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「ねぇ、本当の姿っていうのは見た目だけに言える言葉なの?」
「…解んねえ」
解らない、か…
ラルゴはリディアへ返した自らの言葉に苦笑した。
リディアの言うとおり、本当の姿が目に見える物だけとは限らないだろう。
建て前で物事を語る者だっているし、嘘で生計を建てる者までもいる。
本音と違う建て前を述べる事は誰にだってある事だし、世の中には嘘で生計を建てる者だっている。
その者達のそういった姿が【本当の姿】だと言われれば否だ。
自身を偽って他人を騙す事になる。
自分が【姿眩まし】で種族を偽る事も他人を騙しているようであまり良い気がしない。
自分が絡まれていたのはもしかしたらそういう『種族を偽り、騙していた』事に対する怒りなのかもしれない。
単純に獣人差別からくるものかもしれないが。
目の前で唸りながら首を傾げるラルゴにリディアは笑みを浮かべた。
今日出逢ったばかりだが、目の前にいるラルゴは裏表の無い性格のようだ。
もしかしたら答えが出るまで唸り続けるかもしれない。
現に道中ずっと唸りながらなにかを考えてはため息をつき、何か言いたげに宙を見上げる。
かれこれそれを3時間ほど繰り返し、リディアは話しても曖昧な返事しか返さないラルゴに顔をしかめ、道中彼に踏まれた怒れるスライムやツノウサギを切っては肉や皮を袋に詰める。といったお小遣い稼ぎ……もとい暇つぶしをしながら道案内のラルゴの後を追う。
「少し、意地悪な質問だったね、ごめん」
30匹目のスライムを仕留め終え、リディアはラルゴへ口を開いた。
「…」
「ラルゴ?」
「…」
「おーい、ラルゴ?怒ってんの?」
先程まで唸りながら首を傾げていたラルゴの表情は険しく強張り、目の前の一点を指さしていた。
ラルゴの示した先には幾重にも積まれた石造りの塔が高くそびえ立ち、異様な雰囲気を放っていた。
目的地である遺跡。
街から遺跡までは丸1日程掛かる筈だ。
街を出てから半日程で遺跡に着いた。
いや、着いてしまった。
気味が悪いな、とラルゴは自身の顔に引きつった笑みが浮かぶのを感じた。
「すごいよ!こんなに早く着くなんて!!羅針盤って本当凄いんだな!早くセアラとファリアムを探しに行くよ!」
「あ…ちょ、ちょっと待てよ!」
驚きと嬉々とした表情を浮かべ、リディアはラルゴの声が聞こえていないのか遺跡の中へと歩を進めていく。
「…」
迷わずに来れた。そうリディアは思っているのだろうが、実際は一本道でしかなかったのだ。
羅針盤の力でもなんでもない。
まるで森が目を覚まして地形を変えたような気さえする。
いや、考えるのはやめよう。気味が悪い。
そうラルゴは溜め息を吐くと慌ててリディアの後を追いかけるのだった。