14話 漂流~父親
空には光り輝く宝石がちりばめられ、海の覇者との戦いに勝利したレオンたちを静かに照らしていた
海はいまだに暗く、不気味な色が船員たちを自室に閉じ込めていた
クラーケンに勝利した海賊船は広大な海の真ん中で皮肉にも漂流する羽目になっていた
事は3日前に遡る・・・
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「も・・もう食えない」レオンは意識を夢の中に手放しても食べ物に襲われていた
(無理などしないで残してしまえばよかったものを、相変わらず馬鹿だな)そう言ってレオンの見張りを引き受けるサイファーの声色はどこかうれしそうだった
因みに、サイファーとレオン以外は現在諸事情により作戦会議をしている
「・・・・・で?どうするの?」レイナは心なしかイライラしている
「い、いや僕だってまさかこうなるとは・・・確かに頼んだけど持ってきたのは・・・」マークはカードを手で弄びながら目をそらす
「あ、あっし達のせいだっていうんですかい!?それを言うならそもそもあんたが・・・
「あんたたち!!今はそんなことはなしてる場合じゃないだろう?」イレーネが熱くなりだす男どもをたしなめる
「そうよ、いまさら元には戻らない・・・いま大事なのはあんた達がクラーケンに使ったあの紐の材料になったものをどうやって作りだすかってこと」
そう、今この船には帆が付いていなかった
マークは先の戦いの際イレーネに出来るだけ大きな布を持ってきてくれと頼んだのだが、イレーネの命令を受けた手下達は満足そうな顔で船の帆を持ってきたのだった
しかし、船内に隠れていたマークはその布が何か分からず
イレーネは船を守るためにデッキに戦いに行ってしまったのだった
だが、そのおかげで助かったのも1つの事実であり皆彼らのことを怒るに怒れなかったのである
「落ち着いた?で、誰かいいアイデアは浮かばない?」レイナは頬杖をつきながら周りの人間を見渡す
「よくわからないけどさ、魔法で何とかできないのかい?」イレーネがレイナとマークに聞く
「う~ん、それはちょっと無理かなぁ・・・」マークは申し訳なさそうに言った
「そうね、この男みたいに封印しておいて後から取り出すことは出来ても実際に新たに何かを作り出すことは出来ないわ」
「ばれてたのか・・・皆、一応秘密にしておいてね」マークはそう言いながら頭をかく
「じゃあ材料さえあれば何とかなるのかい?」
「私は無理だけど・・・この密航手品師には出来るんじゃないかしら?」
「だからマジシャンだってば・・・まぁたぶん出来ると思うよ?でも殆どの布はあの紐に使っちゃったけど・・・」
「服があるじゃないか」イレーネはにやりと笑ってマークを見た
「ふ、服って!・・・いいのか?君たちは女の子だろうに」マークは顔を真っ赤にして聞く
「馬鹿ねぇ、あんた達の服だけに決まってるでしょ?上着だけ組み合わせれば十分だろうし」レイナは笑うイレーネに程々にしなさいと言いながら男たちに伝えた
男たちの間には明らかにガッカリした空気が漂っていた
「わかったよ・・もとはと言えば僕たちのせいだしね。でももう漂流して3日は経つよ?進む方向はわかってるの?」
「密航者に言われると無性に腹が立つわね・・・それは私とイレーネで何とかするわ」
そうして、無事漂流打開の策を見つけた海賊船は各々自由に夜の時間を過ごしていた
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光さえ射さない漆黒の帳の中、船首に佇む女性の影が一つ・・・・
「父さん、仇・・・討ったからね。ちょっと手伝ってもらっちゃったけど・・・もうあの人たちも仲間・・・・って向こうは思ってないだろうけど・・・・」
イレーネはとても海賊の頭領とは思えないほど女の子らしい話し方で海へと語りかけていた
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「そうだ、サイファーちょっとレイナのこと呼んできてくれないか?」
(別にかまわないが・・・何の用だ?)
「ん~・・・そろってから話すよ、あんまり自信ないし」
(わかった、ちょっと待ってろ)
サイファーは出て行ったかと思うと、そのまますぐに帰ってきた
「ん?忘れものか?」
(いや、レイナならドアの前にたっていた)サイファーは呆れるように部屋に戻ってきた
「どうしたんだ?部屋の前で立ってるなんて」レオンはいまだにベットから起き上がれず、首だけ持ち上げて聞いた
「べ、別に?なんでもないわ」レイナはレオンと目を合わせずに部屋に入ってきた
(大方、心配で仕方がなかったが、原因が自分にもあるので素直に入ってこれなかったんだろうよ)
レイナはサイファーをキッと睨むとレオンのほうに向きなおった
「その、ごめんなさい・・・いろいろと迷惑かけちゃったわね」
「まったく・・・別にいいって言ったろ?感謝はするけど謝ってほしいなんて思ってないから、それに怪我の残りも少しずつ治してくれればいいから」
「でも・・・なにかあったら気軽に声掛けてね?何でもするから」顔を真っ赤に染めながらレイナはもじもじとレオンに言った
「大げさだなぁレイナは、じゃあレイナにちょっと頼みたいことがあるんだけどさ」
「な、なぁに?」うれしさを押し隠して答える
「イレーネに会いに行きたいんだ、連れて行ってくれないか?」
その瞬間レイナの体温が音を立てて下がっていくのをサイファーは感じていた
「・・・・え?」
「だからイレーネに大切な話があるんだって」
「・・・・・これは、うん・・・そうね・・・殺そう・・・もういいや殺しちゃえ」レイナの背後に不気味な影が現れる
(落ち着けレイナ!!それはさすがにお前の品位を下げるぞ?それに考えてもみろ?この男にそんな器量はないさ、お前が一番よく知っているだろうに)
「そ、そうね・・・危うくクラーケンの犠牲者を増やすところだったわ」
(自分の罪にはしない予定だったんだな)
「???何こそこそ話してんだよ?これなんだけどさ、レイナは見覚えあるだろ?」
「これって、クラーケンに刺さってた剣?」
「そう、もしかしたらと思ってとっさに引き抜いておいたんだ」
(もしかしたらというと?)
「これさ・・・イレーネのお父さんの剣じゃないかな?」
「確かにその可能性は高いわね・・・・でも・・・・イレーネに見せるの?違うかもしれないし、もしそうだとしても」
(その時点でイレーネの父親は行方不明ではなくなる)
「そうよ、どちらにしろつらい結末よ?」
「でもさ、もし俺たちのだれかが行方不明になって長い時間がたったとするだろ?」
(今回と同じようにか?)
「そう、それでサイファーの鐙やレイナや俺の剣が見つかったらどうする?」レオンは2人を交互に見る
(もちろん)「確かめるわ」
「だろ?ほかの誰にも渡したくないはずさ・・・それに・・・・」
「それに?」
「イレーネ、父親の武勇伝の話をするときさ、すごくさみしそうな顔するんだよ・・・もしかしてイレーネは一度も父親の勇姿を見たことないんじゃないのかなって思ったんだ」
「まぁ確かにあの剣がなくちゃ勝てたか分からないわね」
(なるほどな・・・)
レイナとサイファーは顔を見合わせる
「ど、どうかな?」
「いいんじゃない?」(いいと思うぞ)
「じゃあ悪いんだけど運んでくれないか?お前たちだけに責任押しつけたくないし」
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光さえ射さない漆黒の帳の中、船首に佇む女性の影が一つ・・・・
「父さん、仇・・・討ったからね。ちょっと手伝ってもらっちゃったけど・・・もうあの人たちも仲間だし・・・・って向こうは思ってないだろうけど・・・・」
イレーネはとても海賊の頭領とは思えないほど女の子らしい話し方で海へと語りかけていた
「思ってるさ!!」レオンは優しく、けれどはっきりとイレーネに言った
「なるほど、そっちがほんとのイレーネさんってわけね?」
「!!」イレーネは涙を流したまま驚き振り返った
(レイナ)サイファーは強い口調でレイナをたしなめる
「そうね、悪かったわ」
「いいんです。ありがとう、その・・・サイファー・・・さん?」
(私のことは気にしなくていい、ただの馬だ)
「で、サイファーには悪いけどそっちが素なの?」
「ええ、母は強者の館ができたころに危険だからと別の町に移り住んだそうです・・・そこで生まれたので、私自身はただの町娘になります。ですが母が亡くなってすぐにボンズさんが迎えに来て・・・・生活は保障するので形だけでも、と」
「それで海賊の船長に」レオンは思わぬ事実とイレーネの素顔に驚いていた
「ええ、町の人も海賊の方も皆よくしてくれるのですが。海の仕事なので肌は日焼けしてしまい、髪は茶色く傷んでしまって。それに、一応船長を演じなくてはいけないので言葉づかいも中途半端に・・」イレーネは話しながらみるみるうちに落ち込んでいった
「なんか、可哀想になってきたわ」
「気にしないでください。それで、何か用事でしょうか?」
「ああ、これなんだけどさ、クラーケンに刺さってたんだ」
レオンが剣を渡すとイレーネは再び涙をこぼした
「!!これ!パパの剣!・・・・私があげた剣!!パパはやっぱり・・・」
「行くわよサイファー」(ああ)
「今回だけよ」と言い残しレイナはサイファーを連れて戻って行った
「うっ・・・・ぐすっ・・・ごめんなさいレオンさん・・・今までだましていて・・・それに今も」
「いいさ、確かに嬉しい話ではなかったけど、偶然でも自分から打ち明けてくれたのは皆嬉しかったよ」
「やっぱり、父さんはもう死んでしまっていたんですね・・・」
「そうだな、武器を持たずに船もなくこの海を生き延びるのはかなり厳しいかもな」
「わたし、実は父親の顔を見たことがないんです」
「でもこの剣はイレーネがあげたんだろ?」
「正確には送ったんです、お母さんに父さんの家系は代々皆を剣で守ってきたと聞いたので・・・・一生懸命お小遣いをためて鍛冶屋に通いました。そのうち店主さんに顔を覚えられて、特注で作ってもらったんです」
「そうか」
「私は本当に愛されていたのでしょうか?・・・・この剣を見ても全く実感がわかないんです、あったこともありませんし・・・母もあまり父の話はしませんでしたから」
「う~ん」
「あ、あの!別に無理して考えていただかなくて平気です!愛されていたんだろうなぁ・・・とは思っているので」イレーネはあわててレオンを止めようとした
「えーと・・あれはプラシェに着く少し前だったな」
「???」急に話し出したレオンにイレーネは戸惑っていた
「レイナと俺は旅を始めて初めての決闘・・・というか練習で戦ったんだ」
「・・・はい」
「その時にさ、俺がレイナの剣を折っちまったんだよ」
「はぁ」
「その時レイナにひたすら謝ってたらレイナに言われたんだよ・・・道具は結局どこまで行っても道具なんだって、結局いつかは壊れるんだって。でも今ここにその剣が剣のまま存在してる・・・それって結構すごいことなんだとさ」
「それは・・・レイナさんが?」
「ああ・・・あいつ素直じゃないからさ・・・・直接言えって言ったんだけど」
「レイナさんらしいですね」
「あともう一人・・・じゃなくて1頭か・・・サイファーもな、本当に愛していたからこそ自分の感情よりお前の安全を優先できたのではないか?だってさ」
「サイファーさん」
「この剣を見たときにさ、もしかしたらって思ったんだ・・・そしたら、ああ、力尽きてもあの町を・・・その先に居る娘を守りたかったんだなぁって思った」
「レオンさん・・・」
「でも、皆で悩んだんだよ・・・この剣を見ることでイレーネが喜ぶことは無いって分かってたし」
「そんな!・・・・ことは・・・」
「無理しなくていいって、誰だって愛する人の死はつらいもんさ」
「・・・レオンさんもですか?」
「ん?」
「私が死んでもレオンさんは悲しんでくれますか?」
「そりゃあもちろん悲しいさ、でもそういうことはあまり言わないようにな?」
「はい!あのレオンさ
「はーいそこまで!!」
イレーネが言い終わる前にレイナが大声でそれを止めた
「サイファー!!レオンを連れて行ってあげて」
「そんな!まだ話の途中・・」
「レオンはまだ怪我人よ?あまり外に出さないほうがいいわ」
「悪いなイレーネ、どの道サイファー居ないと部屋まで帰れないし」
「はい・・・」明らかにしゅんとした様子でイレーネは答えた
「・・・・行ったわね」
「なぜ残ったんですか?レオンさんは行ってしまいましたよ?」
「うるさいわね、あなたに話しておこうと思ったのよ、レオンのことを」
「レオンさんのこと?」
「あの男を好きになるのはやめておきなさい、って私が言っても説得力に欠けるわね」
「そうですね、やきもちにしか聞こえません」
「あいつは・・・レオンはね、不老不死なのよ、私がしたわ」
「!!なんで!それじゃあ」
「そう、あなたが老婆の姿になってもレオンは今の姿のままなの・・・それに結婚したとしても術者の私とも一緒に生活しなくちゃいけないわよ?」
「私に、話していいんですか?レオンさんの・・・1番の秘密じゃあ?」
「許可はとったわ、本当は自分から言うって聞かなかったんだけど・・・私がやったことだしね」
「なんで・・・そんなことに?」
「話すと長くなるんだけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
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「そうですか、でも!私は諦めませんからね!!」
「別にいいわよ、でもあいつの前であまり人が死ぬ話をしないでほしいの・・・・・・たとえば、自分が死んだら?とかね。レオンにとってそれは冗談じゃ済まされないから」
「それは・・・すみませんでした」
「私に謝んないでよ、それが言いたかっただけだから・・じゃあね」
「レイナさんはレオンのこと・・・・
「好きよ?あいつは姉みたいだと思ってるんだろうけどね」
「負けませんからね!!」
「勝手にすれば?」
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「確かに勝手にしろって言ったけどねぇ」
「はい、聞きました」
「くっ!!」レイナは八つ当たりする相手を探すが目が合うと皆逃げてしまった
今は皆で夕食の時間である、ただしレオンとイレーネは別の席で別の料理を食べている
イレーネは箸が足りないからと言ってレオンに自分の手料理を食べさせていた
このときのレイナは、後にボンズの日記で「レイナはクラーケンより怖かった」とまで書かせるほどの威圧感だったという
船から見える景色には大きな影・・・次の大陸が見えてきていた