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16 発見

 アパートの部屋に戻って一番はじめにやったことは、ダンジョンへ潜りドロップアイテムを手に入れた人々に対して、警告を与えることだった。


【欲望を導く杖】を複数箇所へ同時に送り込むと、


『騎士団が魔導具を奪っているので、店に売却する場合は気をつけるように』


 そう告げると、彼らの返答も待たずに杖を回収する。数回に分けて行い、警告の作業はすぐに終了した。


 彼らの反応からすると、すでに騎士団に魔導具を奪われた者も多数いたようだ。

 だが残念ながらこれ以上のフォローはする気はない。運が悪かったと諦めてもらうしか無い。


 それから俺は状況確認の為に巨大データベースを漁りまくった。


 巨大データベースは現在進行形の出来事の場合は、雑多なノイズが多く混じるために情報源としてはあまり信用できない。巨大データベースが最も得意とすることは確定されている状態をピンポイントで知りたい場合だ。


 例えば、特定の個人のある時刻の発言が知りたいとしても、わかるのは言った内容まで。誰に向かって言っているのかは別途検索しなげればならない。


 王城を中心とした、ダンジョンへの対応を話し合う情報を探っても、雑多すぎてよくわからない。

 会議場での会話を知ろうにも、小声やささやき声も発言者と同じ調子で収録されている有り様だ。議論は紛糾しているようで、複雑さがましている。


 だが、書類に文章化されれば、会話の情報を参照するよりもわかりやすい。話し合った内容よりも、王城で制作された文章を中心に確認を続けた。


 そして、ようやく見つけたその一文に俺は乾いた笑い声を上げた。


「はっはっはっはっは」

「うわぁ……」

 

 テーブルの向かいに座るリーチェは、こちらの表情にドン引きの様子だが、俺は気にしてはいられない。

 しばらく続いた笑いの発作が収まると、俺はポツリとつぶやいた。


「……マジで王都にモンスターどもを放ってやろうか……?」


「やめてー!! ユウさん! 洒落になってないから!!」

「ハッハッハ! 安心しろリーチェ。軽い冗談だから」


 向かいのテーブルから身を乗り出し、というよりテーブルの上に浮くリーチェは、俺の襟首を掴んでガックンガックンと揺さぶる。

 

「冗談だっていうなら、その怖い顔で笑うのはやめてくださいよー!!」

「そんなに怖い顔をしてるか?」

「してますよ! 子供が見たら泣き出すどころか。涙が引っ込んでひきつけ起こして気絶するくらいに怖い顔です!!」


「……そんなに怖いのか」


 あまりの表現に内心傷付きながら、己の頬をなでる。

 そんな俺の様子は気にも留めず、すとんと椅子に座り直したリーチェは聞いてくる。


「それで? なにを見てそんな怖い顔をしてたんですか?」

「コレだよ」


 手元の情報ウインドウをクルリと回し、リーチェに見せてやる。

 彼女はその文章を読み、表情を曇らせる。


「これは……」


 そこにはこう書いてある。



【王都地下にできたダンジョンは王国の所有物であり、そこに有る物も全て王国の所有物である。

 よって、王国の許可無くダンジョンから物品を持ち出す行為は全て窃盗である。】



 この一文は明日の昼、国王から直接発表される宣言の原稿だ。王城のバルコニーからその下の広場に集まった国民へ演説するようだ。


「これって……、マナ消し魔導具のばら撒き計画の、完全終了のお知らせですか?」


 リーチェの言う通りだ。俺のマナ消去の魔導具をばら撒く計画は、この宣言によって止めを刺される事になるだろう。


「それだけじゃ済まされないだろうな。

 もしこの宣言がなされたとしたら、アルヴェン王国全域に存在する全てのダンジョンについても同じ扱いになりかねない。


 そうなったら、ドロップアイテム目的にダンジョンに潜る奴なんて国家の紐付きだけだ。

 魔導具の供給量は想定していた量を遙かに下回る量になるだろうな。


 しかも、この宣言がアルヴェン王国で留まってくれればまだマシだ。

 近隣諸国も同様の状態に置くかもしれない。


 普通のダンジョンに潜る冒険者の数も減るかもしれないな」


「それ、マズくありません? ユウさんだけじゃなくて他のダンジョン・マスターの管理しているダンジョンもやってくる冒険者の人数が減る可能性が有るような」


「その通りだ。しかも全世界に波及する可能性もある。凄まじくマズイ」

「ど、どうするんですかぁ!? マナを消そうと努力してたら、マナを消すためのオドが回収できなくなるかもしれないって事じゃないですか!」


 リーチェの非難も甘んじて受けるしか無い。

 だが、王都と同様に街をダンジョン領域で覆う方法を取ればオドの量は確保できるはずだ。

 その点では問題ないが、宣言が世界中に波及した場合、俺の功罪は罪の方が重くなるだろう。


「この宣言を無効化させる方法も、いくつかあると言えばある」

「どんな方法ですか?!」

「向こうがダンジョンが国の管理下にあると言うなら、国にダンジョンは管理できるものではないと知らしめる事だな」

「具体的には?!」


 テーブルから乗り出して聞いてくるリーチェに、ピッと指を一本立てる。


「そうだな、一つ目の案としては、ダンジョンからモンスターを出現させて、王都に大きな被害を出す。そうすれば誰の目にも国の管理下じゃないってことは明らかだ。国が管理下だと強弁すれば、モンスターの被害も国の責任になるわけだからな」


「却下です!! そんな世紀末な状況に陥ったら、天使への信仰心がどうなるかわかりません!!」


「まあ、俺もこの方法は取るつもりはない。

 この方法だと国の威信をかけて、ダンジョンの管理体勢を強める可能性がある。

 それに確実に王都から住人たちが逃げ出す。せっかくの余剰放出オドの回収ができなくなる」


 俺は二本目の指を立てる。


「第二案としては、モンスターをけしかけるとこまでは変わらない」

「ユウさん! 虐殺するっていうなら私が身体を張ってでも止めますからね!」


 睨んでくるリーチェに両手を上げて続ける。


「対象は、王城の人間だけだ。王城の敷地内にダンジョンの入口を作って、王城の人間だけを襲わせる」

「城の人間だけですか? それならまあ……」


 出る被害は第一案に比べたら少ない事に、リーチェはしぶしぶとだが納得しかける。


「けど、こっちの案も王城を制圧する必要が有る以上、大量のモンスターをけしかける必要がある。

 となるとだ、俺がモンスターの行動を管理しきれない可能性が非常に高い」

「え?」


「十数匹までのモンスターなら、完全に制御ができる。

 けど王城を制圧できる量のモンスターをけしかけたら、確実に制御を外れたモンスターの群れが街のほうまで流れていく」

「え? ユウさんはモンスターを地下ダンジョンから地上に出さないようにしてるんでしょ?

 それなら、行ってはダメな場所の設定くらいは出来そうなんですけど?」


 リーチェはダンジョン・マスターの能力を完全には把握できていないようだ。


「モンスターの行動範囲を制限できるのは、階層ごとだけだ。

 だから複数階にわたる階層式のダンジョンなら、階層ごと出現するモンスターの種類が違うって事ができる。

 別の階に移動しないから、モンスターの種類を階によってきれいに分ける事ができるんだ。


 王都のダンジョンは今現在、地上部と地下部の二階層しか存在していない。


 このなかでも地上部っていうのは特殊でな。ダンジョン領域外に出たとしても、モンスターはダンジョンの地上部としか認識しない。

 つまり、ダンジョン・マスターが制御をしていないモンスターを地上に出したら、そのモンスターは地の果てまでだろうと、好き勝手に行動するってことだ。

 当然、王城と街の区別なんかしない」


「ダメじゃないですか! ソレ! 却下です却下!! モンスターを地上に出すのは禁止です!!」

「まあ、制御しきれないモンスターを出すのはさすがにな。王城の人間を始末するだけならもっとスマートな方法がある」


「どんな方法です?」


 少々疑いの目でリーチェは促す。


「王城の真下に巨大な縦穴を作っておくんだ。王城がその穴の天井に乗っかってる形にしてな。

 で、天井を支える強度を生み出しているマナ循環を切ればいい。そうすれば重みに耐えかねて、王城は一気に落下する。穴の深さは王城の高さの倍もあれば十分だろう」

「巨大な落とし穴ですか……。そんな大きな穴なんて掘れるんですか?」

「今のオドの量ならなんとかな。」


「じゃあ、それで……」

「けどなー」


 リーチェが納得しかけるのに対して、俺はうなる。


「これをやると確実に王都は衰退する」

「どういうことです?」


「考えても見ろ。


 ポコポコダンジョンは生まれる。

 王都の象徴とも言える王城が地下に落ちて消える。

 いつ何時、自分の住んでいる家が同じように落ちないと言える?


 それだけじゃない。

 国の上層部がそっくり消えるんだ。難を逃れた連中で権力争いが始まる。

 その過程で、王都のダンジョンは国の所有物だという宣言が出されたら全く意味がない。


 それだけじゃなくて、隣のカーサハヌ帝国が領土的野心を持ってアルヴェン王国に襲いかかってくる可能性が高くなる。王都は帝国との国境とも比較的近い上に交通網も発達してる。帝国から見ればそんな大混乱してる王都は、垂涎の的だ。


 そんな状況なら多くの人間が王都を離れるぞ?」


「ダメダメじゃないですか。え? じゃあ詰んでるってことですか?」

「詰んではいない。ただ、国の上層部を皆殺しにする方法では意味が無いってだけだ」

「じゃあどうするんです? 他になにか方法があるんですか?」

「ああ、思いついた方法はある。ただ、それにはリーチェの協力が必要だ」


 俺はうなずき、リーチェを見やる。正しくはリーチェの背中に付いている小さな翼をだ。



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