気づかない思慕
尾形は自分の気持ちに戸惑いを覚えはじめます。
尾形は、からかうと楽しくて、しかし笹本がサークルを休むと、なぜ自分があんなに寂しかったり、彼女のことが気になるのか、さっぱり分からないでいた。
自分の気持ちに、戸惑っていた。
「変だな・・・こんなの、初めてだ。・・・なんでオトコだなんてからかってるあいつの事が、こんなに気になるんだろう?・・・きっと、もっとからかいたいからだな」
尾形は、笹本をオトコ扱いするだけでなく、彼女のモノマネまで習得した。
もっとも、似ているかどうかは分からないが。
笹本は大きなふちのあるメガネをかけ、それがすごく似合っていた。まるでアラレちゃんである。
髪はショートでストレートだった。
いつも大学へ来るときは、軽めのリュックを背負って現れた。
必ず徒歩ではなく、マウンテンバイクに乗ってくるのだが、その姿がさまになっていた。
笹本の歩き方の特徴をこっそり観察していた尾形は、ある日笹本をからかった。
「お前の歩き方って、ホントにフンフンって感じで歩いていくなぁ!」
歩きまねを彼女の前で披露する。
「やめてよぉ」
そう言いながら、彼女も一緒になって物まねに加わった。
本人がモノマネに加わって、周囲は大爆笑だった。
さて、尾形はサークルグループの女の子の一人である山本(仮名)が、尾形と合わないという悩みを、笹本に打ち明けていた事を尾形はまだ知らなかった。
それを同じ下宿の女の子から偶然、聞いたのである。
笹本はひたすら「尾形は悪い子ちゃうやん」と尾形を弁護していたのだという。
落ち込んでいたオレの気持ちに、彼女の優しさが染み渡った。
笹本・・・・・。ありがとう・・・・・。
このときまだなお、尾形は笹本への気持ちを理解できないでいた。
尾形は本当に鈍感である。
というより、尾形ははっきり向かい合うのが、怖かったのかもしれない。
笹本の事を、本気で好きになってゆく自分の気持ちに向かい合うことが。
彼女の事を好きになった、という現実に、向かい合う事が。