6話 白の教団~弔いの花
昨日の出来事を空も一緒に悲しんでくれているような、今日はそんな天気だった
結局二人は泊る所が見つからず、どこで野宿するか決めることになったのだが、できるだけ婆さんのそばにいたいとレオンが言いだす事を予想するのにレイナはそれほど時間をかけることは無かった。
しかし昨日の天気が嘘のようなこの雨の中、レイナは雨をしのげるこの場所を選んだことに運命を感じずにはいられなかった
「最後のおもてなしね」そう言ってレイナはレオンを起こさないように立ち上がると雨の中に向かって歩き出した
(どうせ、見つけ出すっていうでしょうしね、私もこのまま逃がす気なんてないわ)
「・・・宿も探しておかなくちゃね、今日はレオンも満足に動くこともできないだろうし」
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朝探したおかげなのか宿は存外簡単に見つかり、レイナは次の目的を行動に移した
街にて昨晩レオンから聞いた男の情報を集めていると、驚くほど簡単に求めていたそれは手に入った
街に住む住人の多くが白い服の男を・・・というか白い服の意味するところを知っているようだった
しかし誰もそれに答えようとはせず、その男が出入りしていると思われる建物と{紅蓮}という言葉だけは簡単に手に入れることができた
(白い服で紅蓮って・・・奴がやったことを考えても頭が正常な奴らだとは思えない、あまり考えても意味がないのかしら?)
これ以上は無駄だと判断したレイナはレオンを起こして宿まで運ぶべく墓地の大樹まで戻っって行った
レイナが墓地に着くとレオンが練習用の剣を力任せに振って暴れていた
(???・・・・あぁもしかして)フフッと柔らかく笑うとレイナは近くまで寄って行った
「早速練習しているの?風邪ひくわよ?」
「レイナかお帰り、どこに行ってたんだ?」
「宿を探しにね、なんだ、ちゃんと歩けるようね」
昨日レオンは「レイナも疲れているし治療はここまででいい」と言って途中で治療をやめさせたのだが
レイナが「じゃあ残りは明日ね」と言うともう治療はいいと言ってすぐに眠りについてしまった
「やっぱり、なおしてあげる?」レイナが心配そうに聞くと
「レイナに治してもらうからって考えて怪我したわけじゃないし、それに毎回お前に迷惑かけてるわけにもいかないしな」
レオンは少し子供っぽく笑うと真剣な顔で婆さんの木を見た
「昨日、俺があんな状態なせいでお前の魔力も相当減ってたんだろ?何かが徐々に消えていく感覚があった、あれ以上魔力を使ったらお前が危なかったんじゃないのか?」
「そうね、でもあれは私からお婆さんへの謝罪と貴方への賛辞のつもりだったの」
「婆さんに何かしたのか?」レオンはごめんなさいと俯くレイナに対して心配そうに聞いた
「貴方も聞こえたでしょう?私は貴方に窓から逃げろと言った。私にはおばあさんの生死が分からなかったのに、貴方だけでも助かればいいと思って必死だった。
けれど、それはお婆さんを見捨てるということ、私はそれを知っていて貴方に叫んだわ。だからあなたがあの宿から出てきたとき、私はお婆さんを見ることができなかった」
レイナはそう言うと木に手を当ててもう一度だけ「ごめんなさい」と小さくつぶやいた
「それは、お前が俺を普通の人間として扱ってくれたってことだろ?おまえは俺に助かってほしいと願ってくれた。それは、この先不老不死である俺の心の支えになると思うんだ、俺はお前に感謝してる」
「おばあさんわたしのこと許してくれるかしら」レイナはうつむいたままそう言った
「分からない、ただ婆さんはもういない、俺たちは婆さんは怒っていないって想像することはできる。でも、本当のところはわからない。俺たちは護れなかった、だから俺たちは、俺たちが楽になれるための答えを探しちゃいけないと思うんだ」
「じゃあ、おばあさんが私達を恨んでるって言うの?」
「違うよ、その答えはおばあさん自身の言葉であるべきなんだとおもう」
「でもお婆さんはもういないわ!!」
「そうだ、だからこの問いに終わりは来ない、俺たちは護れなかった、それが俺たちの心にのしかかる重さはいつまでたっても変わらないと思う。
でも婆さんは優しかった、優しくしてくれた、それは誰にでもじゃなかったはずだ。
婆さんは俺達には生きた心があると言ってくれた、それは婆さんが直接くれた俺たちへの言葉だ、俺たちが自分を楽にするために自ら考えだしたつくられた言葉なんかじゃない!俺たちは婆さんの微笑みを優しさを姿を・・心を、ありのままを受け止めて護っていかなきゃいけないんだ」
「ずいぶん立派な考え方ね、おばあさんに聞いたの?」レイナは少し茶化すように言った
「違うよ。俺はお前に助けられる時助からない確信があった、俺は自分の行動に後悔しながら「でも、仕方無かった」って思ったんだ、俺は最善を尽くしたつもりだったからな。
でも目覚めて自分が死んでいないことに気づいて、逆に子供たちがもういないと知ってすごく後悔したんだ。
あいつらの危機に俺は現れずのうのうと生き残ってしまった、それからずっと考えてたことなんだ。
でも答えは全部俺に優しいものしか出なかったんだ。でもお前が悩んでたら自然と答えが出てきたんだ。
自分には優しい答えしか出せない、他人には厳しいことばかり平気で言える。・・・・俺は小さな人間だ」
「いきなり弱気?」
「少しでも強くなりたいんだ、認めるのも強さかなってさ」
(恰好つけたい年頃ね)
「そろそろ行きましょうか、肩を貸すわ」
「ありがとう、でも大丈夫だよあまり目立つと困るだろ?昨日の今日なんだし」
「そう?宿に行けばゆっくりできるから頑張って、こっちよ」レイナは少し進むたびに振り返りながらレオンとともに宿へ向かった
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宿に着くと二人はこれからのことについて話していた
ふとレオンは老婆のことを思い出していた
「婆さんは幼いころに病気になったんだよな?で時間を代償に治した」
「そうらしいわね、それがどうかしたの?」
「なんで婆さんの姿だったんだ?」
「彼女は魔術師じゃなかったわ、だから術者は別の人物ってことになるの。その術者が死んだか離れすぎて契約が切れたのよ」
「でも契約が切れたら・・・」
「そう、でも病気は治ったんでしょ?彼女は普通の人生を送って普通の人間として最期を過ごせた、幸せだったんじゃないのかしら」
「そうだといいな」
「もう、また暗くなって、おばあさんが心配するわよ?明るい話しましょ」
「明るい話っていわれてもなぁ、俺怪我して寝てただけなんだけど」
「じゃあ私が話すわね、2つあるんだけど、まずは、白服の手掛かりが分かったわよ」
「なに!?どこにいるって?」レオンは身を乗り出してレイナに問う
「落ち着きなさい、あいつ・・・というかあいつらはおそらくこの街にはいないわ、別の街から商売をするためにこの街の使われていない倉庫に出入りしていたらしいの」
「商売?とてもそんなまともな奴らだとは思えないけど」レオンは信じられないといった面持ちだった
「私もそう思ったわそれに誰もそのことは教えてくれなかった」
「口にできないようなものでも売ってたんだろ?それと気になったんだけどあいつ{ら}?」
「奴は白い服の怪しい男じゃなくて怪しい白い服を着た集団だったってこと」
「王都であいつらみたいなやつは見たこと無いしここの街のやつらでもないってことは別の街に行かないといけないのか」
「そういうこと、とりあえず貴方の傷を今日中に治して明日馬を買いに行きましょう」レイナは得意げに言った
「だから治療はいいって、それに馬を買うお金なんてあるのか?」
「この街にいる間は怪我をしててもいいけど街を出たら足手まといになるわ、魔力も回復したし今のうちに荷物は減らさないとね」
「やっぱりお前に聖女は似合わない」レオンは嫌味を込めてそう言った
「お金なら昨日挑んできたやつの賞金があるから心配しないで」
「そうか、じゃあよろしく頼むよ」
そう言うとレオンはベットに横になった
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次に日の昼過ぎ宿で昼食を食べを得た二人は馬を買いに来ていた
「旅をするのに馬が欲しいの、この金額で買える馬を1頭ください」レイナが店主に向かってそう言うと
「1頭!?俺の分は!?」レオンは聞いてないぞとばかりにレイナに耳打ちする
「今の手持ちじゃ1頭が限界よ、荷物を持たなくてよくなる分ありがたいと思いなさい」
「お客さんこれだけだと少し厳しいよ、調教してあるのだとこれじゃあ売れないな」店主は申し訳なさそうに言った
「って1頭も買えないのかよ!?」レオンがつっこむ
「どうせ乗らないから調教してなくてもいいわ」店主にそう告げるレイナ
「そうかい?ならこっちの柵の中にいる奴ならどれでも選んでくれていいよ」そう言って案内する店主
しばらくレイナが選んでいるとレオンが一頭の黒い馬とにらみ合っていた
「その子が気に行ったの?」レイナが言うと
「いや気に入らないんだ、ここを通ったら近づいてきていきなり睨んできたんだ」レオンが馬と見つめ合いながら答える
「馬の表情なんかわかるの?」
「いや分かんないけどさ、こいつ明らかに友好的じゃないだろ、なんか雰囲気がさ」
「そんなこと勝手に決めないの可哀想じゃない」
レイナが馬に触れようとすると店主が奥から走ってきた
「やめときな!その兄ちゃんの言うとおりだ、そいつは売りもんじゃねぇ、調教師を何人も怪我させた馬なんだ」
「へぇそうなの、でも速そうじゃない?この子に決めたわ!」レイナはうれしそうにその馬を指さした
「確かに親馬は速かったが、乗れなきゃ意味がないだろう?」店主は心配そうな面持ちでそう言った
「そうだよ、なんかこいつ気に入らないし、ほかのおとなしそうな奴にしようぜ?」レオンはいまだ睨み合ったままそう言った
「大丈夫よ、お互い友達いないんでしょ?ちょうどよかったじゃない?」いたずらっぽい目をしてレイナは言った
「俺が仲良くするのかよ!?いやだよ!?俺はほかのやつが良い!!」
「あらこのお金を稼いだのは誰かしら?おじさんこの子をもらうわ」そう言ってレイナはお金を渡す
「まいど、止めておいて何だがそいつを大事にしてやってくれ。そいつが人をのせなくなったのは俺たち人間のせいなんだ」
「どういうこと?」レイナはいい加減にしなさいとレオンのことを引っ張りながら聞き返した
「こいつの母親は俺たちが殺しちまったんだ、病気でずいぶん長いこと苦しんでな、とある日いきなり厩舎の中で暴れだしたんだ、隣に赤ん坊のこいつがいる事を思い出した俺たちは将来があるこいつを助けるために母馬を殺しちまったんだ。
それからこいつ飯も食べなくなってなぁ、俺たちも死なれちゃ困るから怪我してまで無理やり飯を食べさせてたんだが、ある日買い物帰りの婆さんが偶然来てな、馬が見たいって言うから見せてやってたらいつの間にかこいつに餌やってたんだよ、俺たちもびっくりしたもんさ、そんでその婆さん「あんた達には心がない」とか言って怒って帰っちまったんだよ。でもその日からこいつ普通に飯だけは食うようになったんだ」
「こんなところで婆さんの残していったものを見つけるなんてな、仕方ないこいつにするか!」レオンはそう言いながらも少しだけ優しい笑みを浮かべた
「あんたに決定権は無いけどね、じゃあ私たち行くわ」
そう言って仲間を増やした二人は出かける前に最後の墓参りに向かった
「しばらくこれなくなるわね」レイナがさみしそうに言うと
「でも必ずまた来るさ」
2人が話しているとどこからか馬が花をくわえてやってきた
「お前も最後の挨拶か」レオンがそう言うと馬は目を閉じて花を置いた
(そうだ)
「え!!!!!?」二人は数歩後ずさりながら馬を見る
「しゃべった!?」
「しゃべったわ!」
(馬がしゃべってはいけないのか?)
「なんでしゃべれるんだよ!?」レオンが依然目を丸くしたまま聞き返す
(俺に話しかけてきた人間が私を説得するためにしたと言っていた)
「その人って・・・」レイナが落ち着きを取り戻しながら言った
(ここに眠るものだろう、優しい人間だった)
「お前名前は?」レオンが聞くと
(その人間からはサイファーと呼ばれていたほかの人間は私のことを名前で呼ばなかった)
「じゃあサイファー、婆さんに助けられた者同士これからよろしくな」
(私は人間が嫌いだ、あの人間に説明されたが今でも私は人間を許す気などない)
「そうなの、じゃあサイファー荷物よろしくね」レイナはそう言って荷物をくくりつけた
(人の話を聞かない女だ)
「あきらめなそいつお前よりはるかに年上だぞ?一つ聞きたいことがあるんだが」レオンが言った
(・・・なんだ?)サイファーはめんどくさそうに答えた
「婆さん魔法使えたんだな?」
「それよね、なんで自分には使わなかったのかしら?」
(私は普通の人間でありたいと言っていた、それと魔法は今は死んでしまった知り合いに教えてもらったと)
「そうか、これで疑問が一つ解けたよ」
(私からもいろいろ聞いていいか?)少し遠慮がちにサイファーが言う
「ああ、もちろんだ」レオンが答える
「でも街を出てからね、今はレオンが独り言話してるみたいで気味悪いから」
(わかった)サイファーは2人の後を追った
仲間を一人加えて3人は歩き出した
背中に懐かしい気配を感じながら