第1話:紺碧の果て、時の淵
はじめまして。
本作は、以下の要素を詰め込んだ「海洋歴史ファンタジー」です。
【おねぇ提督×現代知識】
拾ってくれたのは、見た目は男らしいのに中身は完璧な「おねぇ」な提督。でもその背後には、亡き姉への切ない誓いが……。
【歴史改変の衝撃】
舞台は1803年、ナポレオン時代のフランス。現代の航海士を目指していた主人公・渚が、壊滅確定の「トラファルガーの海戦」を知識で塗り替えます。
【10年の空白が生んだ再会】
嵐の海で消えた憧れの先輩。彼は今、どこで何をしているのか。
(※読者の皆様へ:彼が歩んだ「10年」の行方は、物語の大きな鍵となります。ぜひ、渚と一緒にその謎を追いかけてください)
「歴史を知識で殴り倒し、大切な居場所を守り抜く」
そんな物語を楽しんでいただければ幸いです。
海は、どこまでも残酷に美しかった。
「渚、手が止まってるぞ。実習も終盤だってのに、最後で評価を落とすつもりか?」
マストの上から、聞き慣れた余裕のある声が降ってくる。
見上げれば、地上三十メートルのヤード(横木)の上、命綱一本で軽々と帆を操る成瀬慎司がいた。
私、天野渚と彼は同じ大学の四年生。
この大型練習帆船『海星丸』での実習は、卒業と資格取得のための「最後の仕上げ」だ。周囲では、真っ黒に日焼けした実習生たちが教官のホイッスルに合わせて一斉にロープを引いている。
「もっと引け! 緩めるな!」
教官の怒声が響く。商船大のエリートたちが集うこの船は、甘えの許されないプロへの登竜門だった。
成瀬は三年の時点で大手商社への内定を勝ち取っている。単位も完璧。あとは卒業を待つだけの彼は、どこか「あがりの人間」特有の、鼻につくほどの余裕があった。
大学での三年間、私たちはほとんど口をきいたこともなかった。
学年トップの成瀬と、後先考えずに「自分の船で世界一周したい」と騒いでいた私。住む世界が違いすぎたのだ。
「わかってます! 成瀬くんこそ、あとの時間は消化試合だと思って、手を抜かないでね!」
「まさか。渚の教科書を無視したデタラメなロープワークを見るのが、あと少しだと思うと惜しくてね」
成瀬は不敵に笑うが、その言葉には確かな敬意が混じっていた。
私は、ヨット乗りだった父に幼い頃から海へ連れ出され、荒波の中での帆の扱いを体に叩き込まれてきた。
学校で習う理論とは違う、風を肌で読み、海と対話するような私の実践的な操船術。
成瀬は最初、私を見下していたはずだった。
実習開始時、巨大組織の歯車となって海に出る覚悟を決めていた成瀬は、私の語る夢を、突き放すような冷ややかな目で見ることがあった。
それは、現実と向き合い「歯車」になる道を選んだ自分に対し、どこまでも無鉄砲に理想を追う私への、やり場のない苛立ちだったのかもしれない。
「お前の夢は、甘い」――そう切り捨てる彼の瞳の奥には、実は、自分にはもう選ぶことのできない「自由」を真っ向から肯定する私への、ひりつくような羨望が混じっていた。
けれど、嵐に近い荒天の訓練で、誰よりも早く風の変化を察知して動く私を見て、彼は私を認めたのだと思う。
現実の重さを知る彼だからこそ、それ無視して飛ぼうとする私の夢が、誰よりも羨ましく、そして誰よりも、叶えて欲しいものだと願っているように、実習最後の今だからか感じるようになった。
嵐の一件から急に距離が近づき、実習船ではよくペアでいるようになった。
取り巻きの港区風女子たちにでも見られてたら大変……海上で良かった。
「世界一周か……。お前らしい、泥臭くて、あまりに遠い夢だな」
成瀬はヤードの上で一度だけ空を見上げ、それから私を射抜くような鋭い視線を向けた。あの頃とは違う目だ。
「いいだろう、合格だ。この嵐を越えたら、俺が責任を持って教官に推薦してやる。お前はもう、一人の立派な『航海士』だってな。……だから、絶対に…夢から手を離すなよ」
――異変は、その直後だった。
快晴の空が墨をぶちまけたような黒に染まり、気圧の急降下に鼓膜が痛んだ。
「総員、デッキへ! 帆を畳め! これはただの嵐じゃない!」
教官の悲鳴に近い叫び。さっきまでの規律は一瞬で崩れ、デッキはパニックに包まれる。
次の瞬間、海面が爆発したように跳ね上がり、山のような大波が『海星丸』を粉砕せんばかりに叩きつけた。
「っ……、渚、マストから離れろ!」
仲間たちが次々と船内に逃げ込む中、成瀬が私の腕を掴もうとした、その時。一際巨大な「壁」がデッキを直撃した。
「きゃああああぁぁぁ!」
激流が足元をすくい、私は手すりを越えて、極寒の海へと放り出された。
あと一歩。この実習さえ終えれば、私は父さんとあの広い海へ飛び出せたのに。
泡立つ闇に飲み込まれかけたその瞬間、私の手首を、万力のような力が掴んだ。
「渚ッ! 離すな、絶対に離すな!」
成瀬だった。
彼は荒れ狂うデッキに片腕を回し、もう片方の手で私を必死に引き止めていた。余裕ぶっていた彼の顔が、私を失うことへの絶望で歪んでいる。
「成瀬くん、もういい! 離して、二人とも落ちちゃう…!」
「黙れ! 自分のその腕を信じてるんだろ!!だった今死んでも離すな!」
だが、船体は無慈悲に九十度近く傾き、さらなる大波が、救助の手を伸ばそうとしていた成瀬ごと、私たちを船から引き剥がした。
「成瀬く――!」
「なぎ……さ……っ!」
繋いでいた指先が、ずるりと離れる。
私を助けようとしてバランスを崩した成瀬の体もまた、渦巻く白泡の中へと吸い込まれていった。
(あぁ……お父さん、ごめん。成瀬くん、私を助けようとしたせいで……っ。成瀬…)
意識が急速に混濁していく中、深い海の底から歴史の歯車が軋むような音が響いた。
視界の端で、泡が黄金色に光り――。
私の体は重力から解き放たれ、深い、深い、歴史の闇へと落ちていった。
はじめましての文章。なかなか構成が難しいですが、完成まで頑張ります!AIに執筆協力してもらってます。




