4話 クラスタ~栄光の館
鳥の声が聞こえてくる頃、朝起きたレオをレイナが眠そうな目でこちらをムッと睨んでいた
「レオ、確かに見張りは交代でって言ったけどねぇ、時間の配分がおかしくないかしら?」眠さと苛立ちを隠そうともせずレイナは責めるように言った
あの夜盗に襲われた後、レオンは自ら見張りを申し出たのだが、緊張の糸が切れ寝てしまったのだ
レイナが起きたころには薪の火は消えていて、レイナは夜襲にあわなくてよかったと冷や汗をかきながらまきに火をつけ、そのあとずっと見張りをしていたのだ。
それでもしっかりレオの上に布をかけてあげるなど、なんだかんだいって世話を焼く姿は昔の少女を思い出させた
「ごめん!考えてるうちに寝ちまったみたいだ、本当にすまん!!出発の用意はしておくから、レイナはそれまで眠っててくれ」レオンは申し訳なさそうに目を伏せる
「そうね、そうさせてもらうわ、それにしてもあなたほんとに運が悪いのね?」
「そんなことないだろ、運の善し悪しなんて気のせいだって、そう感じるだけだろ?」
「だって焚き火の心配した後に結局、夜盗と獣が一緒に襲ってくるっておかしいと思わないの?」
「偶然だろ?絶対に起きないってわけじゃないんだしさ」レオはキョトンとした表情で聞き返した
「絶対にはね、でもめったに起きないことにはちがいないわ!」信じられないといった感じにレイナは言った
「あまり起きないなら運がよかったんじゃないのか?早く寝とけって」
「そうね、もう諦めることにするわ、じゃあお休み、準備ができたらおこして」
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それから一週間ほどで商業の街クラスタに二人はたどり着いた。
あの後もなぜか、毎日のようにトラブルが起きたのだが、レオは相変わらず偶然と言ってきかなかった
王都アージェトラムのまわりには街が存在しないため、ここクラスタは人と物が流通する拠点として栄えていた
住んでいる人口は王都に及ばないが面積、資金力共に王都に匹敵するものがあり、毎日がお祭り騒ぎのような街である
「やっとついたな、一番近い街って言ってなかったか?どこが近かったんだよ?」レオンは長旅でぐったりした様子でレイナに訴えた
「だらしないわねぇ、アージェトラム王都の周りに街は少ないのよ、王様があまり近くに街を作りたがらないそうよ」レイナはやれやれとレオに向き直った
「だらしないって、おまえの荷物の半分は俺が運んだんだぞ!?お前ももう少し持てよ!」レオは息を切らしながら抗議する
レイナは聞こえないとばかりの素振りで街を見渡した
「しかしうるさいわねこの街は、とりあえず宿を探しましょう。それから買い物に・・・資金稼ぎもしなくちゃね」
「資金稼ぎ?レイナ結構持ってなかったか?」
「馬を買いたいのよ、これからは荷物が増えるだろうし、私たちの目的は人を追いかけることよ?移動は早いに越したことはないわ」
「へぇ・・なんでもいいけど早く宿を探さないか?もうすぐ日が暮れるし何よりへとへとだ」
「そうね、じゃあ宿探しは頼んだわよ」レイナは極上の笑みでレオを見つめた
「なんでだよ?レイナは?」レオはそれを意に介さず聞き返す
(こいつ、女に興味ないのかしら?出会ってからあまり女扱いされてない気がするんだけど)
「これ、どうにかしないといけないでしょ?」そう言ってレイナは自分の腰を指さす
そこには以前に狼に食いちぎられた穴が大きく開いていたままだった
「本格的な買い物は別の日にするとしても・・ね、この恰好でうろうろなんてできないでしょ?」
「そうだな、あとやっぱりフードは買っといたほうがいいんじゃないか?、お前の顔は目立つからな、街の中では隠してたほうがいい」
「何それ?褒めてるの?わかったわ、それじゃあね」
「ちょ、ちょっと待てよ、俺この人ごみの中からお前のこと探し出せる自信ないぞ!?」レオは歩き出すレイナに向かっておろおろしだした
「何言ってんの、探し出せるわよ…あぁ、ずっと一緒にいたから気付かなかったのね、えっとね、あなたって私からはなれすぎると死んでしまうじゃない?」
「?ああ」
「でも、貴方が私から離れた途端いきなり死ぬわけじゃないわ、私の魔力がだんだん届かなくなって、魔力の枯渇が起きる。私の魔力が貴方にとっての栄養とか血液、空気ってこと、だから限界距離も人それぞれなの」
「だからなんだよ?こんな人ごみでする話じゃないだろ」レオンは心配そうに言う
「つまりあなたには行きたい方向があるのよ、進むのが楽な方向がね、私の近くに行けば呼吸するのも動くのも楽なんだから。逆に離れれば具合が悪くなったり、イライラしたりするの」
「楽な方向に行けばお前がいると?」
「そういうこと、じゃあ宿よろしくね」そう言ってレイナは歩き出す
「…ほんとかよ、何か釈然としないけど…まぁわかった、じゃあな」
~レイナ編~
人々の話し声や怒鳴り声が重なり合って自分の声すら分からないほどの騒がしい商店が並ぶ通りにひと際大きな建物が見えてきた
世界中に存在する正式名称「The mansion of a glory」訳すと「栄光の館」なのだが今はその名を使う者はあまりいない通称「強者の館」と呼ばれている
この街の潤沢な資金のおかげであろう綺麗に整備された道、建物の街並みに似つかわしくない通る人々を威圧する為のような大きさと外観はこの世界の人々の心を表していた
この世界には誰かを護り、助ける人などそうはいない、しかし狙う人、奪う人は掃いて捨てるほどいた。
この建物はもとは強奪、殺人が多すぎて滅びかけの小さかったこの町に「争いたいものはここに登録しろ、このままでは街の人々が生きていけなくなる」と勇者が建てたものだった
レイナがターゲットを探すときには、必ず、ここで情報を得ていた
ちなみに[ここに登録している人物同士が戦うと勝者には{強者の館}内のランキングに応じた敗者のランク相当の賞金が出る。そして、相手が死亡した場合の持ち物の所有権は勝者に移る]というルールがある
レイナは強者を倒す旅をつづける資金をここで得ていた
服を買い終わったレイナは「ついでだし確認しておこうかしら」と館に入って行った
~レオンハート編~
レオンは3件の宿屋に断られた後、古ぼけた宿屋に入って行った
その宿は街の喧騒が嘘のように静かで、昔かいだ事のある懐かしい香りに包まれていた
「じゃあ、とりあえず今日は泊るんだね?続けて泊る時はちゃんと声かけとくれよ」肉付きのいい老年の女性がレオンの顔を見ることもなくそう言った
「わかった、代金なんだが、連れが財布を持ってて今は持ってないんだ。今連れてくるからその時でいいか?」
「泊る前に払ってくれればいつでもいいよ」最後に老婆はレオンを見て
「今の時代誰かと対等の立場で行動を共にする子はめずらしいねぇ、外は物騒だから荷物は家で預かっててあげるよ」
「あんたこそ、いまどき珍しいな」親切な言葉など聞き慣れないレオンは素直に驚いていた
「あたし達みたいな年寄りはまだ勇者様がおった時代に生きてきたからね、今の子たちのように非情にはなれないんだよ、すっかり頭は固くなっちまったけどね」
老婆は皺だらけの顔をさらにくしゃくしゃにして微笑んだ
レオンは再び喧騒の中に戻って行った
「しかし………全然わかんねぇじゃねえか!!!そもそも行きたい方ってどっちだよ!?はぁ…とりあえず商店街に行くか」
しばらく歩いていると、何やらすごい建物からレイナが出てきた
「おーい!レイナ!」
「あら、宿は見つかったの?」
「ああ、大変だったんだぞ?お前は?まさかここで服買ってたのか?」
「そんなわけないでしょ」呆れ顔でレイナが答える
「貴方ここ知らないの?王都にも中層区にあったでしょ?」
「俺が中層区に行けるわけないだろ?許可証がないと下層区の人間は上の居住区に行けないんだよ」
「じゃあ最初から説明しないとね、貴方も登録しないといけないし」
「何勝手に決めてんだよ、なんかやばそうだぞ?ここ」
「ここはね・・・・・・・・・・・・
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「なるほど、で?おれに登録しろと?」
「貴方を連れてる以上はね、貴方は役に立たないけど助っ人扱いされるとお金がもらえないのよ」
「なんで?」
「ここは強者の館、個人の強さが尊重されるからよ」
「へ~、じゃあ仕方ないから登録してくるよ」
「私も行くわ、一緒に行動してることをアピールしておかないと、あなたみたいのは、小遣い稼ぎする人達にここを出た瞬間に殺されるからね」
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登録を終えた帰り道、日も沈み終わり街全体が閉店の準備を始めたころ、大きな通りに二人の姿はあった
「名前書くだけって……別に俺じゃなくてもよかったんじゃないか?なんか一斉に睨まれたしさ、まったく睨まれ損だよ」疲れた様子でレイナの横を歩くレオ
「ほとんどの情報は館がいろいろなところから集めるのよ、だから必要なのは名前だけ、本人しか認めてくれない理由は分からないわ、伝統・・とか?それに皆命を狙い狙われてるからね、威圧したくなるのは、当然よ」
「なんでみんな好き好んでそんなとこに」理解できないといった様子でいった
「私だってわかんないわよ、好きで出入りしてるわけじゃないから」
「そっか、そろそろ急ごうぜ、ばあさん待たせてるんだった」
「ええ」
そして暗い街に2つの影は消えていった…