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愛の深まり

笹本との電話での会話が、2人を一層親密にさせるきっかけを作ります。

川のほとりでのファーストキスから、尾形と笹本の2人はデートを重ねるようになった。

2人のデートは、それはそれは素朴でチープなデートだった。

というのは、尾形と笹本が出会うときは、殆どといって良いくらい、大学のキャンパスでデートしていたからだった。

ご飯は一緒に学食を食べる。

そのあと、2人は夏休みで殆ど誰もいなくなったキャンパスで、服を着たままお互いの温もりを確認しあった。


2人はベンチに座って抱き合う。

尾形が愛の言葉を囁く。

「笹本・・・愛してるよ」

「尾形君・・・たまに、でいいよ。あんまり言うと、価値がなくなっちゃうわ」

「でもホントだもん。愛してるよ、大好きや、笹本」


そういって尾形は笹本を見た。

と、笹本は、目に涙をいっぱいにためて、尾形をじっと見ている。

オトコは大好きなオンナの涙に弱い。


尾形は笹本を押し倒してでも抱きつきたくて仕方が無かったが、そういうことは良くないと

感情を押し殺した。


代わりに尾形は、笹本のほっぺを舌で舐めまわした。


笹本は舐められても何も言わなかったが、舐められ終わってから、尾形の着ているTシャツのすそを引っ張って、

自分のほっぺを拭き取った。

にっこり微笑んでキスでもしてもらえるのかと思った尾形は、笹本の行動に笑いそうになったが、必死にこらえた。


代わりに笹本は、とても可愛らしく尾形のうなじにキスしてきた。

「チュッ!」

尾形は飛び上がるほどの快感にゾクゾクし、思わず声を上げてしまった。

「ウゥッ!」


笹本はにっこり笑って、尾形に言った。

「尾形君、可愛い!感じてるの?」


笹本はなおも攻撃の手を緩めない。今度は尾形の左耳に、優しく息を吹きかけてきた。

「フゥッ・・・」

その息の暖かさと優しさに、尾形の性欲は頂点に達しそうになる。

それを尾形は何とかこらえた。


「尾形君、可愛いわ・・・・」


尾形は堪らなくなって、笹本を抱きしめた。


笹本も優しく、強く、激しく抱きしめ返してくる。


夏の日差しにしては、少しやさしめの日差しが2人に降り注ぐ。


無言で服を着たまま温もりを求め合う2人に聞こえていたものは、

だんだん荒っぽくなるお互いの吐息と、


大学キャンパスにある、小さな池から出る水の、トボトボ・・・という音だけであった。


優しい日差しと、静寂が2人を包んだ。


尾形は彼女と付き合い始める前は、もっと女の子とのデートはお金が掛かるものだと思っていた。

クルマさえ、必要だなんて思った事がある。

もちろん学生の尾形に、そんなものに乗りまわすカネなど、現実にはあるはずが無かったのだが。


尾形はそんなチープなデートを始める前、笹本にバイトを辞めて、下宿にいるよう求めた。

笹本は電話の向こうで尾形の心理を完全に見抜いて、こう言った。

「尾形君。なんであたしを家に置いとこうとするの?もしかして、もしかして。あたしを束縛したいのかなぁ?・・・・きゃあーーー」

尾形は照れてしまって、何も言えなかった。

それほど、彼女の事が愛おしくて仕方なかったのである。


抱き合って温もりを確認しあったら、その日の晩にはまた声が聞きたくなる。

尾形は笹本に電話する

「はい、笹本です」

「あ、笹本?・・・・愛してるで。・・・・・大好き」

「・・・・・・・・。」

笹本からの返事が無い。

どうしたんだろう、と尾形が言葉を継ごうと思った瞬間、電話の向こうですすり泣きの声が聞こえた。

「うぅっ・・・うぅ・・・・電話で尾形君に泣かされると思わんかった・・・・うれしい!あたし、尾形君の事、考えたら寝られないわ」


尾形の胸が、性欲と笹本に対する愛おしさで、かぁっと熱くなる。

「笹本・・・・愛してる・・・好きだ」

「あたしもよ、すき・・・・」


その日の晩も、いつものように、尾形は笹本に電話する。

すると笹本の様子がおかしい。

笹本は、尾形におずおずと切り出してきた。

いつもはきはきと明るい笹本らしくない、歯切れの悪さだった。


「あのな・・・雑誌に書いてあったんだけど」

「?」

「悩み相談に・・・・あたしの彼氏って、愛してるって言ってくれるのに・・・・セックスしてくれない、、、って書いてあったの」


「!!」

雑誌に書いてある、なんて言ってるが、それはオレの事に決まってる!尾形はすかさずピンと来た。

尾形は静かに返事をした。

「あのな、笹本。その雑誌の彼氏が何を考えているか、オレには分からないけど、・・・オレ、オトコだから、笹本を欲しいなって思った事、あるよ」


「・・・・・」笹本は黙って聞いていた。


「でもな・・・もしオレたちの間で間違いが起こったら、泣かなきゃいけないのは、かなりの確率でオンナの子のほうなんだよ」


「あたしが妊娠してしまうって事?」


「そう。オレ、間違いを起こして、笹本を泣かせたくないんだ」


もちろん、男女が想いあった究極の形が、セックスであり、それは一向に不思議な事だとは思わなかった。


しかしその一方で、尾形は男女のセックスに関して、大きな疑問を持っていた。


「抱き合う」だけが、愛の形なんだろうか?

セックスには当然、女性の妊娠のリスクがある。


もし、愛を確かめ合うつもりで抱き合って、彼女が妊娠してしまったら、笹本の胎内に宿る新しい命に、


そして笹本自身の心に、そして肉体に、大きな悲しみや傷をつける事にはならないだろうか。


愛するが故の行為が、彼女を悲しませる事になったら、どうしよう?


単にコンドームを付ければ済むという、そんな問題なんだろうか?


毎日まいにち、それは溢れ返らんばかりの性欲と闘う尾形だったが、自分の欲を貫く事が、笹本への思いやりになるんだろうか?

笹本が大好きという気持ち、毎日脳天を貫いてくる性欲、そして彼女へのいたわりの気持ちが、尾形を飲み込んでいったのだ。

他のカップルから見れば、抱き合わないなんて、変かもしれないなぁ、ふとそんな考えもよぎった。


笹本は、なお黙って聞いていた。「・・・・・・・」


「だからオレ、今は笹本、お前を抱かないで置こうと思う」


それを聞いた笹本は、号泣した。そして言った。

「有難う!・・・本当に、本当に真剣に・・・・・あたしの事考えてくれてるんや・・・嬉しい!」

尾形は言った。

「もしさ、お互いに欲しくなったら、オナニーでガマンしようね。でさ、もし結婚指輪を交換したら、2人で思いっきり頑張ろうね!

オレ、笹本が緩むまで頑張っちゃうよ」


泣きじゃくっていた笹本が、笑い出す。泣きと笑いが同時に混じった、複雑な声で尾形に尋ねた。

「緩むって、どこが緩むんですかぁ!あたし純情だから分からないわ」




この日の電話を境に、2人の愛情と絆はますます深くなった。

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