ファーストキス
とうとう尾形と笹本にファーストキスの時がやってきます。
尾形と笹本は、夜の川のほとりでお互いの温もりを確かめあった。
時は6月。
対岸には、いつも使う道路に、煌々とライトをつけたクルマが行き交っている。
しかしクルマの音は聞こえては来ない。
尾形と笹本が聞いたのは、静かに、しかし途切れることなく流れる川せせらぎだった。
それ以外は、文字通りの静寂が周囲を支配していた。
尾形は何ともいえない幸福感と、女性を抱きしめたときの、アタマを突き抜けるような興奮に驚きを隠せないでいた。
それだけではなく、女性を抱きしめるときのホンノリとした快感にも、内心驚いていた。
これ以上、どうやったら彼女へのいとおしみが、彼女に分かって貰えるんだろう。
尾形は幸福感と恍惚感の中で、そう思った。
恥ずかしいけど、彼女とキスしよう!
大好きになった彼女じゃないか!
勇気を出せ!尾形!
そう自分に言い聞かせて、尾形は笹本に、目を閉じて軽く唇を突き出し、キスのジェスチャーをして見せた。
笹本はすぐに反応してきた。
「えーー?照れるよ----.
じ、じゃあ、目を、閉じて」
尾形は本能的に、彼女の腰に自分の右手を回した。
笹本も、尾形の腰に手を回してくる。
尾形はそれだけで嬉しかった。
「こんなに2人が同時に腰に手を回せるなんて、二人の気持ちや思いは、一体になったんだな」
それまで支配していた恍惚感と幸福感は、緊張のあまりどこかへ飛んでしまった。
川のせせらぎだけが、耳に入ってきた。
少しずつ、笹本との距離が近づいてくる。
心臓が飛び出しそうにドクンドクンと音を立てていた。
すぅっと笹本の顔が近づいたかと思うと、尾形と笹本の唇が触れ合った。
その瞬間、もう尾形には、川の静かなせせらぎすら、耳に入らなかった。
尾形は、自分の体がまるで宙に浮いたような、不思議な感覚に捕らわれたのだった。
誰も、2人を邪魔しなかった。
その瞬間、世界は2人だけのものになった。