1-1
「…しっかし、お前みたいなのとセアラル・ネルが知り合いだったとはなぁ…」
薄暗い森の中を歩きながらラルゴは口を開いた。
自分から何か話し掛けない限りリディアは黙ったままなのだ。
一人寂しく鼻歌を歌うのも厭きてきたわけで。
「知り合い…というか幼なじみ、かな」
少しの間を置き、溜め息と一緒に呟くリディアの言葉をラルゴは聞き漏らす事なく掬い取る。
「幼なじみか…何か想像が出来ねぇ」
可愛い、とは真逆の凛としたリディアの幼少期は不思議というか当然というか…何故だか想像がつかない。
「王宮剣士見習いになるまではあの街に住んでたんだ。セアラと一緒に道場に通ったりして」
「王宮剣士…だからお前強かったんだな…お互い切磋琢磨してた訳だ」
「いや…泣き虫セアラが私より強くなるのが許せなくて」
「…酷くねぇか、それ」
「単なる子供の嫉妬でしょ?…それに、フランディルもルーもアンタだってセアラの事を知っていた。フランディルはともかく、単なる道具屋のアンタ達が一人の客の事を覚える、なんて余程の事がなきゃ覚えないんじゃない?」
「…まぁな。少し変わった奴だし、少なくともあの街でセアラルの事を知ってる奴は少ないと思うぜ?」
「これは…まぁ、予測にしか過ぎない妄想だけど…きっとセアラは私が知っていた当時のセアラよりも格段に強くなっている筈」
自分の言葉に頷くとリディアは小走りに近い早歩きで森の奥へと向かう。
「待てよ!急ぐと危ないって!」
「そんな腕の立つ冒険者が消えたのは何でだとおもう?」
リディアを追いかけるように一陣の風が吹くと、リディアはピタリと立ち止まった。
「…もしかしたら…私は」
目を覆いたくなるような現実に遭遇するかもしれない。
客観的に見て今の自分を滑稽だと思う。
微かだが、恐れを感じているのだ。
「…ははっ」
浮つき、渇いた笑みを浮かべるとリディアは首を左右に振った。
「ラルゴ、私の前を歩いて。私が闇雲に歩いても迷うだけだろうし」
「あぁ、任せとけ!」
微かに震える手を押さえ、ラルゴに告げるとリディアはラルゴの後を歩く。
「…お前って強いのな」
歩き始めてから暫く無言が続いたが、宙を見上げながらラルゴは溜め息混じりに呟いた。
「…強くなんか無い」
「いや、剣技に優れてる、とかそんなんじゃねぇよ」
幼なじみが死んでいるかもしれない。
そんな状況でのこの依頼。
フランディルも人が悪い、とラルゴは嘲るように心の中で笑った。
ふとリディアの弱さが見えた気がして、ラルゴはほんの少しだけ親近感を覚えた。
ほんの少しの無愛想と口の悪さと酒飲みを取り除けば意外と女性らしさが見えてくるのかもしれない。
「…そういえば、ミリエル何とか~って割と有名なの?」
気を紛らわせたいのかリディアはルーとの会話でも出てきた街で出逢った少女の事をラルゴに訊ねた。
「有名どころか…見えないものは無いって噂の先詠みの巫女姫様だぜ?」
「見えないものは無い?」
リディアの問いにわざとらしく頷くとラルゴは咳払いをして再び大きく口を開いた。