8話 救世主~白と黒
レイナの予告無しの奇襲は当たり前のようにレオンを襲っていた
それも決まってレオンがすきを見せている時や何も持っていない時、サイファーと話している時で、遠慮など微塵もなかった
おかげでレオンは傷だらけになりながらもとっさに服や棒、もちろん剣も硬化できるようになっていた
剣術も同時に鍛えられレイナの攻撃を正面からならば受け止められるようになってきていて、最近では予告なしでレイナは二撃、三撃と攻撃を追加していった
この特訓は次の目的地である港町プラシュまで続けられるはずだった
しかし、レオンのいるところにトラブルが起こらないわけがない
どこから湧いたのかも知れぬ夜盗が毎日のようにやってきたりと一行はよほどのことがなければ驚かないようになってきていた
しかし、慣れすらも許されない一行に神様は優しくも新たな危機を与えてくれたのである
事は昼食を済ませて少しした後、先頭を歩いているレイナが2人を止めたことから始まった
レイナは定期的に視力を強化してあたりを警戒しながらいつものように歩いていた
しかしその者はレイナに見つかることなくかなり近くまで接近していたのである
「二人とも止まって!!」レイナは声を殺しつつ深刻さを与えながら2人に言った
「どうした?なんかあったか?夜盗が出るにはまだ早いだろう?」
(またか・・・よくも飽きないものだなあいつらも)
2人ともいつものこととばかりに話しかけてくる
(おかしい、ここまで気づかないなんて白い服で見えなかったのかしら・・・・!!!!)
確かにそこにいたのは白い服に身を包んだ青年だった
しかし、レイナが知っている白い服の男はレオンがむやみに振り回した剣に当たる程度の実力だったはずだった
でも、目の前にいる男といくら比べてもその圧力、魔力は到底同一人物とは思えなかった
(こいつ、やばい体中が逃げろって言ってるのが分かる)
「あそこにいる奴は危険よ!少し待ちましょう」
レイナが言うとレオンが姿を確認する
そこには忘れられない姿が堂々と自分の遥か前を歩いていた
当然のようにレオンは憎しみの視線を向けた、その男は自称救世主、すなわちレオンを死ぬ寸前に追いやった張本人であったからだ
しかし高位の魔術師に殺意を向けるのは厳禁である、いともたやすく発見されてしまうからである
「レオンだ・・・め・・!!!!!!」レイナは生まれて何度目かの絶望を味わった
なんとレオンに振り向いたはずのその視界にはレオンと映るはずの無いもう一人が当たり前のように佇んでいたのである!!
「僕のことを噂かい?あまり言い趣味とは言えないなぁ、気をつけてよね?そういう悪は思わず殺しちゃいそうになるから」その男は世間話でもするかのようにアハハと笑って見せる
「動物は利口だね、もう逃げちゃった。こうやって逃げられなければ僕も馬で旅したいんだけどね」
男の言うとおりサイファーはかなり遠くで小さくなっていた
「それはすまなかったわね、邪魔はしないから見逃してくれないかしら?」レイナは今の自分たちでは到底かなわないことが手に取るように分かるようだった
ふとレイナはレオンを助けた時のことを思い出していた(リスクは私の命リターンは情報・・・・ね今回の賭けは完全に私の負けねこのままだと私だけじゃない皆の命もないのは確実)
救世主は黙って剣の柄に手を置いたままだった
「ダメかしら?」不安になったレイナが聞き返す
「別に僕は歩いてただけだからねぇ、構わないんだけど」見なよとばかりに男はレオンを一瞥した
レオンは剣を抜いてその男に向けていた、しかしその手は震え目の焦点はあっておらず相手がはるか遠くの存在だということを体が理解しているようだった
「僕は救世主だ、その僕に剣を向けるのは悪の行為だ、そして僕は悪を許さない、こんな風に・・・ね!!!」
男はレイナのほうを向きながらレオンの片腕を切り落とそうとした
その瞬間レオンは脊髄反射のごとく剣を硬化し男の攻撃を防いだ、硬化した剣のおかげで男の剣は折れて吹き飛び男の頬をかすめて飛んで行った
「やっぱり拾ったのじゃ駄目だね、なら君が黒の剣なら僕は白の剣だ!」
男はそう言うとレオンの剣に自分の剣を思い切り打ちつけた!
「やっぱり折れないもんだねぇ」
「何を!!」レイナがしゃべると男はウットリした顔で
「さん、はい!」
男がしゃべるのと同時にレオンの両腕が吹き飛び血しぶきがあがった
(今剣を振らなかったわ!!)レイナは一切血の付いてない剣を見てそう思った
「ぎ!!!!!」レオンは痛みに声さえ出すことを許されなかった
「これで君はもう剣を握れない、もうつまらないな、さよならだ」そう言うと男は救世主は馬のような速さで歩いて行った
(大丈夫か!?)サイファーが駆け付ける
「怪我は私が治して見せるわ!!綺麗に切られてるからたぶん大丈夫!!サイファーは急いで清潔な血を受ける入れ物を探してきて!!このままだと血が足りない!!間に合わなかったらしばらく血液が自然生成されるまで貴方がレオンのこと運ぶのよ!」
(それは別にかまわんが、分かった急いで探してこよう)
それから3日間レイナは寝ずにレオンを治し続けレオンの腕は元通りになったのだった
気力が限界だったレイナが気絶するように寝てしまい、レオンもしばらく目を覚ます気配がなかったので
サイファーはそれから二人が起きるまで外敵から仲間を守ることを胸に誓ったのだった
二人が目を覚ましてからもレオンはふさぎこんでしまい、レイナは魔力の回復が間に合わず夜盗を蹴散らした時よりも具合と機嫌が悪かった
そんな二人をあざ笑うかのような晴天の平原をサイファーはレオンを背にのせ順調にプラシュへと足を進めていた
一行の鼻には早くも潮の香りが届けられていた