10話 プラシェ~海
サイファーの頑張りもあって目的地のプラシェにはまだ街が賑やかな昼間に着くことができた
磯の香りが香る白い街並みに遥かなオーシャンブルーが一行の心に新たな情景を刻み込んでいた
「うわぁ」
(美しい)
レオンとサイファーは興奮して一緒に走って行ってしまった
「私も初めて見た時はあんな感じだったのかしら?恥ずかしくなってきたわね」レイナは顔を少し赤くしながらも微笑ましく2人を眺めていた
「あんた達ー!私宿捜してくるからー!迷子になるんじゃないわよー!」レイナは走っていく二人に大声で叫んで知らせる
「おーう!分かったー!俺たち船見てくるわー」
(おい!私は落ちたら陸に上がれないからあまり近くに行きたくないんだが)
嫌がるサイファーを無理やりレオンが引っ張っていく
(なんだかんだサイファーも楽しんでるみたいね。昔は餌もらうたびに相手にけがさせてたらしいし本当に嫌なら蹴るなり逃げるなりするからねあの馬・・・・・昨日もレオン蹴られてたし、レオンも日に日に頑丈になってる気がするわね)
「あいつらに買い物任せるんだったわね・・・とりあえず宿、宿っと」
レイナは無意識に気配を消しながら男女隔たりなく逞しい雑踏へと姿を消した
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
レオンとサイファーは港に並んでいる船を眺めていた
「色んな船があるなぁ、お前も見るの始めてだろ?恰好つけてないではしゃげよ!」
(馬がいきなり踊りだしでもしたら病気だと思われるか見世物小屋に連れて行かれるに決まっている、それに自分で言うのも変だが俺が喜んで騒いでいたら気持ち悪いだろう?)
「・・・確かにな、悪かった」レオンは苦笑いしながらサイファーに謝る
(気にするな、心配しなくても心の中はお祭り騒ぎだ)
「お前時々変な冗談言うよな・・・反応に困るんだが」
(そうか?レイナは喜んでいたが)
「お前レイナの年のこと忘れてるだろ?あいつのセンス自体俺たちのご先祖様並み・・・・ゴフ!!!」
(ど、どうした!!怪我か!?今レイナを呼んでこよう!!)サイファーはいきなり倒れるレオンを心配して言った
「だ、大丈夫だ。いきなり魔力がなくなってな、きっとレイナの仕業だ」
(普通にしゃべっていただけだぞ!?聞こえていたというのか?)
その時近くの店から怒りを露わにしたレイナが出てきた
「そんなプライベートを侵害するようなことしないわよ?貴方達と違ってね?」
レイナは剣の柄に手を置いたまま笑顔で近づいてきた
レオンを護ろうと二人の間にサイファーが割って入る
「サ、サイファー!!」レオンは涙ぐみながら信頼のまなざしでサイファーを見つめる
(この間かばってもらったしな、借りは返す)
「サイファー…どきなさい?」依然レイナは不気味な笑顔のままである
レイナは剣を抜くとサイファーに囁く
「そう言えば貴方、魚食べられないのよね?ここは港よ?今私に逆らうとこれからしばらく食事は新鮮な魚になるわねぇ。因みに、もしその辺の草でも食べようものならその日の夕食は新鮮な馬肉になるだけよ」
依然サイファーは二人の間にいる、サイファーはレオンを見た
(レオン・・・・・・)
「サイファー・・・・」レオンは熱いまなざしでサイファーを見つめる
レオンはサイファーの頭を抱くように抱き合った
「…サイファー?」レイナが剣の腹をサイファーにあてる
サイファーの体からは尋常じゃない汗が噴き出していた、頭を抱かれていたサイファーがふと顔を動かす
「サ、サイファー?」レオンはサイファーが襟首を噛んでいる事に言いようのない不安を覚えた
サイファーはそのまま猫の首をつかむようにレオンを持ちあげるとレイナに差し出した
「いい子ね、ご褒美においしいニンジンを買ってあげるわ」レイナはレオンを受け取る
「な!?お前!サイファー!!」
(レオン・・・・よく聞くんだ)
「な、なんか策があるのか?」レオンの顔に少し生気が戻る
(俺は魚が食えない)
「しらねぇよ!」
(そして人参が好物だ)
「それはさっき聞いたよ!!!」
(よく聞くんだレオン!!)
「!!!わ、わかった」
(諦めろ・・・)
「裏切り者!!」レオンは泣きながらサイファーを攻め立てる
(世渡り上手と言ってくれ)
「サイファーちょっとここで待っててね」
(う、うむ)サイファーはレイナの言葉にいちいち体をびくつかせながらおとなしく従った
そしてレイナが物陰にレオンを引きずって行き、レオンの悲鳴が聞こえてから少しの時間が過ぎた
やがて物陰からすっきりしたレイナとげっそりしたレオンが出てきた
「おまたせ」レイナはさわやかな笑みでサイファーに言う
「おまたせ」それに続いて遠くの空から目をそらさないレオンが言った
(……大丈夫か?)申し訳なさそうにサイファーがレオンに聞く
「大丈夫よ?」レイナが答える
(・・・なぜレイナが答えるんだ?)
「大丈夫よね?」レイナがレオンをみるとレオンはびくっと体を震えさせて「大丈夫です」と小さく答えた
「で、私の年がどうしたって?多すぎるって?」レイナがレオンに輝く笑顔を向ける
「い、いや!!レイナさんはとても美しく見た目はまるで少女のようでさらわれてしまったら大変だとサイファーと心配をさせていただいておりました!!!!」
依然レオンはレイナを見ないままセリフが用意されていたかのように即座に答えた
((俺のせいでレオンが調教されてしまった・・・すまないレオン!!でも今のお前を見て尚更レイナに逆らえる気がしなくなってしまった、次もその次も俺はお前を助けられないだろう))
(と、とりあえず休まないか?ここにいるってことは宿はもう見つかったんだろう?)サイファーはとにかくレイナの機嫌を損なわないように急いで話題を探した
「そうね、じゃあ行くわよレオン・・・・・レオン?」
「レイナさんはとても美しく見た目はまるで少女のようです!!!」レオンは機械のようにただそれだけを繰り返した
「まぁいいわ、行きましょ今日の宿は馬と一緒に泊れるらしいわよ!どんな部屋なんでしょうね?」
(う、うむ確かにそれは興味深いな)
((こいつ、もうこれしかしゃべれないんじゃないか?))今後のレオンの人生が不安になるサイファーだった
(・・・!そ、そういえばレオンと不幸がどうのと話していなかったか?)
「ああその話ね、こいつなぜか信じらんないほど運が悪いのよね。歩いてるだけで問題事を呼び寄てるみたいなのよ」
(確かに驚くほど襲われるな、でもその程度だろう?)
「それが不幸を近くにいる人に分け与えてるみたいなのよね、一緒にいる時よりも一人で行動させてる時のほうが不幸度が高いのよ」
「それは難儀な話だな、でも一緒にいたら見られないのによく知ってるな」
「起こす問題がそれだけ大きいってことよ、おばあさんが死んでしまった事故もあいつが一人になってから起きたのよ、それに何度かあいつの自主練習を物陰からのぞいたことがあるんだけど」
(なぜのぞくんだ?直接見ればいいだろうに)
「いいでしょ別に、それは置いといて。あいつ高いところの木の枝を斬って訓練していたの、その時結構な数の枝を一度に斬って着地したんだけど斬った枝が全部あいつの頭に当たったのよ!?しかもそのあとなぜか気絶した鳥までレオンの頭に落ちてきて)
(それはまた・・何というか・・・・神憑っているな)
「でもあいつその鳥持ってラッキーって言ったのよ!?頭から血を流しておいて幸運ってどうなのよ?」
(だから襲われるのか・・・・こんな風に)
気がつくと一行はとてもまともに働いているようには見えない男たちに囲まれていた
「へへっ陸にいる間に女を見つけるなんて俺は恵まれてるぜ、おいそこの男!!女と馬を置いて消えな!!」
「別にいいけど・・・・たぶんお前らには手に負えないと思うぞ?なんたって・・・・・・・・・」レオンは男にしか聞こえないように言う
「何!?こいつババアなのか!?」男がそう言うとレイナがいるほうからブチッと何かが切れる音がした
次の瞬間10人近くいた男たちは皆宙に舞っていた。そして全員を裏道に連れ込むときっちり人数分の悲鳴が聞こえてきた
(なんか見たことのある光景だな)サイファーが同情のまなざしで見つめる
「もういっていいわよ」レイナは手をひらひらさせてあっちへ行けとアピールすると
「大変失礼しましたお嬢様!!!!!!!!」と言って泣きながら逃げて行った
(何を言えば大の大人を泣いて逃げるほどの状態にできるんだ?)
「試してみる?」レイナはサイファーに向かって怪しく微笑む
(い、いや結構だ!すまない、失言だったな。先ほどの態度からするとここはあの男どもの縄張りのようだな)
「でも今は屈服させた私の縄張りね」
(それはあいつらが可哀想だな、あいつらに聞けば何か情報が得られるんじゃないか?)
「でも、きっと海賊よあいつら。海に逃げられたら追いかけられないわ」
(しかしどう見てもあの中に船長はいなかったぞ、あいつらの独断で海には出られないんじゃないか?)
「確かにそうね、逆に子分の仕返しに来たりしてね」
(まぁとりあえず宿へ行こう、それとレオンのこともう許してやってくれないか?俺も心が痛いし、人形のようで気持ち悪い)
「別に何もしてないわ、そのうち克服できるんじゃない?」
(お前は何もせずに大人の男を恐怖で怯えさせることができるのか)
それから夕食を食べてレイナが風呂に行っている間にサイファーはレオンにとある言葉を教えていた
「なるほど、レイナに言えばいいんだな?」
(お前レイナがいなくなった瞬間元気になったな、これで借りは無しだぞ)
そうこうしているうちにレイナが部屋に戻ってきた
「ただいま、へやは見張っておくから貴方達も行ってきたら?馬用のお風呂もあったわよ?」
「レ、レイナ!!」
「?」いきなりまともにしゃべりだしたレオンにレイナが向き直る
「そ、その」
「なによ?お風呂行かないの?」
「お、お前の湯上り姿、い、色っぽいな」
「なっ!?」ボンッと音をたてるようにレイナは顔を真っ赤にした
「き、綺麗だぞ」レオンはレイナの顔が赤くなった事を怒らせたと勘違いして急いで付け加える
(全く・・・子供かお前らは、ほら済んだなら風呂に行くぞ。俺だけじゃ外出歩けないんだから)
そういってサイファーはレオンを連れていく
残されたレイナは備え付けの鏡でずっと自分の姿を眺めていた
「真っ赤」そう呟きながらもうしばらくしていなかった髪の手入れを始めていた
その後異常に機嫌のいいレイナと、レイナのいきなりの変化に困惑するレオン、そしてそれをやれやれと言いながら微笑ましく見守るサイファー達はいつも通りの夜を過ごしていた
窓に映る見覚えのある大きな男のシルエット以外は・・・