04
「…まぁ、よく思われていないのはお互い様だと思うけど」
獣人とヒトとの争いはリディアの幼い頃から続いていた。
故に街中での喧嘩は特に驚くような事では無く見慣れている光景だ。
「私にはそんな事知ったこっちゃないし。それより今私にとって大事なのは雇い主と人を捜すことなのよね」
「雇い、主…ですか?」
「傭兵は雇い主がいないと生活出来ないから…と、あとはどこかで部屋でも借りないと…」
予想だにしないリディアの答えにルーは驚いた。
この街で部屋を借りたり家を買う事自体難題である。この数年のうちに土地代が跳ね上がってしまったからだ。
短期間ならば宿屋に泊まればいいのだが、宿屋は一つしかなく、その宿屋はというと今いるこの酒場の二階だ。
しかし、店主の妙なコレクションの展示室へとなり果てており、現時点での宿泊は正直難しいだろう。
「…実はさ、昔この街に住んでいたんだけど、ちょっとの間に街が様変わりしててさ。知り合いの家に行こうにも全然解らないんだ」
「知り合い?」
「あぁ。セアラル・ネルって人なんだけど…」
「へぇ…貴方がセアラのお知り合い、ですか…」
ラルゴの問いに頷き答えるリディアにルーは頷き、口を開いた。
「セアラを知っているのか?!」
「知っているも何も…フランディルのギルドに所属している冒険者の一人ですし、うちのお得意様ですからね」
「…ギルド?」
「お嬢さんのような種族に偏見を持たない者達の集まり…とでも言えば良いのかな」
読んでいた本を閉じ、カウンター越しにフランディルは囁くように呟いた。
「…しかし、残念ながらセアラは二週間前に依頼人の元へ行ったきり帰ってきてないんですよ。妹のファリアムと共にね」
「…帰ってきていない?」
「えぇ、報酬は…ほら、此処に」
ずっしりとした重さの皮袋をカウンターの上へ乗せるとフランディルは再び大きな溜め息を吐いた。
冒険者が依頼中に息絶えることは少なくはない。
…もしかしたらあの兄弟は既に他界しているのかもしれない。
頭の先から急に冷えていく感覚を覚え、一気に酔いが冷めていく。