赤髪と青髪
死んだ人間を蘇らせることができるという六つのイースターエッグを求め、キリエとハナコはとある遺跡に入った。
石の通路が奥まで続いている。
壁はひび割れ、湿った苔が張り付いていた。
二人の足音だけが、静かな遺跡に響く。
「エッグはこの先だね」
首にかけたコンパスを見ながらキリエが言う。
ハナコは返事をしない。
通路の奥を見ている。
「誰か来ます」
――足音。
石を踏む乾いた音が、遺跡に反響する。
暗い通路の奥から、人影がゆっくり現れる。
青髪で細身の女。
向こうもキリエたちに気づくと、口の端を上げた。
「キミたちもイースターエッグを探しに来たの?
残念だったね。オレが先に頂いたよ」
懐からイースターエッグを取り出し、ひらひらと振ってみせた。
「そうか、じゃあそれを寄こしな。死にたくなかったら」
キリエが鋭い目で睨む。
青髪の女は小さく息を吐くと、エッグをキリエに向かって放り投げた。
「ほらよ」
キリエがエッグへ手を伸ばした瞬間――
顔面めがけて前蹴りが飛んだ。
蹴りが直撃し、キリエの体が二、三歩後ろへ弾かれる。
青髪の女は落ちたエッグを拾い上げた。
「このやろ……」
キリエは口元の血を拭う。
左に結った髪を掴み、腰のナイフを抜いた。
ざくり、と髪を断つ。
「100mm、変換」
宙に散った赤い髪が瞬時に燃えるような赤い光へ変わる。
光がキリエの全身を覆った。
「この代償、高くつくぜ」
「いいね……」
青髪の女がニヤリと愉快げに笑った。
背中に結った髪を掴み、腰のナイフを抜く。
ざくり、と髪を断つ。
「50mm、変換」
宙に散った青い髪が瞬時に燃えるような青い光へ変わる。
光が女の全身を覆った。
二人が同時に踏み込む。
魔力を込めた拳を打ち込んだ。
――次の瞬間。
二人の周囲を、まばゆい光が覆った。
しばらくして光が消える。
気づくと、ブロックのような物に囲まれた空間に立っていた。
そこにいるのは、キリエと青髪の女だけだ。
ハナコの姿がない。
青髪の女が周囲を見回す。
「お前、どんな魔法使ったのよ」
「私じゃない」
キリエも辺りを見回した。
青髪の女は壁へ掌を向け、閃光を撃ち込んだ。
しかし閃光は壁際で弾かれ、跳ね返った。
「な――」
青髪の女が目を見開く。
跳ね返った閃光が直撃した。
「くっ……! 魔法はダメみたいね」
青髪の女がよろめく。
キリエはくくっと笑った。
「うかつに行動するから」
「うるさい……お前もどうやって脱出するか考えてよ」
「どうやら魔女だけを閉じ込めるトラップのようだね」
キリエは壁を触りながら続ける。
「ハナコは魔力がないから捕まらなかったのか」
「魔力がないって……あいつ男だったの?」
「そうだよ」
二人は壁や床を調べながら、脱出の方法を探した。
「ダメだ……なんにもない……」
「魔法が効かないんじゃ、どうしようもないね」
「くそっ!!」
青髪の女が苛立ったように壁を蹴る。
がつん、と鈍い音が響いた。
キリエが壁を見る。
ブロックの角がわずかに欠けていた。
「……今の、魔力使ってないよな」
キリエが全力で殴る。
ずしん、と鈍い音が響き、わずかにひびが入る。
「素の攻撃なら効く……」
「なるほど……そういうことなら」
青髪の女が手をかざす。
青い光が集まり、ハンマーを形作った。
「すごい、物質化の魔法なんて初めて見た」
「あんたの分も用意した」
青髪の女がハンマーを投げる。
「壁ぶっ壊すよ!」
それからしばらく、二人で壁を叩き続けた。
「だめだ、全然外が見えない……」
青髪の女がハンマーを床に落とす。
壁はわずかに削れただけで、まだ外には届かない。
「一旦、休憩しようか……」
キリエもハンマーを床に置く。
二人とも床に腰を下ろすと、しばらく沈黙が続いた。
やがてキリエの口が開く。
「あんた、名前は?」
青髪の女が天井を見上げたまま答える。
「アオイ。お前の名前は?」
「私はキリエ」
「キリエはなんでエッグを集めてんの?」
「マルコって親友を生き返らせたいんだ。
あいつとは喧嘩の途中だったから。決着つけないと」
アオイが目を伏せた。
「そっか」
「アオイは誰を生き返らせたいの?」
「オレは、妹を生き返らせたい。
喧嘩ばっかしてたけど……唯一の家族だったから」
アオイが立ち上がり、ハンマーを握り直す。
「……よし、続きやるか」
キリエも立ち上がり、再び壁を叩く。
鈍い音が空間に響く。
「妹、生き返ったらさ……」
アオイが壁を叩きながら話し続ける。
「オレ、どう接すればいいんだろう」
キリエがハンマーを振る。
「喧嘩でもすれば」
アオイが小さく笑い、再び壁を叩いた。
それから二週間。
手の皮が裂けても、二人は壁を叩き続けていた。
どん、と鈍い音が響く。
壁に走った亀裂が、一気に広がる。
「キリエ!」
「わかってる!」
二人が同時にハンマーを振り下ろした。
次の瞬間――
壁が崩れた。
その先には、まっくらな穴が口を開けていた。
空間が揺れる。
壁や天井にひびが走った。
「出るぞ!」
二人は暗い穴へ飛び込んだ。
どさり、と石の床に落ちる。
顔を上げると、そこは元居た遺跡の通路だった。
少し離れた場所に人影が立っている。
「ハナコ!」
キリエがハナコの元へ駆け寄る。
「あ、出てきた」
「もう会えないかと思ったよお!!」
涙目のキリエがハナコに抱きつく。
「大袈裟ですね。五分くらい離れただけで」
「五分?」
キリエとアオイが目を見開く。
「はい。二人が消えてから五分しか経ってませんよ」
「そんなバカな……」
「どうやら時間の流れが歪んでたみたいですね」
ハナコが淡々と言う。
キリエとアオイは目を見合わせた。
二週間の疲れがどっと押し寄せる。
「疲れたあ……」
アオイが呟く。
そして懐から二つのイースターエッグを取り出した。
「ほらよ」
ぽい、とエッグを一つ投げる。
キリエがそれを受け取った。
「あんたに預ける」
「預ける?」
アオイが笑う。
「お互いにエッグを三つ集めたら、また喧嘩しようぜ。それで勝った方が、総取りな!」
そう言ってアオイは背を向けた。
「またね!!」
青い髪が、闇の中へ消えていった。
しばらくして、ハナコがぽつりと言った。
「……五分の間に、ずいぶん仲良くなりましたね」




