18話 在り方~狭間にて
~在り方~
石・・・・・意志・・・・遺志
・石はぶつかり傷を生み
・石は積まれ波を防ぐ
・意志は他者の意志を妨げ
・意志は他者の存在を確立させる
・遺志は生者へ標を与え
・遺志は生者へ過ちを引き継ぐ
・・・・・・・武器・・・・・・・
限りなく薄くされた鉄は刃となり人を傷つけ、動物の肉を裂き、植物を断つ
盾に加工された鉄は傷から身を守る。が、その重量で殴打すれば無傷ではいられないだろう
鉄だけではない、はるか上空から石を落とせば、それは重力によって正に凶器と化す
使い方次第でありとあらゆるものが武器と化す
「武器に善悪は無い、つかうものに善悪があるだけだ」
・・・・よくある言葉だ、聞きあきるほどに。しかし、故に説得力がある、皆が盲信する。
謝罪の言葉は回数に比例して価値が下がるというが、ひたすら生涯をかけて言い続ければ誠意も少なからず伝わることだろう
生まれたときから聞き続けた言葉を疑い続ける者がいたとすれば、それはよほどの変り者である
「武器に善悪がない」という言葉を口にしながら
「作ったものには心が宿る」というキャッチコピーで鉄を打つ鍛冶屋
心はあるが善悪は無く、ただ通り過ぎるものを切り捨てる
それはもはや使い手より残虐なのではないだろうか
「善意の刃」「悪意の言葉」行為は善悪によって重さが変わるのだろうか?
「勇者の殺人」は救済となり
「魔王の殺人」は虐殺となるのか?
そんなくだらない議論は金と時間を余らせた身なりの良い豚共にでもやらせておけばいい
高潔さ、価値、名前
すべて人間が勝手に決めたこと
刃は物を切り、重力や引力は物質を引き寄せる
それ以上でもそれ以下でもない
善と悪などありはしない
それは自分の行為を正当化し罪の意識から逃れるための魔法の言葉。
生まれたときから聞かされ続けた結果、盲信しているだけ
高らかに掲げられた剣に大義名分などありはしない
そこにあるのは忘れられた罪悪感と滴る血液のみである
世界に真理など存在しない
あるのは生物間の利害の関係のみである
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「う・・ん・・・ここは?」
レオンは闇の世界で脳を失った後のことは記憶できていない、何せ書きとどめる媒体がないのだから
「起きた?」ここ最近になってレオンの命の瀬戸際に関わっている女性が椅子に座って微笑んでいる
「ああ、ここは・・・闇の世界ではなさそうだな・・・・明るい」
「私が誰だか…わかる?」
「姉さん、悪い冗談だ。名前はセリナ、俺の実の姉であり唯一の肉親だ」
「やっぱり気が付いていたのね・・・」
「あと、弟の俺より・・・っていうか俺の知ってる誰よりも喧嘩が強くて、愛の魔法とか言いながら不思議な力を使っていたな。今振り返ると本当に何かしらの魔法を使っていたんだな・・・」
「そうよ、私とあなただけの力。世界に忌み嫌われた存在しないはずの魔法」
「セリナ、その話は順を追って話してやれ。要点だけを伝えようとするのはお前
「とあなたの悪い癖ですね」
「・・・・・姉さんの知り合い?」レオンは明らかに人間とは思えない目の前の2人組を見ながら問いかけた。別段特殊な外見をしているわけではないのだが、この2人が醸し出す雰囲気は明らかに異常だった
「分かってはいたが改めて言われるとなんかへこむな・・・」
「仕方がありません、私たちの存在を認知しているのはこの世界の人々とセリナだけだったのですから」
「で、あの・・・・誰?」
「私の両親よ」
「ね、姉さん?それって・・・」
「俺たちがお前の生みの親ってことだ」
「まぁお腹を痛めたのは私ですが」
「レオンはあった事無かったものね。あなたがまだ赤ん坊のころにはここに居たみたいだし」
「俺の・・・・親。ま、まぁ理解した。ところでこの状況でもっとも疑問な部分がまだ分からないままなんだけど」
「何かしら?」レオンの母親が答える
「えぇっと・・・まずは・・・名前!その・・・父さんと母さん・・でいいのか?後は此処はどこなんだ?俺は死んだのか?」
「そういえばまだだったわね。私があなたの母のリディア・ブライトよ」
「俺がお前ぇの親父のゲイツだゲイツ・シュバルツ。因みにここは地獄でも天国でもねぇ、そもそもそんなものがあるかどうかさえ俺の知ったことじゃぁねぇが」
「ここは死んだのに残ってしまった魂、思念、つまり消滅しなかった存在が集まり暮らしている世界なのよ。あと、あなたみたいな正規の手順で死ななかった存在も…ね」
「俺とリディアで作り上げた」
「へ~・・・・・って、ええ!!?」
「パパたちは光魔法と闇魔法で無から有を作り出してしまったらしいの。おかげでまたこうしてレオンとも会えたんだけどね」
「らしいの・・・って」
「つっても別に新たな世界を作り出した創世者ってわけじゃねぇぞ?大きな町レベルの空間を恒久的に発生させてるだけだ」
「はぁ・・・正直何言ってるのかさっぱりだけど。もしかして俺の親はこの世界で一番偉いのか?」
「この空間は二人で作り出したんだけど、発生させる役割は白の一族である私の役目でね・・・皆、私が一番の権力を持っていると思っているみたいね」
「ボソ・・・・そりゃあお前の俺に対する態度を見たら誰だってそう思うっつうの」
「黙りなさい・・・あまり起きたばかりで長話も大変でしょう。用件だけ伝えて私たちは席をはずすわ」
そういうとリディアはゲイツに目配せした
「俺かよ!?あ~・・・ええとだな。・・・強くなりたくはないか?」
「え?なりたいけど?」
「は~・・・全く・・・その説明では誰だってそう答えます。不快に思うかもしれないけど私たちは貴方が生まれたときから貴方がシャドウの中に入るまでのことをほぼ全て知っています、正確には監視していました」
「ごめんね」セリナも苦笑しながら謝る
「そこで、その・・・今のあなたが一番欲しているのは守るための力、なら白と黒を極めた私たちとあなたと同じ白と黒から生まれた新たな魔法を持つセリナが貴方を鍛えてあげようという話なの」
「とても魅力的な話だけど、いろいろ聞きたいことができた」
「何?」
「まず基本的なこと、さっきの話だと俺は正規の手順でないにしろ何はどうあれ死んだんだよな?いくら強くなったって守る相手も振るう相手もいないなら無意味じゃないのか?」
「それなら心配らないわ、セリナとレオンは私が生き返らせます。言ったでしょう?白を極めたって、回復魔法で私より優れているものは存在しないと思うわよ?」
「じゃあ二つ目、今の俺たちのメンバーなら多少の腕ききやごろつき位問題ない。今までを見てきたのならなおさら分かっているはずだろ?だったらさっさと生き返らせてはくれないのか?」
「まぁそりゃぁそうだが」
「ごめん、わがままが言いたいんじゃないんだ。ただ・・・その・・まるで俺が負けるとこを見てきたような・・・明言はしてないけどそっちから頼んできている気がするんだ。俺が頼むべき内容なのに」
「それは・・・」
「ごめん、無理に聞き出したいわけじゃないんだ、ただはじめから気になってたことがあっただけで。最後の質問いいかな?」
「・・・ええ」
「なんでみんな俺と微妙に目線をそらしてるんだ?」
「!!・・・・・やはり親子ね・・・ここ一番で妙に勘が働く。いずれは伝えなくちゃいけないしね・・・私たちは・・・貴方に決して楽ではないお願いをしなくちゃいけないの」
「そのためには強くなる必要があると」
「レオン・・・俺たちがここに居る理由・・・ここを作らなくちゃいけなくなった理由がわかるか?」
「そもそも、ここを作れるほどの術者がなんで死んでるんだ?その外見からして寿命とはとても思えない」
「いい着眼点だ。俺たちは殺された、正確には瀕死にされたんだが」
「そこで逃げることが不可能と判断した私たちは、残りの命や魔力すべてを代償に何とかここを作り出すことができた」
「そしてここで力を蓄えてやつを倒しに行くはずだった」
「けれど、今の実力を身につけるために力をつけているうちに尋常じゃない量の人がここへ送り込まれるようになっていた」
「事故死や自殺位じゃあここには来ない、すぐに誰の仕業か見当がついたわ」
「勇者だ」
「勇者ってあの?一体いつの話を・・・・勇者なんてもうおとぎ話になる位昔の存在だぞ?」
「お前がそれを言うか・・・・不老不死のレオンハート」
「まさか・・・勇者も?」
「さらに驚きの真実をやろう。勇者が今何て名乗っているか・・・・お前ならもう当てられるんじゃぁねぇか?」
「・・・・救世主」
「そうだ、やつは世界を救ったはずだった。けれど世界は一向に良くならねぇ、勇者はそれでも悪党を狩りつづけ・・・そのうち気に入らないものの存在を片っ端から消し始めた」
「人間を残らず殺されてはまずいと私たちが説得に向かったわ」
「けれど目撃証言があった町へ行くと住民はほとんど殺された後だった、そこで偶然子供に剣を突き付ける勇者を見つけたのさ」
「私たちは子供を守るために力を勇者に向かって行使してしまった」
「そのあとはさっきの話の通りさ」
「私たちがここを離れると徐々にこの空間は消えていくわ、実質私たちはもうこの空間から長時間離れられないの」
「言いたいことはわかった・・・・けど、安全の保障されてない世界であいつらだけで旅をさせるのはあまり受け入れられない。それに、レイナのことも」
「正直、私たちも貴方の意見を優先させてあげられるほど余裕がないわ、人間の未来がかかっているからね。だから譲歩できるところ、私たちにできることなら喜んで手を貸させてもらうわ」
「分かってるよ、最終的には俺をここから出さないで無理やり訓練させればすむ話なんだ。それを口にしなかっただけでも俺は父さんたちのあいじょうをかんじたよ」
「ありがとう、今までさみしい思いをさせてごめんね・・・今はゆっくり休んでちょうだい」
狭間の地での新たなる一歩が始まる・・・