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ナポレオン戦争に迷い込んだ女子大生、おねぇ提督とフランス軍を救います  作者: もふおのしっぽ
第三章:フランス・スペイン連合艦隊

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第54話:悪夢の旋律と、コーラナッツ

「右、左、右、ホップ! はい、次の方ー!」



 軽快すぎる、そして残酷なまでに陽気な『オクラホマミキサー』の旋律が、頭の中で鳴り止まない。



 視界がぐるぐると回る。



目の前には、眉間にシワを寄せたアドリアン。



ステップが変わるたびに、次は不敵な笑みを浮かべたルブランが目の前に現れる。



「ナギ殿。……私の胃を焼く公使の仕事以上に、君とのダンスは芳醇なスパイスだ。さあ、アンダルシアの星を――」



「いやあああああ! 公使、そのセリフ三回目です!!」



 永遠に続くフォークダンス。



終わりのない、愛と混沌の輪舞曲ロンド



「……っは!!」



 渚は、ホテルの天蓋付きのベッドの上で跳ね起きた。



 心臓が激しく脈打ち、激しい胸焼け。



シーツは寝汗で少し湿っていた。



「……ゆ、夢……。最悪のフォークダンスだった……」



 ズキズキと痛む頭を押さえる。



どうやって帰ってきたのか、記憶が断片的だ。



自分の姿を確認すると、昨日の服のまま、アドリアンの軍服ジャケットが毛布代わりに掛けられていた。



 そんなことを考えていると、控えめな、しかし元気なノックの音が響いた。

 


「ナギ様ー! 起きてますか? 目覚めの一杯、持ってきましたよ!」



 入ってきたのは、満面の笑みのレオノールと、何食わぬ顔で蒸留水が入った瓶を抱えたジャンだった。



「レオノール……ジャン……。おはよう……」



「ひどい顔だな、ナギ。昨夜のダンスはかなりの重労働だったからな」



 ジャンの言葉に、渚は再び悪夢オクラホマミキサーを思い出してうめき声を上げた。



「……待って。ジャン、それってどういうこと? まさか夢じゃなかったの?」



 渚が青ざめた顔で問い詰めると、ジャンは不思議そうに首を傾げた。



「夢? 何を言っている。昨夜の君は実に勇ましかったぞ。酒場の真ん中で『これが極東の神に捧げる舞いだ!』と叫びながら、あの独特なステップ……『オクラホマミキサー』ってのを披露し始めたぞ」



「う、うそ……」



 渚は頭を抱えてベッドに沈み込んだ。



「しかも、一人で踊るならまだしも、君は強引にアドリアンとルブラン公使の手を引いて輪に加えたんだ。あの、常に冷静沈着なフランス騎士と、気取った公使が、君の『右、左、右、ホップ!』という掛け声に合わせて、必死な形相で跳ね回る姿は……いやぁ、カディスの歴史に残る見も気分だったよ」



 横でレオノールが「うふふ」と楽しそうに口を添える。



「そうですよ、ナギ様! ルブラン様なんて、ステップの合間に必死で『君の瞳に……ホップ! 乾杯……ホップ!』って口説き文句をねじ込もうとして、自分の足をもつれさせて転んでらしたんですから」



 最悪だ。


悪夢だと思っていた光景は、すべて現実に起きた失態だったのだ。



「……死にたい。今すぐこのコーラナッツの殻に閉じこもって、アフリカまで流されたい……」



「まあそう言うな。おかげで街の連中との絆は深まったしな」



 ジャンの無責任な励ましに、渚はもはや乾いた笑いしか出なかった。



「まずは、お湯を浴びてスッキリしましょう! とびきりの朝湯と二日酔いに効く香油を用意しましたから」



 レオノールに促され、贅沢に用意された湯浴みへ逃げ込むように向かう。



 熱い湯に浸かり、昨夜の酒の匂いと冷や汗を流しながら、渚は「二度と酒は飲まない」と固く誓うのだった。



 蒸留水にレモンを絞り飲んだ。


 ようやく人心地ついたところで、渚はガウンを羽織り、二人が待つテーブルへと向かった。



 そこには、昨日の戦利品が並んでいた。



 謎の褐色かっしょくの実、コーラナッツ。



(……そうよ。恥を上書きするには、これしかない。)



 三人は、そのゴツゴツとした不気味な実を囲み、真剣な面持ちで座り込んだ。



「さて……。この、見るからに渋そうな『謎の実』を、どう料理したものかな」



 ジャンがピンセットで実を一つ持ち上げ、観察するように言った。



レオノールも興味津々で覗き込む。



「ナギ様、本当にこれがあの、ボナパルト様を驚かせる『覚醒の薬』になるの?」



 渚は深く頷いた。



「まずはこれを粉末にして、それからお湯と煮詰めて布で濾してエキスだけ抽出してみよう。」



「それからレオノールに集めて貰ったスパイスのシナモン、バニラ、それからクローブにナツメグ、カルダモン、あとはスターアニ。これを調合してみよう」



 渚の脳内には、「世界一有名な飲料」を再現するレシピが断片的に浮かんでいた。



「飲むだけで眠気が吹き飛び、全身の血が沸き立つようなシロップ。名付けて……『アンダルシア・コーラ』よ!」



 その宣言に、ジャンの目が怪しく光った。



「コーラの実でコーラか。……さぁ第一試作を完成させようじゃないか」



 カディスの明るい朝陽が、実験室と化したホテルの部屋に差し込む。



 史上最強のエナジードリンク開発が、ついに本格的に幕を開けた。


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