03
「はじめまして、私の名はルー。隣の通りで道具屋を営んでいる者です」
そう、優雅に微笑むと握手を求めるようにリディアへ手を差し出しす。
「私はリディア。傭兵よ」
「リディアさん…良いお名前ですね…ところで…」
にこやかに微笑んでいた表情から一変、金に光る鋭い眼光でリディアを睨む。
「私の部下、ラルゴとはどういったご関係でしょうか?」
助けだされたかと思えば助けた側の人間が絡んできた側とグルだった。という事も多いから不審な目を向けられるのは仕方の無い事なのかもしれない。
「失礼ながら…あなたはこの辺りで見かけない顔なので」
しかし、やはり来たか。という問いかけに心底面倒臭いとリディアは大きな溜め息を吐いた。
「別にさっき出逢ったばかりってだけだけど?そんなに私って信用ならないのかしら?それとも新手の言い掛かりか何か?」
善意で起こした行動だが、面倒な事に巻き込まれるのは御免被りたい。
しかし、酒も入っていたからか、リディアの言動はまくし立てるような言い方になり「売られた喧嘩は買うのが礼儀」とでも言いたげな姿にラルゴは恐怖を感じ、尻尾を丸くした。
「…あなたという方は…ッ」
「て、ててて店長この人…いや、リディアは…」
眉間に皺を寄せリディアに歩を進めるルーにラルゴは慌ててリディアとラルゴの間に割り込んだ。
「何ですか?」
怪訝な顔をして睨み付けるルーにラルゴはすぅ…と深呼吸をし、口を開いた。
「絡まれていたオレを助けてくれたんですよ」
「絡まれていた…ラルゴ! そういえばお前…姿眩ましはどうしたのですか?!」
ラルゴの頭にちょこんと生えた犬耳とお尻から生えた尻尾を見比べ、ルーの顔色が真っ青になる。
そんなルーを見ながらラルゴは頬を掻いた。
「いや…あれだ…絡まれた相手が持っていって…」
「どのような者が持って行ったのですか?酒代にするからと見知らぬ無作法な女に盗まれたんじゃないですか?」
「無作法な女」とはリディアの事だろう。
「ヒトの男。
…まぁ、その男は巫女姫の護衛が連行していったから今は何処にいったのやら…」
眉間に大きな渓谷を作ったリディアは怯えるラルゴと慌てるルーにこれ見よがしにジョッキを見せつけ、ゴッゴ……と喉を鳴らし、2杯目を飲み干すと「げぇぇっふ」と大きなゲップを2人に浴びせ「おかわり〜❤︎」とジョシュアにおかわりを要求した。
「巫女姫というと…ミリエル嬢の事ですか?」
3杯目の泡立つ炭酸酒を美味しそうに口付けるリディアを横目にルーは溜め息を吐いて首を横に振った。
「教団が大人しく返すとは思えませんね。高価な物ですし、懐に入れられるのがオチでしょう…」
「…店長、オレは別に…姿眩ましで体を隠す事自体気分の良いもんじゃないっていうか…」
「貴方という人は…種族同盟が結ばれたのはカタチだけだと何故理解してくれないのですか…貴方に何かあったら私は…ッ」
ラルゴの襟を掴み、絞り出すような声を漏らすと、自らの右手にはめたいくつかの金の指輪のうち1つを外し、ラルゴへ手渡した。
「…怪我をして痛い想いをするのはラルゴだけではないのですよ?」
「…」
「受け取ってやれよ。自分の事を考えてくれる奴が居るって良いことじゃぁん?」
すっかり出来上がったリディアの言葉に黙って頷くとラルゴはルーから指輪を受け取る。
「…オレがこれを付けたら店長は…」
「今渡した指輪は【眼】を制御する物でしたし…ラルゴの様にヒトに近い獣人ならば問題無く使えますよ」
そう微笑むルーの瞳は先程の穏やかな瞳ではなく、爬虫類のような冷たい瞳に変わっていた。
「おぉ、ドラゴンみたいじゃない。そっちの方がカッコイイわよ〜?」
「…私達獣人はヒトにあまり良い印象を持っては居ないのですよ」
目の前で人差し指をくるくると回すリディアにルーは大きくため息をついた。