11話 海賊~女船長
街には灯りもなく、光の無い海は心の底から恐怖を引きずりだす
今までの野宿と違い、潮騒の音が旅で疲れていたレオンたちの眠りお妨げていた
寝床に入った一行はお互い疲れているのを気にして話しかけられず、無言でベットに入り耳に慣れない海の音に耳を傾けていた
その時、部屋の窓がガタガタと音を立てた
(ん?風か?)レオンは窓から一番遠い場所に寝ていたので窓に映る影には気がつかなかった
(はぁ・・・・何よこの影・・・隠れてるつもりかしら?)レイナは精一杯小さくなろうと頑張る大柄の男の影を見てため息をついた
「レオン・・・こっちよ」レイナとレオンは静かに行動を開始した
「お、おすなよ!ばれちまうだろうが!」男の一人がこそこそと仲間に耳打ちする
「狭いんだからしかたねぇだろうが!お頭が俺達で行けって言うからついてきたんだろ!お前だけ窓から行けばよかったんだ!」
「お前らばれるから喋るなよ!!」
「そう言うお前もな」
「そうそう」
(あいつら昼間の?)
(たぶんね、何しに来たのかしら?)
「よし!せーので行くぞ?」
「分かった」「分かった」「おう!」
男たち「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「言えよ!?」思わずレオンが突っ込む
「そう言えばあんたもバカだったわね」レイナはため息をつきながら頭を抱える
「せっかく隠れてたのに台無しじゃない!!あとでお仕置きよ?」
「い、いやだってな?責任はあいつらにあると思わないか?」レオンは多量の汗をかきながらレイナをなだめる
男たち「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あんな奴らまともに相手するだけ時間の無駄なのよ!」
「それは言いすぎだろ!?」「無視すんな!!」男たちはそれぞれ不満の声を上げた
「うるさい!!」レイナは顔も向けずに一喝する
「はい!!」男たちは訓練された兵隊のように一斉に動きを止めた
「大体あんたはいつもいつも・・・・・・
「はい・・・・すみません・・・・気をつけます・・・・はい・・・はい」
それから固まったままの男たちを無視してレイナは説教を始めて1時間ほど経った頃
「・・・・・・あのー、そろそろやめてあげた方がよろしくないですかい?もう十分反省してるみたいですし」一番前で固まっていた男がレオンに救いの手を差し伸べた
「お前達!!」レオンは目をうるませてその男を見た
「そうね・・・じゃあ次はあんた達よ」ここで初めてレイナは男たちを見る
「い、いや!やっぱり今日は帰りますわ!!用事はまた今度で!!」
「おい!これで帰ったらお頭にどやされるぞ!?俺達2回も説教されるなんてごめんだからな!?」そう言ってほかの男が一番前の男を生け贄に差し出した
「裏切り者!!」一番前の男が逃げ腰でレイナに差し出される
(デジャヴだな)サイファーが未だに寝た振りをしながら男たちには聞こえないように囁いた
「お前が言うな!あの恨みは忘れないぞ?」レオンがレイナに怒られていた姿勢のまま言い返す
「うるさい!!」レイナが怒鳴るとそこにいた全員が硬直した
「一時休戦だ」(分かった)レオンとサイファーはそれを最後にしゃべらなくなった
「あんた名前は?」レイナは地面に男を座らせた
「ボンズってぇいいやす」差し出された男が答える
「あんたら昼間私に絡んできたやつらよね?」レイナは座っている男を見下しながら睨みつけた
「その節はどうもすいやせんでした!!!あまりに美人だったもんでつい」
「それじゃあしょうがないわね、で用事って?」
「なんかいきなり優しくなったぞ?」レオンはサイファーに耳打ちする
(いろいろ気になるんだろう長生きしたければそっとしておけ)寝たふりのサイファーが答える
「聞こえてるわよ」極上の笑みを浮かべたレイナがサイファーに横顔から視線を送る
男たちに、喋る馬が存在すると知られるとまずいのでサイファーは言い訳もできないまま寝た振りでごまかした
「で?用事は?」もう一度レイナが聞く
「「一瞬でこいつらをを倒す腕を見込んであんたらに頼みがある」って俺たちのお頭が呼んで来いって・・・・・あと詫びも入れとけって」ボンズは下を向きながら答えた
「頼んでる立場なのにあたし立ちを呼び出すなんて言い度胸ねぇ?」レイナが再び怖い顔になる
「い、いやこれは単なる言伝でして、都合のいい日時を聞いてくるのが今回の目的なんでさぁ」ボンズはあわてて付け足す
「あんたらがこの街を出て海を渡るようなら手を貸してほしいんですわ、船賃はいらねえし食事もろもろも用意させてもらいますんで」
「でも私たちも暇なわけじゃないのよ、しばらくこの街に滞在するかもしれないし、貴方達が情報収集を手伝ってくれればそのお手伝いをするのも考えてあげるわ」
「本当ですかい!?で?何が知りたいんです?俺たちこの街には顔がききますからなんでもきいてくだせぇ」
「あいつ手下を手に入れはじめたぞ?」レオンとサイファーがまたひそひそと話し始める
(あいつには船のチケットと無料の奴隷が自分からやってきた、位にしか思えないんだろうな)
「白い服を着た自称救世主って名乗ってまわってる剣士と紅蓮って組織について調べてるの、剣士のほうは恐ろしく強いわ」
「分かりやした!全力で調べておきますんで買い物のついでにでも船着き場に泊ってる俺たちの船に来て下せぃ」
「おねがいね、私達でも調べてみるから」
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次の日の昼ごろ、レイナ達はあまり人々の印象に残らないように情報を集めるが、サイファーが立ち聞きした「最近皆船を出したがらない」ということくらいしか分からなかった
「駄目ね、商人ですらあまり話してくれない、会話すること自体嫌がってるみたいだわ」
「俺たちが話しかけた途端無口になるよな、まぁ別に今時珍しくもないが」
(他所から来た連中とのもめごとを避けているんだろう)
「あいつらはどうかな?一度船長にも会っておいた方がいいんじゃないか?」レオンはレイナに提案する
「そうね、私たちにはこれが限界みたいだし、時間も無駄にしたくないしね」
(ちょうどあそこに一隻だけやたらと海賊をアピールした船があるぞ?あれじゃないのか?)
「たしかに、これでもかってくらい海賊船だな」
「あいつらにピッタリね」
船の前まで移動するとちょうどボンズが船に帰ってくるところだった
「おぉ!あんた達!来てくれたのか!その様子じゃあまり成果は芳しくないようだな」
「あなたたちは?」レイナは困った顔で聞き返す
「ん~いろいろ聞けたが俺達には判断できないな、ちょうどいいからお頭の前で話そう。ついてきてくれ」
レイナとサイファーは警戒しながら、レオンは船の中に目を輝かせながらボンズの案内に従い船長室へと導かれた
そこにいたのは日に焼けた肌をした普通の女性だった
「いらっしゃい、あんた達がうちの連中をかわいがってくれたって言う腕利きかい?」
「いや、私は何もしてないけれど?」レイナは人差し指を顎に当て考えるふりをした
男達全員は(嘘つけ!!!)と口には出せないながらも懸命に頭の中で叫んだ
「まぁいいけどね」船長は周りで自分の世話をする男たちには目もくれず話を続けた
「あたしはイレーネ、船長のイレーネさ」相変わらず大きな机にどっしりと座ったままイレーネは自己紹介を終えた
レイナは忙しく世話をする男たちを見てからイレーネに尋ねる
「あなたのほうがこの人たちのことをかわいがってるみたいだけど?」
「そんなことないさね、いつもこき使われて大変だよ」イレーネは疲れたとでも言うようにジェスチャーしながらそう言った
今度はレイナを含むイレーネ以外の全員が(嘘だ!!)と心の中で叫んだ
「じゃ、じゃあ自己紹介も済んだことですし俺たちが集めた情報をお話しますね」ボンズはそう言って2人に確認をとった
「たのむ」「よろしくね」
「はい!え~とですね、まず紅蓮って組織っすね・・・これについては分からなかったっス、すんません。この街には来てないみたいですね。でも変な話を聞きましたぜ!なんでも海の上を歩く人間を多くの漁師が目撃してるみたいでさぁ!中には漁に出たっきり帰ってこない船もいるみたいでして」
「皆船を出したがらないのはそういうわけね」レイナは自分たちの情報にあてはめる
「俺たちの頼みもそれに関係あるんです、帰ってこない船は1、2隻じゃないんですよ、海賊が船出して行方不明なんて笑い話にもなんないっすから、腕の立つ人を探してたんでさぁ」
「確かに海の上を歩けるほどの魔力がある人物はそういないわ、それに紅蓮もこの街によらないで自分たちの船で移動した可能性は大いに考えられわね」
「じゃあ俺たちは、船の護衛をしながらほかの大陸にのせていってもらえばいいんだな?」
「そうね、でもいいの?ここが拠点みたいだけど・・・私達帰りまで護衛してあげられないわよ?」
「あたしたちもやられっぱなしは趣味じゃないからね、あんた達を下ろしたら海辺の街を回って情報を集めるよ、それで定期的にあって情報交換しないかい?いまどき信じられる情報は自分たちで集めるしかない、悪い話じゃないと思うけどね?」
「確かにね、でもさすがに海まで連絡はできないわよ?どうやってあうの?」
「あたしらは船で生きてるからね、連絡と言ったら伝書鳩しかないさ」
「それなら大事な情報はすぐに伝えられそうね」
「交渉成立だね出航はいつでもいいから準備ができたらうちのボンズに声かけとくれ」
「分かったわ、それじゃあ今日は帰るわね」
それから数日間レイナとレオンは万が一救世主に会った時に備えてに毎夜厳しい特訓をして過ごし
海賊たちはやっと海に出られる喜びを胸に抱いて船の整備に励んだ
出航の前日
海賊船には海賊にしては痩せた男がせっせと積み込まれた荷物の中へと潜り込んでいる最中だった