レンアイモヨウ
・レンアイモヨウ
電車でよく逢う名前も知らないあの人。
何でだろ、何でこんなに
スキになったんだろう。
ガッコウの昼休みはたいてい寝るか読書だ。
ってワケで今日は読書を選択してみる。
「タ―ケちゃんッ。」
シュウだ。
あぁ、やっぱり今日もやって来ましたか。
本を手に持ちつつ返事だけ返す。
「おう、どったの。」
シュウは意味もなくテンション高めで喋りまくる。
「あのさ、購買行こうよ。」
「は、何で。もうメシ食ったじゃん。」
「メシじゃなくってさ、今日はチョー美人の先輩が当番してる日なんよ。」
「シュウ君はホンットに女の子大好き少年ですネェ。」
「うわっ、バカにしてるッ。」
ギャーギャー喚くので仕方なく同行してやる。
いつもこんな調子。
シュウはオレと違ってクラスではかなり人気者だ。
いっつもあんな感じだからみんなに親しまれている。
成績も割と優秀。だけどリーダーみたいな存在には決してならない。
シュウにはシュウなりのポリシーみたいなモノがあるらしい。
そして何よりも、シュウは美形だ。当然モテる。いやマジで。
中・高と共にしたオレが見てきた限りシュウに告った女子は20人以上だ。
が、本人曰く“年上にしか興味ありません”とのこと。
恐るべきヤツ。
午後の授業の予鈴が鳴った。
「くそぉ、何かイマイチのヒトだったなぁ・・。」
モノスゴク残念そうな顔でオレの机でうなだれている。
オイオイ何座ってんの。どきなさいってば。
「まぁまぁ美人だったじゃん。」
「ダメだなぁタケちゃんは。オンナ見る目がないっての。」
「ってかオレみたいなのが女子に価値つけるケンリないって。」
「バッキャロゥ、タケちゃんはかなりイケてんだぞぅ。」
はいはい、もうそのセリフは何百回も聞きました。
いくら他のヒトに言われても自分で気づかなきゃ信じれないコトってあるんよ。
「わーったからソコどきなさい。センセー来るだろ。」
「りょーかいでーす。」
ノソノソと立ち上がりオレに譲る。奪還成功。
大きな欠伸を一つして自分の机に戻っていくシュウ。
いつもの風景。
―この私立高校へ通うためには電車通学は必至。
電車といっても大都市みたいにバンバン電車は来てはくれない。
地方の私鉄を活用しているため通学時間はかかるし速度もダメダメ。
最初の頃はコレには馴染めなかったが、今はバッチリ余裕。
何しろあの人に逢えるから。
あの人の存在に気がついたのは4ヶ月程前。
近くで彼女を見たときにビビビと何かが駆け抜けた、気がした。
とにかく美人。だがオレが感じたのはオーラみたいなモノ。
この人オレと話しが合いそう
たったソレだけ。で、スキになった。
喋ったこともないしオレの顔を知っているワケもない。
でも彼女と話がしたい。ただそれだけで今に至る。
彼女のコトはシュウにさえ言っていない。だから誰もこの秘密を知らない。
オレだけの秘密。 何かヒワイな響。
―今日の帰りの電車はいつもより人が多め。うざったいくらいの多さ。
「タケちゃんゴメンッ、居残りあっから先帰ってて。」
シュウの遺言。 いや、まだ死んでないケドさ。
多分、また誰かに見初められたのだろう。モテるオトコはつらいなシュウ。
待っている、と言って結構な時間ずっと待っていた。
が、今日は塾の日だというコトを思い出して先に退散させてもらった。
それでも電車2本遅らせてまでベンチに座って粘って待っていた。
シュウがいない電車の中は静かな気がする(あくまで気がするだけ)。
(一週間に一回こんなんでもアリじゃん。)
なんて考えてみる。シュウには内緒。
ジリリとうっさい発車のベルが鳴り駅員のヤル気なさげな発車します、との声。
動き出す電車。
ガクン
おいおい急に止まるなっての。
立ちっぱのオレにはたらいた慣性の法則ってヤツで無様な姿になっちまったよ。
ギギー
扉が再度開いた。
んだよ、わざわざ止まってあげたのか、迷惑だっつーの。
ボケーッと開いた扉から入ってきたヤツを睨む。
何だァ、ドコのジョシコーセーだキミはッ。
キミのせいで思い切り横倒れしちゃったオレは・・・・
―途中で心の叫びストップ。
あれ?
入ってきたジョシコーセー。
彼女はとってもキレイで、そこいらのジョシコーセーとは何か一味違った雰囲気で。
あれ?
そんな彼女はドコからどう見ても
“あの人”であるワケで。
あれ?
で、続いてもう一人入ってくる少年。
少年は電車の中へ入ると彼女と親しげに喋っている。
恋人?ねぇ、どうなんだい教えてよ
少年はシュウだった。
再度ジリリと鳴るベル。小さな声で発車宣言する駅員。
何事もなかったかのようにゆっくり電車は動き出した。
オレとシュウとあの人を乗せて。
オレが話しかけるより早くシュウはオレに気がついた。
「あっ、タケちゃん。」
手を振ってこっちへやって来た。彼女は来ない。
どんな表情してんだろオレ。
「よ、よぉ。」
どうやらオレは動揺を隠すほど演技が上手くないみたいだ。
「どったの?何か強張ってるよ。」
「え、いや別に。」
将来オレが役者になるのは難しそうだ。
「あ、いや、あのさシュウ。」
「うん?」
ちょっと間をおいて、ゆっくり喋った。
「あの人ってオマエの彼女、とか?」
妙に自分でもハッキリ聞き取れる声だった。
ホントは今すぐココから立ち去りたかった。
怖い。
シュウは黙ったまま。あ、ちょっと笑ってる。自慢か?コンニャロウ。
「ちょいタイム。」
そう言ってクルリと背を向けてシュウは彼女の元へ行ってしまった。
呆然とするしかないオレ。
サッサと帰っとけばヨカッタと後悔してしまった。
遠目で彼らのやり取りを見ていた。
親しげだなぁ・・。
と、ふたり揃ってこっちに来た。
うわぁ、アレか?ボクの彼女を紹介します、ってヤツか?
「タケちゃん。」
「・・・はい。」
「コイツはオレの・・」
ハイハイ、聞きたくないよ助けてカミサマホトケサマッ。
「ネェちゃん。」
え?
「チチオヤは違うけど同じハハオヤから生まれたオレのネェちゃん。」
「はじめまして。えっと、タケヒト君。」
彼女はハニカミながら一礼してきた。
つられてオレもどもりながら礼する。
え、え、状況が全くわかんないケド、シュウの彼女ではないんだ。
・・ヨカッタ。
―ってよくねぇよ!!
いきなり名前で呼ばれてしまったコトにかなり舞い上がる。
ソレと比例してすさまじい勢いである考えがオレを包む。
何、オレはシュウのネェちゃんをスキになったん?
そんな頭パニクッた状態だが3人でベラベラ喋ってる。
彼女は祖母の家で暮らしているらしくシュウとは別居中らしい、とか
今日は家族揃って外食行くからシュウはオネーサマを待っていた、とか。
まぁ、家族揃ってって言ってもどっちのチチオヤも既にいない
ってそんなコトよりも頭が上手く回らないワケで。
どうなるんだオレの恋ってヤツは?
ユウジョーを選ぶか玉砕覚悟のコイを選ぶか。
教えてよ、ねぇ、シュウお義兄サマ。
電車は夜の中へとゆっくり消えていく。
抑えきれないこの感情。
告げようか告げまいか。
そんなコトを考えながら、ゆっくり電車と一緒に闇に溶けてった。
シュウに話したらきっと笑ってくれるだろう。
そうだろ?シュウ。
あとがき:前作を読んで下さった方、またお逢いしましたね。
初めて読んで下さった方、はじめまして。
ちょっと実話入りの昔の作品をアップしました。
スキな人が誰であろうがスキだから仕方ないんです。
よろしければ感想を送ってくださると幸いです。飛び跳ねますので(笑)。
では、また次の作品でできることを願っています。