1話 出会い~契約
その男に奇跡は起きない
どんなに努力しても、どんなに願い求めても、その男の危機に奇跡は起きなかった・・・
勇者と魔王の戦い、そんなよくある話のほんの少し未来の話
勇者が見せた勇気と希望は民衆の心を少しかすめて消えていき、人々は根源的な欲と嫉妬に必死に片足を突っこんでいる最中だった
嘘と裏切り、顔はおろか心にまで仮面をつけて生きる世界に
それなりに馴染み、それなりに孤立していく男
物語はこの男から始まる、、はずだ。
それというのもこの男
とてもではないが先の戦いの勇者のように主人公と呼べる力を持ち合わせていなかった。
外見はそれほど悪くはないのだが
一般人並みの強さに一般人にも劣る学力の無さ
そして本人は認めないが飛びぬけて運が悪かった
どの物語でも間違いなく最初に勇者の剣の錆になる候補No1であろう。
まぁ何しろこの男、名はレオンハートと言うのだが、すでに自称救世主の剣の錆になりかけていた所だ。
しかし、この世界に瀕死の彼を助ける者はいない。武力、知力、魔力、力がすべてのこの世界、力あるものが力なきものに手を差し伸べる光景は自分の地位を危機にさらすことでしかなかった。
~レイナ編~
その女性、絶世の美女にして類稀なる魔力(癒しの力)の持ち主
生まれつき魔力が強い家系に生まれながらも、その力を求めた者たちに家族を殺され自分の魔力を隠して復讐の旅に出る。
もとは魔力とあいまって聖女と呼ばれるほどの心やさしい少女であったが、旅に出るうちに
その面影は薄れ剣の扱いに慣れ、顔を隠し剣と薄汚れたマントを羽織る姿は聖女というよりは女傭兵であった。
レイナの家族は一般人にはとても殺せるような人ではない
そう考え、彼女は腕の立つものを倒し情報収集しているうちに一人の剣士の情報を手に入れた。
(白き衣に身をつつみ自らを救世主と名乗る剣士・・・か)
「なんか胡散臭いけど、最近はとにかく情報がすくないからね、だめもとで行ってみようかしら」
そう呟くとレイナは雑踏の中に身を消した。
~レオン編~
降りしきる雨の中、寒さと冷たさに目が覚めた。
(生きてる?・・・生きてるな・・・・けど、今は生きてるってところか、血を流しすぎた、あいつらは無事かな)
「何だったんだ、クソッ」まわりの死体に向かって呟いた
助けるという意思が希薄なこの世界に孤児院はない、レオンはそんななか身寄りのない子供を集めて一緒に畑と家畜を飼い暮らしていた。
そんなある日、身なりの良い小さく丸い男が現れた。
「君かね、レオンハートという者は」
「・・・・」 レオンはその男を睨みつける
「聞こえなかったかね?レオンハートは君か?」男はいらいらした口調で再び聞きなおす。
「人にものを聞くときは自分から名乗るのが筋だろうが、自分の常識さえ金に換えちまったのか?」
「こんな下層区で常識を説かれるとは思わなかったよ、私はオズウェル氏の使いでね、主は君に頼みたいことが有るそうだ。とりあえず君の家に案内してくれるかね」
ククッといやらしい笑みを浮かべてその男は言った
(オズウェル?確か悪い噂には事欠かない男だと聞いた覚えがあるな、やばくなる前に子供たちを逃がさないとな。
幸い家の中に子供たちはいない、家の詳しい場所も知らないみたいだ、家から離れてから追手を撒くか)
「こっちだ・・・で、話したいことって?」できるだけ落ち着いた口調でレオンが問う
「じつは君の家と子供たちを売ってほしいのですよ、ありふれたセリフですが報酬は望みのままです。そしてあなたに拒否権はありません」
「それは、あんたが決めることじゃねえだろ」
「もう決まってるのですよ、私はあくまで時間稼ぎ、こんな物騒なところまで私一人だけで来るわけがないでしょう、それに子どもたちならもう捕まえ終えたころでしょうし」相変わらずいやな笑みを浮かべてその男は答える
(なに!!?早く助けにいかないと!!)
急いで向かうべく振り返ったそこには一人の男が
(下層区みたいに汚れた場所で白い服?それに腰のあれは・・・剣の柄か?)
レオンが無視して通りぬけようとしたその時、熱く鋭い痛みとともに目の前に地面が迫ってきていた。
「グゥッ!」レオンが痛みに呻く
「君たちがオズウェルの部下か?」白い剣士が血の付いた顔ですがすがしく言い放った
「何だお前は!?くそっお前たち出てこい!」使いの男はそう言って部下を呼ぶと逃げるように走り出す
「これで決まりだね救世主の僕が君たちの悪事をここで断つ!」
その次の瞬間男たちは一斉に血を噴き出して倒れ、残ったのはウットリと血に染まった剣を眺める剣士だけだった。
(救・・・世・主?)そうしてレオンの意識は途切れた。
~レイナ編~
目撃情報を頼りに雑踏を進むレイナ
(下層区の身寄りのない子供が暮らす家ねぇ)
自ら救世主を名乗る男がそんな場所に何の用だろう?
そんな疑問を抱えたままレイナはレオンの家にたどり着く。
しかし、そこにはかつては家であったであろう瓦礫と嗅ぎ慣れたにおいが充満していた。
(このにおいは・・・・血!?)
レイナはあるものに目がとまる
(マント?血まみれだけど・・・それにこの足跡)
マントの付近からは隠す気などさらさらないのか血で足跡が残っていた。
(・・・行ってみよう)
剣の柄に手をのせてゆっくりと歩き出す。そこには、おびただしい量の死体が並んでいた
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レオンの体は体中の熱がなくなりかけていた。
(何だったんだあいつは、なんで俺まで一緒に。救世主だと?勇者の後でも継ぐつもりか?)
「くそっ、救・・・世・主」呼吸もままならない声でそう呟く
レオンはもう助からない確信があった。
「救世主?」レイナは生存者がいたことよりもその一言に驚かされた
(どういうこと?あれはおそらくあそこに住んでいた子供たちの血、その足跡の先に救世主ですって?)
レイナはこの疑問を解決するであろう唯一の生存者を前に深く考え込んでいた
レイナならばこの男を救うことができる、むしろここまで瀕死だとレイナにしか救うことはできなかった。
(私が力を使えば、必ず誰かが私の存在を知るはず。一族を皆殺しにするほどの力を持った者、そんな奴と真正面からやりあいたくなんてない、でも相当腕の立つただのチンピラならそいつも情報源になる可能性が高いわ。リスクは私の命、リターンは情報ってとこね・・・どうしようかしら)
その時、もはや意識すらないであろう男が言葉を発した。
「ま・も・・・・る」
「?」
「あ・い・・つら・・・・・を・守らな・・きゃ」「もう・二度と・・・繰り返・させない」
そう言って男は意識の無いまま立ち上がろうとしている、むろん立ち上がることなどできない、子供たちを救うことなどできない
子供たちはもういないのだから、それにこの男に奇跡は起きないのだから。
もはや動いてるという表現よりも痙攣していると言ったほうが正しい、けれども男はあきらめない
奇跡的に立ち上がれたとしても歩くことさえできないのに、それでも男は止まることはなかった。
「か・ぞく・なん・・だ」おとこは意識を失い目を瞑ったまま涙を流し、どんなにみっともない姿になろうとも、助けを呼ぶことは一度もなかった。
(家族・・ね)
レイナは男に向き直ると
力を発動しながら語りかけ始めた。
(生きたいですか?)
(・・なんだ?)レオンはいきなり頭に浮かんだ声に驚き答えた
(・・・生きたい)
(この荒んだ世界・・欲と嫉妬にまみれた世界であなたはなぜそんなに生を欲するのですか)レイナは聖女と呼ばれていた時のように優しく語りかける
(護りたいんだ)
(その結果あなたがまた死ぬことになったとしても、ですか?)
(こんな俺にも護りたいものができたんだ、護りぬいて、あいつらにも見つけてほしいんだ)
(なにを・・・ですか?)
(そいつが立ち上がるのに必要な理由だよ、護るもの、譲れないもの、大切な人、いろいろさ)
(それと引き換えに、あなたの大切なものを失っても?)
(ああ)
(それではあなたから対価をいただき再び現世へと戻る道を示して差し上げましょう)
(対価?)
(あなたから時間と死をささげてもらいます)
(どういうことだ?死をささげる?)
(不老不死です、あなたの望みを永遠に果たしてもらいます)
(不老不死?それは対価になるのか?報酬じゃないか)
(・・・あなたはこれからの新しい出会いに護りたいという感情を持つことがあるでしょう、しかし、あなたはその人々を護り続けても、あなたは必ずその人々の死を見届けなければなりません、それはあなたにとって死よりも辛いことでしょう。そしてあなたは老いない、あなたは同じ人とのつながりを持ち続けることができずに住処を転々としなければならないでしょう)
(契約は交わされました、しばらくお休みなさい)