夜、コンビニに行く。
夜、コンビニに行く。
深夜。家から出て、自転車で近くのコンビニに向かう。夜桜が電灯に照らされている。風はさらりと頬を撫でた。
コンビニで、パーティ商品のヘリウムガス(声を変えるあれだ)を四本、そしてポリ袋を。一瞬迷って、ガリガリ君のソーダ味を買った。
いつも通り血の気のないコンビニ店員は、その時急に「ふふ」と含みのある笑いをした。
僕は心の中を見透かされているような気がして、急いで店を出た。
自転車を漕ぐ。家とは逆の方向。川原まで来た。
半月。緑に色づいた桜の木。にわかに、草花も茂り始めていた。
腰を下ろして、ガリガリ君を開けた。ひんやりと、特有の消毒液臭さが鼻をつく。
しゃりしゃり。しゃりしゃり。
しばらく食べ進めて気づいた。
ガリガリ君の棒に「あ」と見えていた。その時、僕の口も「あ」と開いていただろう。
急いで食べ進めると、そこには、「あたり」の三文字。
僕は、泣いた。
君が卒業して、就職して、働いて。僕が卒業して、就職し損ね、働けず。僕はなんとか君に追いつこうと、何社も何社も駆けずり回った。けど、成果は出ていない。
ある日、会社の愚痴を一通りいい終えた後、君は言った。
「このガリガリ君が、あたりじゃなかったら、別れよう」
そんなのーー、あたるわけないじゃないか。君はガリガリ君を食べ終わるとそのまま立ち去った。
僕には、どうすることも出来なかった。
僕は死のうと思った。
インターネットで調べると、ヘリウムガスで死ぬのが最も楽で簡単だと書いてあった。そこには、手順や必要な道具などが事細かに書かれてあり、なにかの宣伝文句みたいに「周りに迷惑をかけない!気を失うように楽に!」と記されていた。
でも、ガリガリ君はあたったのだ。なんで今あたるんだよ、そういう問題じゃないのに、そんな気持ちが止められない。
僕は、ヘリウムガスを目一杯吸った。
「ははははははははっはっ、うはははは!はひっ、はっ、はっ、ふふはははははは!!」
かん高い、自分のものと思えない声が、なんだかとてもおかしい。
桜が散る。その様子が霞んで見える。
「あたったぞ、バカヤロー!!」
帰りに、コンビニでもう一本。
ガリガリ君をもらおうと、思った。