03 オドとマナ
オドとはなにか?
生き物が生きている限り常に保有し、生成し続けている力だ。その保有容量と生成量は、常に一定だ。運動や休息で生成量が変わったりはしない。
例えるなら保有容量がコップの大きさで、生成量がそれに常に注がれる水道の水の流量となる。
ゆえに、オドの保有量が保有容量を超えれば、オドは体外に溢れ出す。オドが目視出来るならば、湯気のように身体から出てるのがわかるだろう。
この世界の生き物達にとってはごく当たり前のことだ。その事で体調を崩したりもしない。
また、強い感情によって保有しているオドが放出される事もある。コップに強い振動が加えられ、中の水がこぼれ落ちるようなものだ。
これらの溢れ出た、もしくはこぼれ落ちたオドの事は余剰放出オドと呼ぶ。
それ以外にオドが体外に放出されるのは魔法を使用した時だ。この世界の人間にとって、オドとはゲームでいうMPと同じ扱いだ。
少量のオドを使う魔法ならば、効果はささやかなもの。逆に大量のオドを使う魔法ならば、大きな効果をもたらす。
オドの保有量が保有容量に対して少なくなると、多大な疲労感や倦怠感を覚え、さらに少なくなると意識が保てなくなる。
魔法使いもしくは魔導師などと呼ばれる魔法を使う者は、オドの保有容量と生成量を鍛錬などで増大させることに心血を注いでいる。
この世界の人間社会にとって、魔法は困った時に最も頼りになる強大な力だからだ。
この世界の人間にとって、オドとは重要なモノだ。また、オドに対比するマナというモノも存在する。
オドとマナ。2つを総称して魔力と呼ばれている。
そもそも一般的にはオドとマナという言葉はあまり使われず、使うのは魔力という言葉が一般的だ。
オドが生き物が生成する魔力なのに対して、マナは生き物の体内以外、世界のどこにでも存在する魔力だ。
マナはオドに比べて扱いにくいが強力で、どこにでも大量に存在する。
魔法使い達はオドを呼び水にマナを使用し、強大な魔法を行使する。
そのため、オドよりもマナの方が重要であると主張する魔法使いも多い。
さて、ここまではこの世界の人間の見解だ。
ダンジョン・マスターや天使などの、いわゆる天界の者たちは、オドやマナに対しては違う見解を持っている。
「そもそもっ! 神さまが生き物にオドを生成する機能を付けなければ、私達がこんなに苦労することなんてなかったのです!
神さまは私達にたいしてもっと福利厚生を充実させるべきです! 大体、ほぼ無給なんてブラック過ぎます。神さまのうっかりの尻ぬぐいに私達がこき使われるんですよ!」
芝居のように嘆いていたリーチェはあっという間復活し、俺があっという間にオドを収集してしまったことにエキサイトしている。
成果を上げる俺に文句を言う訳にもいかず、自分の境遇に対してボルテージを上げていた。
だがそれは二重の意味で天に唾する言葉だと思うのだが。
「その神さまのうっかりが無かったら、そもそも俺たちはここに存在していないだろ?」
呆れながら指摘する。ダンジョン・マスターとして刷り込まれた知識には、俺たち天界の者達の存在理由もあった。
神さまが天使を創りだしたのは、マナ対策の作業要員のためだ。
人間達はまだ気がついていないようだが、マナには有る重大な性質が存在している。
それは自然には消失しないという事と、高濃度に濃縮されると地獄を顕現させるという事だ。
一番マシなのが核爆弾なみの爆発。
最もたちの悪いものが、【死蟲産獄】と呼ばれた地域の生成だ。
その地域の全ての物質が羽蟲へと変換された。そこに生息していた動物、植物はもちろん、土壌や岩石、風として流入する空気すら同様に。
羽蟲は、ただひたすらに遠方へと飛び続け、死病を撒き散らした。
羽蟲の飛行能力は高く、なおかつ感染率ならびに致死率が高い病だったために、当時の生物のほとんどが死に絶えたらしい。
慌てた神さまが、なんとかするために創りだしたのが天使という種族の始まりだ。
天使という種族はそんな経緯を経て創りだされたために、マナに対応する能力に特化されている。
マナが一箇所に集まらないように、天使達がマナを散らし、地獄の出現は抑えられた。
が、マナは自然には消えない。天使達もマナを消す事はできなかった。
さらに、何故がマナの量が年々増え続けていた。
そこでマナの性質を調べてみると、とんでもない事実が判明した。
マナは、オドが時間経過によって変化した代物だったのだ。
オドは生き物が生きている限り生成され続けている。
そしてマナは自然には消えない。
そして誰にもマナを消すことは出来ない。
その事実が判明した時、神さまに抗議する為に神さまvs天使達の大乱闘が勃発した。『天使達の反逆戦争』と人間たちの神話には残されている。
それはともかく、天使達の抗議運動は、そんなことをしてる暇など無いとの意見により自然に終息する。
幸いな事に、マナを消滅させる手段はその後すぐに判明した。
それはオドを有る一定の濃度のマナに混ぜるという方法だった。使用するオドの、十倍ほどの量のマナが消滅する。だが、使用したオドはマナへと変換してしまう。
困ったのは天使達だ。マナの操作能力では随一だが、オドの操作能力並びに生成能力は人間と大差はない。自分の生成したオドでマナを消していっても焼け石に水だ。
そこで神さまはオドを集める為に新たな種族を創られた。それがダンジョン・マスターなどの種族だ。人間たちには『天使達の反逆戦争』の罰として堕天使にされた元天使と勘違いされている。
ダンジョン・マスターはオドの収集と、それらがマナへと変化しない様に保管するために、高いオド操作能力に特化している。逆にマナの操作能力はそれほど高くはない。
マナの消失作業には天使とダンジョン・マスターの共同で行う事が一般的だ。
生き物がオドを生成するからこそ、俺達は今ここに存在している。
「それもそうですが、もっと楽しみたいと思ってもバチは当たらないはずです」
「それは確かに」
辛いよりは楽しい方がいいというのは心底同感だ。情報ウインドウを操作しながら俺は言葉を続ける。
「そのためにはまずは土台を創りあげなきゃならないんだがな。その方が心置きなく楽しめるってものだろ」
「ふう……。ユウさんはお真面目さんですね」
リーチェはふよふよと俺の背後に回りこみ、情報ウインドウを覗きこむ。
「それで今は何をしているんです?」
「シミュレーションさ。ここと同じように肉屋の隣にコアを設置した方がいいのか、それともここのコアからダンジョンを伸ばして別の肉屋の屠殺室に繋げた方がいいのか」
「ふーん。まあ確実に後者の方でしょうね。ものすごく面倒くさそうですが」
前者は屠殺を行っている肉屋の近くに部屋を確保しなければならないが、ダンジョンを作る際の設定は簡単だ。逆に後者はダンジョンの領域を触手のように伸ばして屠殺室に繋げる方法だ。地形変化を使っていいのならば何も考えすに済むのだが、そういうわけにも行かない以上、街の構造に合わせてダンジョン領域を設定していかなければならない。
「ああ、さすがにダンジョン・コアの設置コストがデカすぎる。街に一つがちょうどいいんだろうな」
「そもそも、ユウさんの使い方は想定されてないと思います」
「かもな」
リーチェの呆れたような声に俺は笑う。
「それに、いずれはこの街全域をダンジョンにするつもりだから、複数のコアがあると区画分けが後々面倒になる。今は面倒だがまあ仕方ないさ」
「え? この街全部をダンジョンにするんですか?」
「言ってなかったか?」
「聞いてませんよ! え? どういうことです?」
「屠殺される動物のオドは回収ができるって実証できたんだ。次はこの街に済む人間達の余剰放出オドを回収しようと思ってな」
「余剰放出オドを回収ですか……」
眉根を寄せてリーチェはうなる。
「それってマズくありません?」
「何がだ?」
「ユウさんの作り上げようとしてるダンジョンはハッキリ言って防衛能力はゼロです。この部屋に騎士団が踏み込まれたら、あっという間にダンジョン・コアを破壊されます」
「そらそうだな。ここの建物も何もいじってない以上、ドアを蹴破ることもたやすいだろうな」
「普通なら、防衛能力を高めてからダンジョンは広げるものです。それでも私がダンジョン・コアを設置してすぐにダンジョンを広げてもいいと思ったのは、このダンジョンの隠密性が凄まじく高いからです。
だれもこんな商店街のすぐ裏手のアパートの一室がダンジョンの心臓部とは思いません。言い出す人間がいたら頭がおかしいと思われるだけです」
「それは確かにな。なぜだか知らないが、ダンジョンといえば人里離れた場所に有るものだと思ってるみたいだし」
「んあ? えーと……? ……まあいいです」
なんだ? リーチェは何を戸惑ってるんだ?
「ともかくです。このダンジョンは、街の人間達に気付かれない様にしている事で成立しているのです。
ですが、人間達の余剰放出オドを回収していったら、それはおかしいと言い出す人間が現れかねません」
「それを言い出したら、肉屋からオドを回収している時点で同じだろう?」
「全く違います。
いいですか、ユウさん? 肉屋の屠殺室に、オドを認識出来るような、特殊技術持ちの人間がどれほど立ち入ると思っているんですか。
屠殺室に足を踏み入れる人間は、肉屋の店員と家畜を卸に来た農家の方ぐらいです。その中にオドを認識出来る人間が居る確率なんてとんでもなく低いんですよ。
逆に不特定多数の人間からオドを回収していったら、オドを認識出来る人間が対象となる確率が跳ね上がります」
「ああ、そうか。そういう問題もあるのか」
情報ウインドウを呼び出し、巨大データベースにアクセスする。条件づけは【王都アルヴェントに生存している、オドを認識できる人間の数】とする。
結果は百五十七人。この人数が多いのか少ないのか。
いや、アルヴェントの不特定多数の人間からオドを回収するには多い数だろうと考えなおす。
「困ったな。余剰放出オドを回収出来ないなら、王都全域をダンジョンにしてもうまみは少ないぞ……」
一人の人間の余剰放出オドは微々たる量だが、王都人口およそ23万人分ならば膨大な量になる。たかが百五十七人を避ける為に放置するのはあまりにももったいない。
「うーん、認識できる人間を始末するのはダメか?」
「ダメでしょう。貴重な特殊能力者を百五十七人も始末したら、騎士団に嗅ぎつけられます」
「だよなぁ」
問題が無いなら始末した方が面倒がない。情報ウインドウに表示された条件と、その結果の数字を睨みながら俺は唸る。
と、この条件だと、余剰放出オドを認識できるとは限らない事に気がつく。【王都アルヴェントに生存している、余剰放出オドを認識できる人間の数】に条件付けを改める。
結果は四十一人。微妙に多い。
「おしい」
リーチェの声を背にもう一つ思いついた条件を追加する。
【その四十一人の中で、余剰放出オドをダンジョンによって回収された場合、気がつくことができるほどのオドの認識能力の高い者の数】
その結果は一人。
「よし。こいつさえどうにかすれば問題はない!」
すぐさまその人物のプロフィールを表示させる。
「ん? 何だコレ?」
「おや? こう来ましたか。どうすしますか? ユウさん? 始末します?」
「いや、その必要はないだろ……」
ニヤニヤ笑いながら問いかけるリーチェに俺は気の抜けた調子で答えた。
プロフィールには顔写真と共に経歴が表示されている。
名前はルーチェ。性別は女。年齢は生後二ヶ月。
「何も知らない赤ん坊だ。この子が物心つく頃には、余剰放出オドは回収されるのがごく当たり前の光景になる」
「そうですね。両親も行政関係や魔法関係にも縁が薄いようですし、放置しておいても問題は無いでしょう。
それに赤ん坊の頃にそういう能力が高くても、成長と共に無くなるのはごく当たり前に有ることです」
地球における、霊感をもった子供と同じようなものかと納得する。
「じゃあ、この街の全域ダンジョン化は進めるってことでいいな?」
「そうですね。ただ、それと同時にこの部屋の防衛能力の向上も行う事を進言しておきます。さすがにそんな規模のダンジョンのコアを無防備にしておくのはおっかなすぎます」
「了解」
まあ、この部屋から行ける地下室を作って、そこにダンジョン・コアを移動させればいいだろう。ダンジョン・コアは一度設置すれば水平方向には動かすことは出来ないが、垂直方向には自由に移動出来る。
「にしても、都市部全域を覆うダンジョンですかー。それなら私のお仕事を楽になりますねー」
「リーチェの仕事っていうと、マナの管理の事だろう?」
リーチェのぼやきとも取れるつぶやきに、俺は広げるダンジョンの領域の範囲を決めながら応じる。
「ええ。ひたすら増え続けるマナを一箇所に集まらない様に蹴散らしたり、一時保存のためのマナ石に固定化したり、効率よく消す為の濃度調節したりの、生産性のないお仕事です。
この街のオドが全部回収されるなら、マナの量は僅かでも少なくなりますから。……といっても焼け石に水どころか溶岩に一つの水滴程度でしょうけど……」
ズーンと背後に闇を背負ってリーチェはぼやく。
「ああ、マナ災害で天使達が作られてから今で大体三千年位か。今の世界のマナ量はどんな感じなんだ?」
「ギリギリで現状維持ですよ。
ちょっと気を抜いてると、あっという間一箇所に集まってドッカンです。
それに現状維持してると言っても、天使達が必死こいて余剰のマナをマナ石に固定して、インベントリに大量に突っ込んでなんとかと言ったところですから、実際は微増といったところでしょうね」
「マナ石?」
なんだろうか? ダンジョン・マスターとしての知識にもない言葉だ。
「ん? ああ、ダンジョン・マスターには直接関係の無い事ですからユウさんは知らないんですね。
マナ石とはコレの事です」
と、インベントリから取り出した小さな石を渡される。
形と大きさは、直径二センチほどの真球だ。赤く透き通り、宝石のようにも見える。
「ほお、綺麗なものだな」
「色はいろいろありますよ」
複数個の形は同じだが別の色の石も渡される。
「マナというのは有る一定量のマナを一箇所に集中させると固形化するんです。それがマナ石です」
「一箇所に集中って大丈夫なのか? マナ災害は起こらないのか?」
「その点は大丈夫ですよ。一定量といってもマナ災害が起きるような量には到底届きません。
ちなみにマナ石一個で、大体冒険者十人分のオドがマナに変換された程度の量です」
「マナ石一個って単位にするってことは、他の大きさはないのか?」
「ないですね。必ず決まった量でないとマナ石は作れません。そのくせ、溶けて小さくなるんですよ、コレ」
「溶けるのかコレ?」
宝石じゃなくて、あめ玉か?
「溶けると言っても数十年はかかりますけど、マナに戻っちゃうんです。だからマナをマナ石にしてもそこら辺に放置は出来ないんです。
仕方なく、時間経過のないインベントリに大量に突っ込んで放置してるってワケです。
天使のインベントリには、最低でも数万単位で肥やしになってるでしょうね」
「最低でも数万って……。リーチェのインベントリにはいくつ入ってるんだ?」
「数を確認したら気分が悪くなるので、知りたくもありません」
死んだ魚のような目で拒否された。
「お、おう、そうか」
「それにマナ石の山もいずれは処理しなくちゃならないんですよ? ただでさえ世界に漂ってるマナを何とかしなくちゃいけないのに、後回しにした仕事が凄まじくあるって突きつけられるんですよ? ユウさんにはわかりますか!? この恐怖がっ! 神さまにはもっと天使を増やしてくださいって頼んでも、人間たちの信仰が足らないからもう増やせないって! いや、わかりますよ! わかりますけどもっと人員を増やしてもいいとおもいませんか?! ダンジョン・マスターはポンポン増やすのになんで増えないんですかぁ! いや、わかりますよ。ダンジョン・マスターは絶対的に量が足らないから増やせるって事は。けど、けど来る日も来る日もひたすらマナ石を作る羽目になるってどういう事なんですかぁ!
もう、マナ石を作るのはもう嫌ぁ……」
頭を抱えて嘆くリーチェに俺はドン引きだ。
「お、落ち着け。聞いた俺が悪かった。だからな、落ち着くんだ。今のリーチェの仕事は俺のサポートだろう? それにダンジョンを作れば、僅かでもマナも使うから、お前の仕事も楽になるはずだ。そうだろう?」
「ハッ! そ、そうですね。もう、マナ石を作るだけの日々は終わったんでした……。すいませんユウさん。みっともない所をお見せしました」
「いや、落ち着いたんならそれでいい」
もしかしてリーチェは、マナ石を作るだけの仕事で心を病んでしまったから、俺のサポートに付けられたんだろうか。
優しくしてやろうと心に決める。
「なんでしょうか。このユウさんの目の生暖かさは」
「気のせいだろう。あ、とりあえず。この石は俺のインベントリに突っ込んでおくからな」
軽く言って、マナ石を彼女の視界から隠す。話題を速やかに変えよう。
「とりあえずダンジョンの設定は終わった。すぐにでも広げよう」
使用可能のオドをほとんどを使い、ダンジョンの領域を広げる。
その範囲は王都アルヴェント全体の千分の一も無い。しかし、王都の広さを考えれば仕方がない。
最初期のダンジョンが広げる範囲としては破格の広さだ。
コレほどの広さを覆えるのは、モンスターを生産せず、地形を全く変化させず、ダンジョンの保護機能も機能させていないためだ。
ついでに言うと、いわゆる瘴気と言われる、生きている状態から強制的にオドを奪う、オド収奪機能も動かさない為に、さらにダンジョン領域を広げる際のコストが低下している。
このダンジョンの機能は唯一つ。生き物の、死亡時と通常時に放出されるオドを回収する機能のみだ。
最優先でダンジョンとするのは、街に点在する肉屋。ここで日常的に屠殺される家畜は大量のオドを供給してくれるだろう。
オドの回収路として、この部屋から放射状にダンジョン領域を伸ばして他の肉屋と接続する。
その際、出来る限り繁華街の人通りの多い道を通るようにする事を忘れない。時間帯によって人口密度は変化するが、大勢の人間の余剰放出オドを回収できるからだ。一部スラム街も通ったが、繁華街の人口密度が高い為に許容する。
住宅街、貴族街、並びに王城の敷地は、回収路となるダンジョンにすることは避ける。人口密度が低いために価値が低い地域だからだ。
これで今のところ広げられる限界だ。
これから一気に回収できるオドが増えるだろうから、次に範囲を広げるのはそう先の話ではない。
ダンジョン・コアに手を触れ、スキルを使用する。
「【ダンジョン・マスタースキル使用。ダンジョン領域拡張】」
ダンジョン・コアが光を放ち、そして光が収まる。
指定通りにダンジョンが広がっている事を確認する。
「地味ですねぇ……。ダンジョンが広がる時って、こう、ズゴゴゴゴッて感じじゃないんですか?」
「このダンジョンは隠密性が肝なんだろう? ああ、後これか。【ダンジョン・マスタースキル使用。ダンジョン・コア移動】」
ゆっくりとダンジョン・コアが地面に沈んでいく。俺だけが自由に取り出せる、コアの床下収納だ。地下室は後で作ることにする。
「さて、これでとりあえずの仕事は一段落したわけだが、飯を食いに行くか」
「ご飯ですか? 私達は食事を取る必要もありませんけど?」
天界の者達は食事ところか睡眠すらも取る必要はない。だが――
「必要は無くとも楽しむことはできるだろう? せっかく街中に拠点を作ったんだ。都会の味を楽しまなくちゃ損だろう?」
幸いなことに、この国はメシマズの国ではない。
「ユウさんはご飯を食べるために此処にダンジョンを作ったんですか?」
リーチェの疑いの目に、俺は肩をすくめる。
「さて、どうだろうね。けど、仕事には息抜きは大切さ。そうだろう?」
息抜きもできなければ、肉体的にも精神的にも頑丈なはずの天界の者にも限界は訪れるのだから。