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ナポレオン戦争に迷い込んだ女子大生、おねぇ提督とフランス軍を救います  作者: もふおのしっぽ
第三章:フランス・スペイン連合艦隊

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第45話:女神の予感と、毒のような薬膳

「……ねえジャン。これからフランス軍……ナポレオン第一執政は、どこへ向かうと思う?」


お風呂上がりのリラックスした空気の中、ナギはふと真剣な顔で問いかけた。


ナギの濡れた髪からは、以前ジャンから貰ったお気に入りの香油――


ジャスミンの可憐な華やかさと、アンバーの黄金色の甘さが溶け合うような香りがふわりと漂っている。


「おいおい、そんなの俺に聞かないでくれよ」


ジャンは苦笑しながら、手元の薬草を整理する手を止めた。


「……さぁ、今はイギリス上陸に向けてブローニュにいるみたいだが…だが海を渡るには金も船も、兵士の健康も足りてねぇ。だから俺たちがここにいるんだ。

まぁあの人の勢いだ。アルプスを越えた次は、もっと遠い……もっと寒い国まで行くかもしれないな」


ジャンの軽い言葉に、ナギの背中に冷たいものが走った。


(……ロシア遠征。歴史じゃ、冬将軍に負けて、何十万人もの兵士が凍えて死ぬんだ)


まだ起こっていないはずの、雪原に散る兵士たちの残像。


(そこまで私が生きてるとも限らないけど……でも)


「もし、その『寒い場所』で戦うことになったら、兵士たちはどうなるの?」


「……最悪だ」


ジャンの目が、一瞬で軍医のそれに変わる。


「凍傷で手足は腐り、体温を奪われて肺炎でバタバタ倒れる。軍医にとっては地獄絵図だよ。そんな場所、行くもんじゃないね」


ナギは手元の蜂蜜の瓶をじっと見つめ、決意を固めたように顔を上げた。


甘い香りを漂わせる少女の口から出たのは、戦場を、そして歴史を変える「劇薬」の構想だった。



「ジャン。じゃあ、このレモンジュースが、もっと薬のような『命を守る飲み物』だったらどう? ただのビタミン補給だけじゃない……体の芯から火を灯して、凍える夜でも生き残れるような、最強の飲み物!」



「……!」



今ですら、ナギの持ち込んだレシピは壊血病予防の特効薬として、軍内の常識を塗り替えつつある。


それをさらに昇華させるというのか。


「……蜂蜜、シナモン、唐辛子、生姜ジンジャー……あのジャム化したレシピより、もっとか?」


「そう。ブラックペッパーを大量に入れて、手に入るなら砂糖を加えて、刺激とエネルギーを極限まで高めるの!」


ジャンは一瞬呆気にとられたが、その脳は即座に軍医として、科学者としての計算を始めた。


「……どれも血行を促進し、胃腸から体温を爆上げする特効薬だ。そこに高濃度の糖分をぶち込めば、即効性のエネルギー源になる。……ナギ、それはもはやジュースじゃない。戦場での『飲む焚き火』だ」


ジャンの顔に、狂気にも似た情熱の笑みが浮かぶ。


彼は勢いよく立ち上がると、扉を蹴り開ける勢いで廊下の用心棒に怒鳴った。


「ロドリゴ! 女神が砂糖を所望だ! 最高級の、純度の高い砂糖を持ってこい!」


暗がりに立っていたロドリゴは、ジャンのただならぬ気迫に一瞬だけ目を見開いたが、すぐに状況を察して頷いた。


「……わかった。市内の商人を叩き起こしてでも用意する」


ロドリゴは交代の兵を呼び寄せると、嵐のようにホテルを後にした。


「材料ならカディスにある。ここは世界中からスパイスが届く港だ。ブランデーで防腐してジャム化する技術は、俺たちの手にある」


ジャンはナギの隣に座り直し、羊皮紙を広げた。



ナギの纏うジャスミンとアンバーの可憐な香りと、机に並べられた刺激的なスパイスの――



喉を焼くような匂いが混ざり合う。



「よし、ナギ。その『命を救う毒』……いや、女神の劇薬、作ってみようじゃないか」


「え!?なんで毒?!話聞いてた?!」


夜が更けるのも忘れ、二人は机いっぱいにスパイスの図解と配合比率を書き殴っていく。


それは1803年の技術と、200年後の知恵が混ざり合う、歴史への挑戦状だった。

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