5話 黒の剣~誓い
「ぜぇ・・・はぁ・・」
血だらけになって走る影が1つ
「どこに行った?・・・クソッ・・・・・・!!!」
レオンは空が明るいことに気がついた
「…!まさかあいつ!!」
レオンは再び走り出した、たどり着いた頃にはそこは既に炎に包まれていた
「!!!婆さん!」レオンはその中に飛び込んで行った
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二人が宿に着くと家の中には夕食のいい匂いが充満していた
「なんか懐かしいな」レオンがそう呟くと
「そうね」とレイナは遠くを見る目でそう言った
「婆さんただいま!すまん!遅くなっちまった」
「お帰り、今腕によりをかけて夕飯の準備をしてるからね、今日は客があんた達しかいないから、二階の好きな部屋をつかいな」
「分かった、お金はここに置いとくわね?」レイナはそう言って懐から財布を取り出した
「いや今日はええよ、久しぶりに生きた人間に会った気持ちでね、明日からはらっとくれればかまわないから」老婆はそう言って嬉しそうに微笑んだ
「そうか、ありがとな」二人はそう言って笑い返した
階段をのぼりながらレオはレイナにうれしそうな顔で言った
「お前が笑った所初めて見たよ」
「そんなことないでしょ?」レイナは不思議そうに聞き返した
「いや、いつも悲しそうに笑ってたからさ、さっきまで気付かなかったけどな。でも、さっきは本当にうれしそうだった、子供みたいな顔して笑ってたぞ?」
「うるさいわね、女性の顔をじろじろ見るのは失礼よ!」レイナは顔を真っ赤にしてそっぽを向く
「それに、お前もあの匂いを懐かしく感じるんだな」
「匂いは別に懐かしくないわよ?一応お嬢様だったから」フフンとレイナが階段の上から見下ろす
「じゃあなんで「そうね」って言ったんだよ?」
「家に帰ってお帰りって言われたり、嬉しそうにご飯を作るお母さんを思い出したのよ」レイナはまた悲しそうに笑った
レオンたちは、大きな通りに面した2階の部屋に決め、すぐに夕食を取りに下へ降りて行った
今は3人で夕食をとっている、老婆は遠慮したが、意外にもレイナが皆で食べたいと言ってきかなかった
「この街って本当にでかいよなぁ」レオンが何気なく話を切りだすと
「この街は元々商人を泊める小さな町だったんだよ」婆さんは目を細めて言った
「じゃあなんでここまでの街になったんです?」レイナは食べ物を飲み込んでから聞いた
「もともと王都周辺にここ以外の街はなくて、自然と栄えていったんだけどね、ここは商人の荷物を襲うのにも適した場所になってしまったのさ。
そこに旅の途中のえらく強い若者が「皆で栄光の館を作ろう」と言い出したんだ」
「栄光の館?強者の館じゃなくて?」レオンは不思議そうに言った
「皆そう呼ばなくなったのよ、本当は栄光の館って言うの」レイナはレオンにそっと教える
「そう、その若者は暴れていたものを捕まえて自分たちで作るんだと命じたんじゃ」
「言うことなんて聞いたのか?いい奴らではなさそうだぞ?」レオンはやれやれとばかりに質問した
「皆反対できなかったんだよ、若者の強さは圧倒的だったからねぇ、でもその者達はその強さを武器のせいだと思い込んでいたの」
「そんなわけ・・・・」レイナが驚きあきれると
「そう、そんなわけがなかった、でも確かにそう思いたくなるのも分からなくはなかったの」老婆はオホホと笑った
「なんでだ?剣くらいで強くなれるのか?」
「その剣はね、刀身が黒かったのよ、それはもう吸い込まれるような美しい黒だった、当然のように皆欲しがったわ、商人や盗賊例外なくね」
「当然でしょうね価値あるものは皆欲しがります」レイナが相槌をうつ
「だから勇者は皆のやる気を出させるためにその剣をこの街で一番強い奴に託すと宣言したのよ」
「じゃあ今の強者の館で一番強い奴がその剣を持ってるのか?」
「いえ、多分持ってないわ、そんな話聞いたことないもの」レイナがすぐさま答える
「ええ、その剣は館の猛者たちにも商人たちにも渡ることはなかった。皆が血眼になって捜しているある日の夜、その若者は泊っていた宿屋の娘の部屋に来ていたの」
「じゃあその娘の手に?」2人は身を乗り出して聞いた
「でも娘は受け取りたくなかった、正確には世間と関わり合いたくなかったのよ、驚くことにその娘には寿命に終わりがなかったの」
(俺たちにもないんだけどね)二人は苦笑いをしながらそう思った
「元々娘は病に冒されていてねそう長い命じゃなかったの、でもその子の父親はどんな手を使ってでもその子を助けたがった」
「それでそんな体に」レイナは目を伏せてその少女を思った
「最初は娘も大喜びだった、けれど恋人も家族も皆自分より先に死んでき、やがて街の住人は年をとらない娘を怖がった、それでも娘は自分から死を選ぶことができなかったの」
「なぜだ?辛かっただろうに」レオンが聞く
「その娘の家系はもう彼女しか残っていなかったの、だからその娘は最後の思い出だった宿を見捨てることができないまま何年も住み続けた。若者はその話を聞いてすぐに泊りに行ったわ、そして「護り続けることは何よりも難しい、今までここを護ってきたあなたにこそふさわしい」と言って無理やり剣を置いていってしまったのよ」
「話はこれくらいにしましょ、今夜は早く寝なさい、最近はいつにも増して物騒だから、なんでも白い服を着た男がうろうろしてるらしいのよ」
「!!!」二人は顔を見合わせると
「レオンそろそろ寝ましょう」とレイナが切り出した
「レオン!?その子はレオンって言うのかい?」老婆は初めて目を見開いてレオンを見た
「こんなこともあるんだねぇ、お前さん剣は使えるのかい?」
「いや、旅自体始めたばかりなんだ、これから教えてもらうとこ」レオンは頭をかきながら答えた
「そうかい、いつまでこの街にいるんだい?」
「分からないわ、用がすみ次第出かけるつもりだから」レイナが答える
老婆は少し考えると
「じゃあ、出かける時はここに顔を出してくれないかい?さみしくなるからねぇ」
「わかった、じゃあ婆さんお休み」レオンたちはそう言って部屋に戻った
部屋に入るなりレイナは武器と必要な荷物を持って窓を開けた
「さあ、行くわよ」
「どっから出るつもりだよ!?普通にでればいいだろ?」レオンは練習用の剣を持ちながら言った
「おばあさんに心配かけたくないんでしょ?帰ってくる時は入り口から入ればいいじゃない?」
「~~~・・・わかったよ、行くなら早くいこう」レオンはあきれた様子でレイナの後を追った
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外に出てしばらくするとレイナとレオンは強者の館の登録者に襲われていた
「全く、どうしてあんたといるとこんなことばかり起こるの!?はぁ、私はこいつ倒して館でお金もらってから帰るから、レオは宿に戻ってて」
「調査はどうするんだ?」
「今日はやめましょう、一日に何回も戦うのは危険だわ」
「分かった、無事に帰ってくるんだぞ!」
そう言ってレオは走り出す
急いで帰ると宿の前に白い服を着た背の低い男がうろうろしていた
俺を襲ったやつじゃない!?誰だ?
男はレオに気がつくと一目散に走り出した
「逃がすか!!」
旅をしているうちにレオにも力が少しずつ付いていた
そのおかげかレオと男との距離が徐々に短くなっていったのだが、もう少しのところで男は細い脇道に入ってしまった
レオはすぐに追いかけるがこの街には来たばかり、真夜中のせいもあってすぐに見失ってしまった
「どこに行った?あいつ・・・・・・・・・うっ!!!」背中から腹にかけて味わったことのある痛みが駆け抜けていった
レオは後ろから男にナイフで刺されていたのだ
「このっ!!」
レオンが剣を振り回すと偶然男の手に剣がぶつかった
しかし、そのあとレオンはすぐに隠れてしまう敵を必死に探しているうちに血を流しすぎて気を失ってしまった
レオが気を失い倒れこむと男はこれでもかというほどめった切りにして走り去ってしまった
それから少ししてレオが目を覚ますと乾いていない血がぽつぽつと道を示していた
偶然当たった剣はレオンに道しるべを与えていた
「はぁ・・・・はぁ・・運が良いやら悪いんやら分かんないな」
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「ぜぇ・・・はぁ・・」
血だらけになって走る影が1つ
「どこに行った?・・・クソッ・・・・・・!!!」
レオンは遠くの空が明るいことに気がついた
「…!まさかあいつ!!」
レオンは再び走り出した、たどり着いた頃にはそこは既に炎に包まれていた
その時あけ放たれた窓から老婆が必死にレオンたちの荷物を投げ出していた
「!!!婆さん!」レオンはその中に飛び込んで行った
レオンは出血しすぎて満足に動けず何度も転びながら炎の中老婆のもとに急いだ
部屋に着いたレオは床に膝をついた、老婆が大量の家具の下敷きになっていたのだ
「婆さん!!!」
「・・・・坊やかい?どこ行ってたんだい?全く落ち着きの無い子だねぇ」老婆は頭と片手しか出ていない状況でレオに向かってほほ笑んだ
「何言ってんだ!?急いでここを出るぞ!!」レオンがよたよたと老婆に近寄る
「あたしはいい、早く逃げなさいここももうすぐ火の手が回る。私はこの宿のために生きてきた、勇者時代の亡霊さ、最後はこの宿とともに眠らせておくれ」
「婆さん・・・でも、あんたを見捨てていくことなんてできない!!今助けてやる!!」
「もう・・・いいん・・だよ坊・・や、最後・・・にこの年寄りの頼みを聞い・・てくれるかね、この・剣をもらってくれないか?」
そう言って老婆は下敷きになったもう片方の腕で剣を引っ張り出した
その剣は鞘も柄もすべてが黒く、銀で獅子の装飾が施されていた
「この剣って、まさか!!」レオンはさっき話していた黒い剣を思い出していた
「この剣・・・は・・人を守れるもの、助けたい・・と思える人にこそふさわしい、もらっておくれ」
レオンが剣を受け取ると老婆の上から天井が落ちてきて1階まで老婆をたたきつけた、もう老婆に息はなかった
異変に駆け付けたレイナが大声で叫んでいる
「窓から早く!!!・・・レオン!!!」
レオンはこのとき意外にも冷静でいられた、心に大きな穴があいたような空虚感がそう感じさせていた
「・・・助けなきゃ、婆さんには宿以外にも大切な家族がいたんだ、俺は炎くらいじゃ死ねない、俺にしかできない」
レオンは穴から飛び降りると動かなくなった老婆を担ぎよろよろと入り口から出た
2人の体は焼けただれ、嗅いだ事の無い悪臭が漂い、体中からいろいろなものが流れ出していた
「今・・皆の・・・所に・・連れて行っ・・てやるから」
無事とはとても言えない体で宿から脱出したレオンはそのまま涙を流したレイナと墓地へ向かった
終始無言で墓地まで歩くレオンのそばにぴったりとレイナは横を歩いた、レオンから出る色んな物が焼ける匂いにもレイナは顔色1つ変えずに付き添った
墓地に着くとレオンは婆さんの名前がわからないことに気が付き、墓地の片隅の立派な木の根元に埋めてやることにした
「…護れるものにこそ、ふさわしい」レオンは思い出すようにそう言った
「そうね、この木もおばあさんと一緒に護り続けてくれるわ」
「いや、婆さんがそう最後に言ったんだ」レオンは黒い剣を取り出す
「!!!その剣!!」レイナが目を見開く
「もらったんだ、あの物語の女の子は婆さんだった」レオンは剣を見つめながらそう話す
「そうだったの」レイナは婆さんのために今度こそ幸せな人生が送れるようにと願った
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墓地の片隅でレイナに体を治してもらっている途中、眠るようにおとなしかったレオンがふと口を開いた
「まだ動いちゃだめよ、終わってないんだから」レイナがそう言ってもレオンは聞いてくれと言ってきかなかった
レオンは仰向けの恰好のままゆっくりと剣を掲げた
「俺はこの剣と婆さんとお前に誓う、俺はこの手で大切なものを護る、誰も殺さないと」
「レオン・・だからそれは!!」レイナが怒りをあらわにする
(こいつこんな目に会ってもまだこんなこと言ってるの!?)
「ちゃんと聞いていてくれ、俺はこの剣と婆さんとお前に誓う、俺はこの剣で人を殺すことを、この剣でその命を背負うことを・・・・誓う」
レオンは涙を流しながら続けた
「俺はもう大切な人を失いたくない、だから俺は自分が決めた善悪で人を殺すことに迷わない、反省しない、謝らない、剣を抜くすべての理由に覚悟を持ち、俺はそいつに対する絶対的な悪になることを誓う!!」
「婆さん・・・俺は・・・すべてを護りたいなんて言わない、周りの人すら守れない俺にちから・・いや、俺を最も必要としてくれる人を護り抜く姿を、それがどんな無様な姿でも・・見守り続けてくれ」
そう言いながら意識を失うレオンに、レイナは可能な限りこの男に人を殺させないことを老婆に誓うのであった
そしてクラスタの街は眠りにつく・・・