冬の飲み会
夏が終わり、時は師走へ。尾形はほのかに、笹本に対して友情を越えた何かを感じ始めます。
尾形が属している英語サークルは、出席が強制されており、活動日に休むときは必ず理由が求められた。月曜日から金曜日まで、水曜日を除いてびっしりと活動で時間を取られる。
そのせいで、時々休みたくなる事も無くはなかった。
とはいえ、クラブ運営には1回生は関わらないから、かなり空き時間は貰えているほうだった。
また4つあるグループの中で、笹本と尾形のセクションは、「ヒマでいいなぁ」と言われるセクションであり、その点でも恵まれていた。
英語でのスピーチを作って自分の主張を発表するという、いわば個人プレーのグループだった。
他のセクションは、集団で一つのものを完成させるという特徴を持つものも多く、その意味では連帯性が求められ、人間関係が大変でもあった。
その点、尾形も笹本も恵まれていたのである。
そんなサークル活動も、師走に入るとにわかにバタバタしてきた。
クラブ運営に携わり、かつ尾形たち1回生をもっとも可愛がってくれた、3回生が引退するからだ。
その飲み会は、壮絶そのものだった。
文科系のクラブでありながら、飲み方はハードそのもの。
先輩のお酒を断ろうものなら、粗相ではすまない。
尾形はお酒を飲めなかった。
だから、はっきりいって飲み会は嫌いだった。
が、笹本と過ごせる良い機会でもある。
そこで尾形は、お酒の勢いで、山本たちに口走ってしまった。
「笹本はなぁ!オレのものなんや!」
しまった!と思ったときには、後の祭りだった。
後から聞いたら、同じグループメンバーの女子の原川が「しっかり聞いたわよ」と
ニヤつきながら尾形に言った。
後日、お酒の席での事を、尾形は笹本に電話で謝った。
「笹本、すまん!お酒の勢いで、お前がオレのものや!って口走ってもうた」
すると笹本は怒るかと思ったらあっけらかんと答えた。
「いいよぉ」
尾形は照れくさくなって、言ってみた。
「オレにとって大事な人って、笹本かもしれへん!」
笹本は、またあっけらかんと答えた。ちょっぴり、照れくさそうでもあった。
「尾形ぁ、くさいこと、言わんとってぇ」
そんな電話のやり取りがあってからしばらくして、4グループ合同の全体パーティーがあった。
ここでもずっと、尾形は笹本と一緒だった。
すると普段は顔を見せない4回生の美人で評判の木俣先輩が2人で飲んでいるところにやってきて、笹本に言った。
「尾形君と笹本さんって、仲、ええなぁ。」
そういった後、木俣先輩は笹本にだけ付け加えた。
「(尾形君には)気ぃつけぇやぁ?」
尾形は苦笑いするしかなかった。
飲み会がお開きになった後、尾形と笹本は外の風に当たって雑談していた。
すると今度は3回生の大沢さんがやってきて、言った。
「2人とも、仲、ええなぁ!今からホテル行くつもりかぁ?もう、ラブホはいっぱいやで、きっと」
すると笹本は尾形に言った。
「ねぇどうするぅ?ラブホがいっぱいだって!どこ、行こうかなぁ!」
尾形は照れてしまって、何も言えなかった。
でも、無性に嬉しかった。