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ナポレオン戦争に迷い込んだ女子大生、おねぇ提督とフランス軍を救います  作者: もふおのしっぽ
第四章:蒸気機関と現代の資格『守り』と『破壊』

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第77話:黄金のペアの再始動と別れ

 ホテルの部屋で、渚はすっかり荷造りを終えていた。



 ロスコン(王様の菓子)の時に引き当てた、あの小さな陶器の王様人形を大事に鞄にしまい、アドリアンの迎えを待つ。



 トントン、と小気味よいノックの音が響いた。




「はーい! 早いですね? アドリアン……」




 弾むような足取りで扉を開けた渚の前に立っていたのは、見慣れた、どこか不機嫌そうな、けれど懐かしい顔だった。



「……ジャン!?」




「……ふん。なんだ、そのガッカリしたような顔は」




 そこにいたのはジャンだった。




 シャルルとアドリアンが、「見守る」と決めつつも、運命の暴走の抑止力として「最も信頼でき、かつ渚が心を開いている」彼を再び直衛に付けたのだ。



「そんなわけないじゃないですかっ! やったぁ! ジャンだ!」



 数日振りだが、もう何日も会っていないような気がしていた。




渚にとっては、光のような再会だった。




「おい、抱きつこうとするな……ったく、やっとコーラ作りから解放されたと思ったのに、次はなんだ? 『水に固定空気を叩き込む装置』? 専門外もいいところだ」


 


 ジャンは肩をすくめて部屋に入ってきた。




 フルトンがカディスに来てからというもの、渚の周囲には常に厳めしい軍人の護衛がいた。




ジャンは「あんな怪しい発明家の助手なんてごめんだ」と距離を置いていたのだが、結局こうして引き戻されたのだ。




「でも、嬉しいです! またジャンと一緒に仕事ができるなんて……やっぱり私たちは『黄金のペア』だね!」




 渚が満面の笑みでそう言うと、ジャンは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。




「……フン。誰が黄金だ。泥舟のペアの間違いだろ。俺はただ、お前がまた変なことに首を突っ込んで死なないように見張るだけだ」




 口では悪態をつくジャンだが、彼もまた、渚の屈託のない笑顔を前に、内心では安堵していた。




「……でも、私はフルトンさんの所にいっていいのかな?」




 昨日のアドリアンの、悲しみと苦しさが混ざった切実な顔。




掴まれた肩に残る熱い感触が、不意に脳裏をよぎる。




「……さぁ。お前はどうしたい?」




(アドリアンの『君の知恵が人を殺す』という言葉が、頭から離れない)




 ジャンはシャルルから「渚の意志に任せろ。ただし、暴走するなら止めろ」と言われてここに来た。




「嫌なら、止めればいい。後のことは、**あの事後報告が得意なアドリアン**に任せればいいじゃないか」




「ボナパルトさんに怒られない……?」




「さぁな……、そこはルブラン公司が何とかすんじゃないか?」



久しぶりに聞く、頼もしい『悪友』の名前。



「……じゃあ、まずはフルトンさんに会いに行って、これ以上は協力できないってハッキリ伝えてきます! 私の『守る』知識が『壊す』技術に使われたら嫌です……」




 ジャンに背中を押されるように、渚は意を決して立ち上がった。




その時、再び扉がノックされる。





「……今度こそアドリアン?」




 渚が扉を開けると、そこに立っていたのはアドリアンではなく、充血した目で不気味な笑みを浮かべたフルトンだった。




「おはよう、ナギ嬢。……おや、そこの君は誰だ? 初めて見る顔だな」


 



「……フルトン殿。軍医のジャンと申します」




 ジャンの鋭い視線に、フルトンは動じず、渚へと語りかける。




「ナギ嬢。引き潮でしか手に入らない、純度の高い石灰質(貝殻)が必要なんだ。君の与えてくれた知識を完璧にするための素材……共に拾いに行ってはくれないか?」




 渚はジャンと顔を見合わせた。




 ジャンは小さく頷いた。


 


「……分かりました。彼も一緒で良ければ」




 三人は護衛の軍人とフルトンの従者を伴い、霧の立ち込める海岸へと向かった。




 冬の冷たい風が砂を舞い上げ、波の音が異様に大きく響く。




「……フルトン殿。貝拾いならそこら中でできるだろ。なんでこんな岩陰まで行くんだ?」




「純度の高い石灰石に加工できる貝は、この岩場にあるのだよ」




 ジャンは、街道から完全に死角になる入り江へと誘導するフルトンに、本能的な不審を抱いていた。




「ナギ! ここは足を滑らせたら危ない。お前は砂浜の方にいろ!」




 ジャンの指示に従い、渚は見張り役の軍人と共に砂浜へ残った。




 深く、重い霧が立ち込め、あっという間にジャンとフルトンの姿は見えなくなった。




 その直後。

 岩陰の死角から音もなく現れた数人の影が、一斉にジャンへと襲いかかった――。




 そんな事態が起きているとは知らず、渚は砂浜にしゃがみこみ、足元に散らばる貝殻を拾っていた。




「ジャンも、フルトンさんも……どこまで行ったんだろう。霧が深いなぁ」




 独り言を漏らした時、目の前に、一組の男の靴が見えた。



 ジャンが戻ってきたのだと思い、顔を上げようとした渚の頭上から、**「その言葉」**が降ってきた。




「どんな貝殻をお探しですか?」




 渚の全身が、凍りついた。



 脳に直接響くような、懐かしく、そして場違いな響き。



 それは、この時代のヨーロッパで聞こえるはずのない、渚の母国語(日本語)だった。



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