしさに一目惚れした。
そして、俺はーー
『ふっふぇえん!わたくしの、おかあさまのねっくれすーー!』
好きな子をいじめてしまうあの心理で、彼女の大事な大事なーーー王妃様に譲り受けたネックレスを、壊してしまったのだ。
泣く姫さまを見ながら、6歳児の俺でも状況は理解できた。
あ、俺の首、飛ぶな……と。
しかし俺の予想に反して、俺の首が飛ぶことはなく、家にも何の罰もなかった。
その代わり、王と6歳児の俺は、ある契約を結んだ。
今回のことを大目にみる代わりに、
『この先王位継承者争いによって、息子たちの婚約者を決めることが難しい場合、お前を仮婚約者にさせてもらう』
『どういう、ことでしょうか?』
『なに、王妃の座を狙う者たちは容赦がない……本当の貴族のご令嬢ではなかなか上手くゆかぬものでな。
お前は一度は死罪になったようなもの。命をかけて任についてもらうぞ』
そして俺は、宮廷魔術師、国の暗部、王国騎士、そして王家専属の礼儀作法の先生……彼らに、生き残れる力と、そして『本物の公爵令嬢のような』動きを仕込まれたのだった。
隠されてはいるが、俺の実力はおそらく王国最強である。
なんせ暗部のおかげで、毒を食ってもしなない。誰か隠れていても感で分かる。……実は制服にも魔法を封じられた時のため武器も仕込んである。
また、騎士のおかげで、ドラゴンくらいなら一人でヤレる。だいたいの武器は軽く扱える。ついでに、ダメだけど断りきれずに酒の付き合いもしてきたので、酒にはかなり強い。
さらに礼儀作法の先生のオーバーワークで、古代文字まで扱える。ついでに貴族社会の情報はほぼほぼ把握している。
最後に、魔術は全系統を操れるようにーーー王国魔術師たちの、死の淵をさまようような薬の実験によってーーー改造されてしまっている。……これはかなりの激痛を伴い、何度も気を失い痛みで起き、それを延々と繰り返し精神が壊れかけたところを回復魔法で……と随分エグいことをされたのだが。……いくら半罪人とはいえ俺は小さな子どもだったのに、彼らは容赦なかった。
魔力は人並みだったのだけど。
そんなに最強なら、この国捨てて逃げろって感じだけど、それはできない。
契約書によって俺の行動はある程度しばられている。
俺の行動の自由が手に入るのは、この任、第一王子の婚約者……のフリを終えることができた時、だ。
ふと思考を目の前のシュリアと愉快な男達に戻すと、俺が無視しているように見えたのか王子たちはさらにお怒りだ。
「リオンさまっ……どうして、そんなひどい事をおっしゃるのですか!?」
うるうるとわざとらしく瞳を潤ませるシュリアは……正直、可愛い。
俺は、魔術師たちに体も多少薬で成長をいじられているせいで若干華奢で、そして目もぱっちりしたつり目、さらにさらさら黒髪ロングで中々の美少女だが、
シュリアはたれ目で薄茶色の髪の毛はふわふわで肩まで…それになにより胸がでかい。なんていうか、男心をくすぐる容姿だ。
おっぱいおっぱい。
いや中身はあざといビッ○なのは分かってるんだけど、守りたくなるっていうか。
実は俺、割と王子には同情してるんだよな。
そりゃあ俺みたいにシュリアと敵対して、こう、たまにニヤッと優越感〜な笑みとか浮かべたりされなきゃ、この子のブラックさはわかりませんわ。
多分俺、礼儀作法の先生の追加指導で、女を見る目も散々鍛え上げられてなかったら、そして俺が普通に男として入学していたなら、普通に取り巻きズにいたと思うんだ。
薬さえ飲んでなけりゃもう少し背の高い男前に育っていたはずだし。今でも167はあるが。
「とにかく。最近になって子爵家入りしたあなたには、周りの男どもはともかく王子の妃になることはできなくてよ」
「そんなこと……俺がどうとでもしてやる!」
バカ王子よ、好きなのはわかるがそれはちょいと無茶ではないか。
シュリアはかなり可愛らしいけど、妾の子で最近貴族になったばかりで作法もダメダメだし、正直三年閉じ込めて教え込んでも厳しいのではと思う。王妃の器ではないのだ。
「リオン様のお気持ちはわかりますっ……けど私、わたし、王子のこと……いえ、アリウス様のことを愛しているんです!」
「シュリア……!」
なぜか二人は潤んだ瞳で見つめ合い、そして周りの男どもは「こいつらなら認めてやるしかないな……へへっ」みたいな表情で見守っている。
なんだこの茶番。俺は自業自得とはいえ王子の婚約者として女の子と付き合ったこともないんだぞ!
なのに王子てめえビ○チとはいえ女の子といちゃつきやがって……!
思わず王子を睨むが、シュリアはそれが自分に向いていると思ったのか、何だか得意気な様子だ。
どっちかというと、その豊満な胸を押し付けられている王子に嫉妬してるんですけどね。
たとえシュリアが悪女でも、その素晴らしいおっぱいに罪はない。
「リオン……シュリアの為にも、俺はお前に言わねばならないことがある」
うおーすげー胸が、胸がこう、王子が引き寄せたからむぎゅうって……うおお……
「なんでしょう?王子」
うわぁ〜〜やっぱシュリアの胸はこの学園でも上位だな。
俺の取り巻きの令嬢たちもなかなか素晴らしいが、シュリアは最強……もはや最凶、か。
「リオン・フォルテリア。お前との婚約を破棄させてもらう!」
取り巻きたちのはぱいんぱいーんだとしたら、シュリアはぽいんぱいんぽい……
ん?
……王子今なんてった?
「……今、何と…」
脳内がおっぱいでいっぱいな間に、何かだいぶ重要なことを言われたようなーーー
そして王子の言葉から数秒後、パリンーーーと何かが割れるような音が頭の中に響いた。
「ーーーーーーーっ!!!!」
ぶわぁっと魔力が身体の中に溢れる。
ものすごい量の魔力が、体の中を暴れ回る。
「なっーーーこれは一体……」
王子が口をポカンと開けてアホズラをしているのが視界の端に見えたが、俺は自分……の、なのか?
魔力を抑えるのに精一杯だった。
今にも魔力が暴走してしまいそうだ。
苦しむ俺の頭に、ピロリン♪と軽快な音が響いた。
《王族によって契約が解除されました》
《これより制限されていた技能が返還されます》
《魔力ーーローディング中です》
「うぐぅっ……」
あまりの痛みに、思わず膝をつく。
まるで無理やり全属性の魔術回路を造られた時のような痛みが身体中に走る。
ヒール、ヒール、ヒール!!!
ひたすら身体中が壊れるたびにヒールを繰り返して、なんとか精神を保つ。
暫くすると、やっとその恐ろしいほどの力が身体に馴染んだ。
「はぁ、はぁっ……」
周りは突然の俺の魔力暴走を、無言で見つめていた。
なんなのかわからないが、俺の唯一の人並み部分であった魔力が、ものすごく増えているのがわかった。
「何事ですか!!!?魔王でも現れましたか!」
先生たちがものすごい勢いで駆けてくる。
魔王って、そんな大げさな。
「魔力計測計が壊れました……!魔王レベルか、それ以上の魔力を放った犯人は誰ですか……?……まさか、リオンさん……?あなたの魔力は……」
「なんか増えちゃったみたいっす……ってあれ?」
俺はパッと口を抑える。
あれ?
契約で、王子のいる場所、または学園では話し方が令嬢モード固定だから、勝手に変換されるだろうと適当に放った言葉が、そのまま口から紡がれた。
「え?あれ?契約解けてる?……っしゃぁぁぁあ!!!」
思わずグッと拳を握る。
「……はっ」
周りが更に固まっているのが見えた。特にシュリアと愉快な男たちが、何が起こってるんだ、と顔で語っている。
「えっとーまぁー諸事情ありまして………俺は全く!王子のこと好きでもありませんし!それに男ですし!シュリア様はお好きなだけ王子といちゃついてください!」
「なっ」
おそらく人生で好きでないだなんて言われたことのない王子が、屈辱で震えているのが笑える。
「え、えっと……え?あ、はい……」
さすがの腹黒シュリアでも全く追いつけないのか、表情に毒気がない。
「先生方!」
「は、え、おう……?」
「俺は明日から男子生徒として登校しますので、卒業までよろしくお願いします!」
「え」
ビシッと挨拶をしつつ、改めて俺は周りを見渡して言う。
「令嬢のフリをしてたくさんご迷惑おかけしました。こう言ってはなんですが、王命でしたので、どうかお許しください。
明日からは男子生徒、リオンですので、ややこしいとは思いますがよろしくお願いします」
そう言いながら、俺はこの女々しい姿とオサラバする為に、アイスソードをつくりだし、髪の毛をすぱっと切った。
どうせならば逃げろ?今の世の中、魔法学園卒の方が色々と便利なんだよ。
続くかもしれない