05
そんな最悪の事態が脳裏に浮かんだが、リディアは首を横に振り、フランディルに歩み寄った。
「そのセアラに出された依頼って、どんな内容?」
依頼が成功する見込みが無い場合、別の者がその依頼を請けることが可能である。
二週間も帰ってこないとなるとまず【成功の見込みはない】の分類に入るだろう。
何の連絡も無く、生死不明の状態ならば尚更だ。
「依頼内容は…申し上げられません」
「何でだよ?!コイツの知り合いが行方不明なんだろ?!」
「守秘義務、というものがございます」
声を荒げて訊ねるラルゴに冷ややかな口調でフランディルはそう伝えた。
「守秘…義務…」
「えぇ、このギルド…【link's】に属する者でなければ依頼内容を閲覧する事は出来ませんし、請け負う事も出来ません」
ギルドに加入し、依頼をこなせばある程度金は稼げる筈だ。
雇い主を捜すよりもギルドに入る方が人捜しに都合が良いかもしれない。
「…ギルドに加入する条件は何?」
「…こちらから提示する依頼の達成、ですかね」
重く口を開くリディアに静かな口調でフランディルはそう述べると一枚の羊皮紙を取り出し、羽根ペンを滑らかに滑らせ、文章を書き込む。
「内容は?」
「行方不明になったセアラル・ネル及びその妹のファリアム・ネルの安否確認。依頼者は…私です」
その羊皮紙をリディアに手渡し、受け取るのを確認すると「請け負うならばサインを」と付け加え、先程使用していた羽根ペンを差し出す。
「場所は…眠れる森?」
依頼書の内容に目を通し、内容を確認しながらリディアは場所の欄を読み上げ、首を傾げた。
「正しくはその奥の遺跡、だけれど…」
「迷えば抜け出す事が適わぬ森、でしたね」
ルーが頷くように口を開くとフランディルは頷き、「どうします?」と視線でリディアに訊ねる。
「行くよ。生きてるにしろ死んでるにしろハッキリ確認しなきゃスッキリしない」
「…変わったヒトですね。貴方は」
ふぅ…と微かに色気を帯びた溜め息を吐くと、ルーは頷くように口を開いた。
「ラルゴ、上司命令です。リディアさんのお手伝いをしてきなさい」
「え、手伝いって、店長…!!」
「有無は言わせませんよ」
驚くラルゴにルーは笑顔で微笑む。
その笑みに寒気を感じ、ラルゴは黙って頷いた。
「悪いけど…絡まれて手も出せないような人を守れる自信、無いわよ?」
「ふふ、面白い事を仰る」
「何も知らないのですね」と言いたげに笑うルーは人を馬鹿にしているようにも見え、思わずルーを睨みつけるリディアだが、ルーは微塵も気にしていないようだ。
「ラルゴは確かに弱い。【犬】ですからね…しかし、道案内をするのに適した人材は彼以外には居ないでしょう」
「…どういう意味?」
「彼の嗅覚は狼や他の犬科の者には劣りますが彼等は気難しい。その点、ラルゴをご覧なさい。その気難しさは皆無でしょう?」
「…確かに」
「何か心なしか貶されてる気が…っていうか店長珍しいですね、タダで人を派遣するなんて」
ラルゴの言葉にルーの眉がピクリと反応する。
「誰がタダで、と言いましたか?」
「え…だって上司命令…」
「遺跡の奥深くに純度の高い紫水晶があるそうなんですよ」
「…へ?」
「ミリエル嬢の護衛の方からの依頼で…紫水晶で作った鈴の腕飾りが欲しいそうでしてね」
「…」
「ですから正直の所、道案内はついでと考えていただけると嬉しいです」
「…アンタの上司って本っ当にいい性格してると思うわ」
言葉を失うラルゴにリディアは大きなため息を吐き呟いた。