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ナポレオン戦争に迷い込んだ女子大生、おねぇ提督とフランス軍を救います  作者: もふおのしっぽ
第二章:異端審問の影

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第41話:逆転への号令

「……こちらも動くしかないわね」


 アドリアンが闇に消えた、静まり返った司令官室。


 シャルルは一人、机に両手をつき、鋭い眼差しで海図を睨みつけた。


 敵が歴史を加速させ、最短距離で殺しに来るというのなら。


 この『ズレ』を、ただの絶望で終わらせるつもりはない。



(窓の外を見て。この熱狂……兵たちの士気、そしてスペイン側のあの『やる気』を)



 本来、貧窮にあえいでいたはずのスペイン艦隊。


 だが今は、渚がもたらした『ジュース工場』の利益で潤い、かつてない活気に満ちている。


 グラビーナ提督も、猛将ディエゴも、すでに「女神」に胃袋も財布も掴まれているのだ。


「ナギの予言――本来ならば、連合艦隊の正式な締結は、1805年1月4日。……まだ一年以上も先のことね」


 史実では、スペイン側が重い腰を上げるまで、あと一年以上の歳月を浪費する。


 だが、海の時間を操る『悪魔』が、破滅を前倒しにしようとしている。 


 ならば、待つ理由などどこにもない。


「いいでしょう。ならば私は、貴様のさらに先をいかせてもらうわ」


 シャルルは大きく身を翻し、重厚な扉を勢いよく開け放った。


 控え室にいた副官たちが、その殺気にも似た覇気に、弾かれたように直立不動となる。


「副官! 直ちにカディス駐在のルブラン公使をここへ呼び出せ。叩き起こしてでも、この旗艦へ連れてくるのだ」


 次席副官の大尉が、驚愕に震え上がった。


「し、しかし提督! 国家間の軍事同盟は、本来ならパリの外務大臣とマドリードの大使が数ヶ月かけて交渉し、第一執政の承認を得るもので……」


「そんな正論は戦場では無意味だ」


 シャルルは副官の言葉を冷たく切り捨てた。


「ルブランは外交のプロだ。奴をここに座らせて、私がグラビーナ提督から引き出す『合意』を、その場で正式な『条約文書』にさせる。……それが一番確実で、早い」


「現場で、直接書かせるのですか……!?」


「奴は私の『ジュース利権』で、今や本国の官僚より肥え太ろうとしている。私と一蓮托生のあいつなら、首に縄をかけずとも、喜んでペンを走らせるはずだ」


 シャルルは、窓の外で熱狂に沸くカディス港を冷徹に見下ろした。


「全権委任状? 本国への照会? そんなものは後から追いかけさせればいい。」


(敵が時間を飛び越えてきたのなら、こちらもルールを飛び越えるだけだ。)


「この熱が冷めて、外交官たちが重箱の隅をつつき始める前に、既成事実という杭を打ち込む」


 ルブラン公使にはこう伝えろ、とシャルルは言い放つ。



「『歴史の証人になりたいか、それとも利権の残飯を漁るネズミで終わりたいか』……とな」



「は、はっ! 直ちに公使をお呼びして参ります!」


 副官たちが夜の帳へ駆け出していく。


 本来の締結日まで、あと一年二ヶ月。


 その運命を、シャルルは今夜、この艦長室で無理やり引き寄せる。


「さあ、始めよう。世界で一番短い『同盟交渉』を」



 夜の海を撥ね退けるような鋭い光が瞳に宿っていた。

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