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13 騎士団長ロジェの憂慮

「南東の門すぐ近くにダンジョンが出現した、だと?」


 アルヴェン王国第一騎士団団長ロジェ・ガスケは部下からの報告におもわず聞き返す。場所は繁華街に設置されている、第一騎士団の派出所の一つ。その団長室だ。

 ロジェの脳裏に最悪の状況がちらつく。農村の近くにダンジョンが出現した場合。村人の半数以上が殺害されることも不思議ではない。もし、南東の門がモンスターに突破されたなら、王都の被害は目を覆いたくなるほどのものになりかねない。


「はい、いつもどおり朝に開門した直後に、ダンジョンの入り口が出現しました」

「被害は?!」


「被害はありません」

「なに?」


 ロジェは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。報告をしに来た部下は、すました落ち着いた顔をしている。その表情に落ち着きを取り戻し執務机の椅子に深くかけ直す。


「詳しく続けろ」

「はっ。ダンジョン出現と共にゴブリン八匹が襲撃を仕掛けてきました。そのうち四匹は騎士の手で、もう四匹は天使の魔法によって殺害されました」

「うん? 天使?」

「はい、ゴブリンどもは唐突に現れたため、奇襲を受けた形になりました。

 離れた場所にいた騎士二名が六匹のゴブリンに狙われ、内二匹を返り討ちにいたしました。

 しかし、多勢に無勢であわやという所で、これまた唐突に現れた天使によって、残り四匹のゴブリンが一瞬で殺害されました。

 残った二匹のゴブリンはその後、第一小隊によって駆逐されました」


「天使が現れたのか? 幻覚を見たのではなく?」

「はい、私を含め、その場に居た全員が目撃しております」

「その場に居た全員というのは、騎士隊だけの話か?」

「いえ、あの場には荷馬車を引いた商人、農民を含めた大勢の人々がおりました」


 その報告に、ロジェはうめく。


「……また、坊主どもが余計な騒ぎを起こしかねんな」


 後始末に駆り出され面倒なことが起きると、首を振る。


「それで、南東の門は今はどうしている?」

「その場に居た人々は門の内側へ避難させ、門を封鎖。一小隊を門の外に派遣し、門につながる道の封鎖と近隣住民へ注意喚起を行わせております。

 残った一小隊と夜番でまだ帰っていなかった者は、弓を持たせ、市壁の上からダンジョンの監視をさせております」


 南東の門は小さく通行量も少ない為に、人員も少ない。その中では理にかなった指示だろう。


「わかった。南門から二小隊ほど街の外から向かわせ、封鎖線の強化を行わせる。南東の門には三部隊ほど応援に向かわせろ」

「はっ」


 伝令役の部下に命じ、その部下は部屋を出て行く。


「にしても近いとは聞いたが、現れたダンジョンとは、市壁から矢が届くほどの位置にあるのか?」

「はい、最も近い場所で約十メートルほどの距離です」

「十メートル……。近づきるぞ、それは……。


 南東の門の近くを中心とした石材店に使いを出せ。王都の近くにダンジョンが出現したので、封鎖用の石材がすぐに欲しいと伝えるんだ。ただし、ダンジョンの位置は伝えるな。下手に近さを伝えれば混乱が起きかねん」

「は、了解しました」

 

 伝令役がまた一人出て行く。


「その場に居た人々の口止めは、してはおりませんでしたが……」


 報告しに来た部下は南東の門を守る部隊の隊長だ。彼は、恐縮した様子で告げる。

 確かに、混乱が起きかねん出来事の口止めをしなかったのは失態だ。


「かまわん。南東の門の騎士の数ではそこまで手が回らんのは目に見えている」


 そもそも出現したダンジョンに対応できるように編成されては居ない。最低限の対応ができているだけ大したものだ。


「それと、もう一つ報告がございます。ダンジョンから現れたモンスターですが、妙な物を落としました」

「妙な物?」

「はい。こちらです。並べさせてもらってよろしいでしょうか?」


 隊長が足元においていた麻袋を示し、その袋に手を伸ばす。


「おい待て。机を汚されては困る」

「汚れるようなものではありませんから大丈夫です」

 

 言って、執務机の上に袋の中身を広げた。現れたのは大量の短杖だ。


「なんだこれは?」

「八匹のゴブリンの死体が消滅した後、その場に残された物です。

 これだけでは無く、こちらの金貨も一匹につき一枚づつ残されていました。

 あと、この筒の中には、これらの杖に関する説明書が入っていました」


 大量の短杖の横に金貨と、短杖に似た形をした開いた筒。そして、手のひらサイズの薄い紙の束が置かれる。


 ロジェが真っ先に手に取ったのは金貨だ。

 ロジェ・ガスケは裕福な貴族の四男だ。その出身なだけあって、多くの種類の金貨を見てきた。しかし、その金貨は今まで見たことがない。一枚を手に取り、その重さを確かめる。


「どこの金貨だこれは? 色といい重さといい、かなり純度が高い金貨だぞこれは」

「部下の一人に両替商の息子がおりましたので、見せましたが、初めて見るとの事です。

 ですが、金貨よりも問題なのが、この杖の方です。


 これらの杖は全て、魔導具のようなのです」

「魔導具? これら全部がか?」


 決して、麻袋にまとめて入れていいものではない。

 魔導具というのは貴族の家に一つあるだけでステータスになるような代物だ。魔導具を手に入れる為には、ダンジョンの最奥まで行き、そこに安置された財宝を持ち帰るしかない。あまりにもリクスが高い方法だ。


 しかし、そのリスクに見合った凄まじい能力を持つ。


 鋼鉄の塊を切り裂く剣。死に至るような大怪我をたちどころに癒やす聖なる杖。などが有名どころだ。

 そんな品が市場に出回れば、身代を棒に振ってでも買い求める貴族が出るほどだ。


 超高級品以外でも、魔法使い達が魔導具の複製品をいくつが作っている。どれも大したことの無い能力だが、かなり高価な品だ。


「はい、そちらの説明書をご覧ください」


 手のひらサイズの紙の束を手に取る。想像以上に薄い紙で、かなりの枚数がある。文字も小さい。かなりの文章量だ。

 小ささの割に読みやすい文章を読み込んでいく。

 ロジェは自分の眉根が寄って来るのを感じざるをえなかった。


 読み終え、彼はため息を付きながら、机の上に並ぶ多くの短杖を見やる。


「この説明書の種類よりも数が多いが、同じ種類の魔導具がいくつもあるのか?」

「はい。【水産みの杖】が二十八本。【水沸かしの杖】が二十本。【ブノアの投光機】が二十四本。【着火の杖】が十九本。【拡声の杖】が八本。【物体収納の杖】が五本。


 計百四本です。全ては試しては居ませんが少なくとも、【水産みの杖】と【着火の杖】は説明書の通りでした」


「……」


 隊長の説明を聞きながら、ロジェは無言で机に並ぶ杖を睨んでいた。


 これはとんでもないことになるとわかったからだ。これらの魔導具は、大したことの無い魔導具だ。手に入れる為に身代を棒に振る者は居ないだろう。しかし、騎士団の団長として考えると、これらの魔導具の有用性は計り知れない。


 行軍に際して、【水産みの杖】があれば運ぶ水の量を減らすことができるだろう。それに、生み出す水は清潔な水だという。水を使い果たし、泥水をすするような羽目にはもうあわなくなる可能性を秘めている。


 【水沸かしの杖】も同様だ。持ち運ぶ燃料を減らし、寒い冬の行軍でも兵の体を温める湯が自由に飲めることになる。一度沸かした水ならば病の危険も減らせる。


 【ブノアの投光機】はカンテラとは違い、遠くの場所だけを照らす事ができるそうだ。ならば、夜間、こちらだけが明かりの中で敵が暗闇の中から襲いかかってくるという状況を無くす事ができるのではないだろうか? 逆に敵の姿だけを照らせるかもしれない。


 【着火の杖】は種火を持ち歩く必要がなくなる。という意味しかない魔導具だろう。けれど、確実に火を点けることができるのならば、音を立て時間がかかる火打ち石よりも有用だ。敵の拠点に火付けをするような事があるならば、早さと静音性は何よりも重要なものとなる。


 【拡声の杖】は持ち手の声を大きくするという単純な物だ。だが、部隊指揮において大声を出せることは必須条件だ。指揮官の中で欲しがる者はいくらでもいるだろう。ロジェ自身も欲しいと思っているのだから。


 そして、一番の問題が【物体収納の杖】だ。一辺が五十センチメートルの立方体に、収まる一つの物体を、杖に着いた宝玉の中に収納できるというものだ。沢山の小物でも箱の中に入れておけば、箱の中身ごと一つとしてカウントするらしい。しかも収納した重さも感じなくするという。

 この魔導具を使えば、いくらでも密輸が可能となってしまうだろう。

 逆に【物体収納の杖】を兵の一人ひとりに持たせ、中に大量の食料を入れておけば、どれほど身軽な部隊が作れるだろうか?

 

 これら全て魔導具には、使用の際には魔力を奪われるらしいが、その程度の代償はしかたのないことだ。


 これだけ有用な魔導具を、ゴブリンを倒しただけでこんな大量に手に入れた。これは大問題になる。

 

 さらに問題を大きくしている事は、このゴブリンがダンジョンから現れたモンスターだということだ。

 ダンジョンはモンスターをいくらでも再生させる。だからこそ、発見したら速やかに潰すように騎士団では通達されている。


 だが、もし、再生されたモンスターを倒した時に、再び魔導具を落とすとしたら?


 王城の人間たちはどう思うだろうか? ダンジョンの危険性など考えもせず、金の卵を産む鶏扱いするのではないだろうか?


 ロジェは魔導具の事など一切秘匿し、ダンジョンを速やかに潰すという誘惑に駆られた。

 が、その考えをすぐに振り払う。いくら口止めしても金の匂いのする出来事ならば必ず嗅ぎ付けてくるだろう。そうなれば面白くもない事態になる事は目に見えている。


「私はこれから王城へ向かう。お前は南東の門へ戻り指揮を取れ。

 ダンジョンには潜らず警戒を続けろ。ダンジョンからモンスターが出てきたら速やかに討伐せよ。

 もし、またモンスターが物を落としたら回収するように。

 それとダンジョンを潰すための石材も運ばれたら、門で確保しておけ。


 ただし、ダンジョンを潰すのは私の命令を待ってからだ」


「石材到着後、すぐに潰さないのですか?」

「……ダンジョンを潰せるかどうかはわからん」


 隊長の疑問に、ロジェはうなるように答えた。


「さっさと行け。命令は下したぞ」

「はっ!」


 敬礼と共に隊長が団長室を出て行く。

 一人になった団長室でロジェは束になった説明書を見ながらつぶやいた。


「カーサハヌとの国境がきな臭いというのに、王都でもこんな事が起きるとは。全くどうなってるんだ……」


 そのつぶやきは、誰も耳に入る事無く消えていった。







 はずだった。


「ユウさん? 南東の門の近くのダンジョン。潰されずに残りそうですよ?」

「みたいだな。あそこはすぐさま潰されると思っていたんだが……」


 アパートの一〇三号室で、俺とリーチェは騎士団長の話を聞いて、意外な気持ちでいた。

 第一騎士団の派出所は繁華街にある。そこはすでに俺のダンジョン領域内だ。南東の門の騎士隊長にモニターを貼り付けていた為に彼の報告の一部始終を聞く事が出来た。

 しかし、王城の方はダンジョン領域の外なので、騎士団長がどのような報告をするのかはわからない。


「潰されないのは、やっぱり魔導具が魅力的だからでしょうか? 大したことの無い魔導具だと思うのですが……」

「俺たちにとってはそうでも、人間にとっては魅力的な品物さ。

 団長さんはすぐにダンジョンを潰したいらしいけど、どうやら王城の方に業突く張りがいるみたいだな。ありがたいことだ」


「モンスターはどうするんですか? あそこは潰される事前提でしたから、もうモンスターは出てこないんでしょう?」

「まあ、まだ確実に残るかどうかわからないから、モンスター生成装置は動かさないでおくよ。代わりに別の所からゴブリンを移動しておけばいいだけの話だ」


 管理するダンジョン内における、モンスターの配置もダンジョン・マスターの能力の一つだ。

 ドロップアイテムを内包したゴブリンは数匹ほど余っている。そのダンジョンの奥の部屋に、一匹を転移させておく。


「もっとも地上には出さないから、無駄になるかもしれないがな」

「出さないんですか? 地上に出して、ドロップアイテムを出させた方が、あそこのダンジョンは残りそうな気がするんですが」

「そうも思ったんだが……。もう、地上には出さないでおく。

 下手に地上に出したら、他の地下ダンジョンの出入口も徹底的に潰されかねない。


 モンスターが地上に出るのは、最初の一度だけの例外。【欲望を導く杖】が地上に出た時のみ。

 それ以外は何があろうとも、モンスターは地上には出てこない。


 そう人々に思わせないと、街から人が逃げ出しかねない」

「あーなるほど。考えてみれば、コレってかなりのバクチなんですよね? 下手をしたら、一気に街の人口が減りかねない」

「一時的に減るかもしれないが。長い時間で見れば増えると思うよ?

 人の欲望にはキリがない。

 魅力的な道具が欲しいっていうもの、立派な欲望だ。

 

 だからきっと、多くの人間たちがダンジョンに集まるようになるさ」



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