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VS 断末魔の叫び

 襲撃者の一人であるサユリは仲間に見捨てられ、逃げ遅れてしまった。

 可哀想に思ったハナコが足のケガを手当てをした。


「この携行食、おいしくないね」


 助けてもらったサユリは悪びれもなく言った。


「人のもん食っといて文句言うな」


 キリエの言葉に気にした様子はなく、もう一口食べた。

 図太い態度に眉間にしわが寄る。


「足も手当てしてやったし、さっさと帰んなよ」


 ユリエは動かない。

 少しの沈黙のあと、キリエに近寄って目線を合わせた。


「しばらく同行させていただけませんか!」


「はあ?」


「任務は失敗。戻っても叱責されるだけ」


 真剣な顔をしてユリエは続ける。


「それに、昔からキリエに憧れてたの!!

 だからせめて、この助けてくれた恩だけでも返させてください!」


 ハナコが小さくため息をつく。


「どうする?」

「どうするって言われてもなぁ」


 突如、キリエとハナコが同時に立ち上がった。


 魔力の気配。


「魔力反応……複数!」


 次の瞬間。

 木々の陰から人形が飛び出した。

 

 長い黒髪。

 不気味な顔の、市松人形だった。

 微量な魔力を感じる。


 手に持った包丁を振り下ろす。


 ハナコの刀がそれを受け止めた。


 火花が散る。


 木々の陰から、追加で人形が現れる。

 人形たちの口が不気味にゆっくりと開く。


「エッグ……奪う……」


 キリエとハナコは後ろへ跳んで人形との距離を取る。


「数が多くて対応できない、周辺爆破おねがい」

「またぁ?」

「いいからやれ」


 ハナコの指示にしぶしぶ髪に手を伸ばす。


 さらに次の瞬間。

 空気が割れるような気配。


「この気配……ネームド【断末魔の絶叫】です!」

「新手!?」


 稲妻の如き一閃が、キリエの首を目がけて振り下ろされた。


 刃が空を裂く。


「よく避けたな。さすがは赤髪、噂以上だ。」


 そう言うと、全身を鎧で固めた男が剣を構え直す。

 その体から強烈な気配が溢れていた。


「断末魔……」


 鎧の男が名乗る。


「退魔の騎士団【断末魔の叫び】。魔女は成敗する。」


 周囲には複数の人形。

 正面には【断末魔の叫び】。

 ハナコと顔を合わせる。


「大ピンチってやつかな?」

「そうですね」

 ハナコは落ち着いた声で答えた。


「おい、ユリエ! 今こそ恩を返す時だ! なんとかしろ!!」


 キリエはユリエに助けを求めた。


「ばーか! だれが協力するか! くたばっちまえキリエ!!」


 そう叫ぶと森の奥へ走り去った。


「あのやろう……」


 正面で剣を構えた男が一歩踏み出す。


「仲間に見放されたか」


 キリエは眉をひそめた。


「仲間じゃないよ、あんなやつ……」


 ハナコが刀を構えなおす。


「どうします?」


「やるしかないでしょ」


 キリエは


 左に結った髪を掴むと、腰のナイフを抜いた。

 ざくり、と髪を断つ。


 左に結った髪だけが短くなり、釣り合わない天秤のような見た目になる。


「100mm、変換」


 宙に散った髪が瞬時に燃えるような赤い光へ変わり、キリエの全身を覆う。


 髪を代償に魔力を生成した。

「この代償、高くつくぜ」


 魔力を全身にまとうことで、軽い興奮状態になる。


 半分ほどの魔力を残し、周囲を爆破する。

 

「ぶっとべ!」


 空気が潰れ、衝撃が森を揺らした。

 周囲の人形が粉々に砕け散る。


「どんなもんじゃい!」

「【断末魔の叫び】は上空へ回避してます」

「人形を操作してる魔女は?」

「三時方向です」

「おっしゃ! すぐ戻る」


 そう言って三時方向へ跳んだ。


 森の奥へ踏み込む。

 木々の間に、黒髪の魔女を発見した。


「操作してたのはお前だな!」


「くっ――!」


 黒髪の魔女が腕を振る。

 草木の陰から人形が次々と飛び出した。


 キリエは拳を叩き込んだ。

 一体、また一体。

 人形が弾き飛ぶ。


 ――だが次の瞬間。


 背後の死角から人形が包丁を振り下ろす―――


 キリエは一瞬だけ振り向くと、後ろへ蹴りを入れることで対処する。


 すべての人形を倒すと、黒髪の魔女との間合いを強引に詰める。


「捕まえた」


 キリエは両手で黒髪の魔女に触れた。

 掌に魔力を集める。


 ――爆発。


 黒髪の魔女は後ろへ弾き飛んだ。


 

 元いた場所へ急いで戻る。


 ハナコは【断末魔の叫び】と斬り結んでいた。

 刀と剣がぶつかり、火花が散る。


 ハナコの腕から血が滲んでいる。


 【断末魔の叫び】が剣を弾き、ハナコの体勢が崩れた。


 男が剣を振り上げる。


 ――その瞬間。


 キリエの拳が、【断末魔の叫び】の顔面へ叩き込まれる。


「待たせた」


 鈍い衝撃音。

 男の身体が横へ弾き飛んだ。


「遅いですよ」

 ハナコが不満げに言う。


 キリエの全身を覆っていた光が、ゆっくりと薄れていく。

 

 先ほど変換した分の魔力が、もう尽きかけている。


「ハナコ逃げるよ!」

「はい!」


 キリエは残りの魔力を使い、煙幕を張った。

 白い煙が爆ぜるように広がる。

 森の中が一気に覆われ、視界が完全に遮られる。

 

 キリエたちが急いで戦線を離脱すると、背後で空気を裂く音がした。

 鋭い一閃。

 煙が一直線に斬り裂かれる。


「あいつ、煙を斬ってます!」

 ハナコが叫ぶ。


 斬撃を振り下ろした姿勢で、鎧の男が小さく言う。

「斬れぬものは無い」


 キリエとハナコは森の斜面を駆け下りる。


「すごい勢いで追ってきます」

 背後でハナコが叫ぶ。


「やっぱり煙幕だけじゃ無理か」


 後ろから重い足音が迫る。

 振り返る余裕はない。


「速いなあ!」

「追いつかれますよ」


「仕方ないか」


 右に結った髪を掴むと、腰のナイフを抜いた。

 ばっさり、と髪を断つ。


 今度は右に結った髪の方が短くなり、天秤の傾きが逆になった。


「200mm、変換!」


 先刻の倍の量。

 宙に散った髪が瞬時に燃えるような赤い光へ変わる。

 充実した魔力がキリエの全身を覆った。


「ハナコ、私の後ろにいな!」

「はい!」


 振り向きざまに腕を振りぬく。


「消し飛べ!」


 200mm分、すべての魔力を込めた。

 

 その一撃は、地面ごと抉り取り、周囲の木々を轟音とともに崩壊させた。

 人ひとりに向けるには、明らかに過剰な威力だった。


 元々腰まであった髪は、肩甲骨辺りまで短くなっている。


「すごい、森が吹き飛んじゃいましたね」

「【断末魔の叫び】とはいえ、さすがに死んだでしょ、こりゃ」


 爆炎の中央。

 斬撃を振り下ろした姿勢で、男は立っていた。


 鎧は黒く焼け、胸当てには大きな亀裂が走っている。

 砕けた肩当てが足元に転がった。

 兜の一部も欠け、そこから片目が覗いている。

 浅く息を吐きながらも、構えだけは崩れない。


「……斬れぬものは、無い」


 男は爆発を斬った。


「えっと……まだ続ける?」


 キリエはおそるおそる尋ねてみる。


 男はゆっくりと自らの剣を見下ろした。

 刃には亀裂が入り、焼けた金属が赤く燻っている。


「……これではもう斬れん」


 小さく呟き、剣を下ろした。


「騎士の名折れだが、ここは一時――」


「――っ!」


 火花が散る。


 キリエの前にハナコが割り込み、騎士の刃を受け止めていた。


「不意打ちは卑怯です」

 ハナコが低く言う。


「いい反応だ」

 騎士が目を細める。


 キリエは思わず一歩退いた。

「助かった、ハナコ」


 つばぜり合いの最中、騎士の剣が軋む。

 次の瞬間、刃が折れた。

 騎士は動きを止め、折れた剣を静かに見下ろす。


「……これまでか。次は仕留める」


 騎士は折れた剣を鞘に戻し背を向けると、大きく跳び去った。


 キリエはその場に座り込み、長く息を吐いた。


「はー……」

「助かりましたね」


 短くなった髪を指で摘まむと、毛先が肩甲骨のあたりで止まる。


「だいぶ減っちゃったなあ」


「似合ってるよ」

 

 左右で長さの違う二つ結びを見ながら、ハナコが悪戯っぽく言う。


「どーも」


 キリエはむっとした顔で答えた。


 ハナコはポーチにふと手を入れた。


「……あれ?」


 もう一度探る。


「キリエ」

「なに?」

「エッグがありません」


 キリエが一瞬だけ眉をひそめた。


「まさか……!」


 あの不意打ちの時か。


「やられたあああ!!」


 キリエは頭を抱えて叫んだ。

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― 新着の感想 ―
戦闘は分かりやすいと思いました。 気になるのは、やや散文的な点です。 以下、あくまで好み的な意見となります。 文がいずれも短く纏まっているので、リズムとして単調になっています。 分かりやすくはある…
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