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  作者: yuyu
第二章 ジュニアフォーミュラ

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35話 六月の風と焦燥

梅雨の曇天は、工場サーキットを薄暗く包み込み、路面にはじっとりとした湿気がまとわりついていた。

放課後の時間、校舎を飛び出した三人は、いつものように駅前で合流し、工場へ向かう。


真昼は歩きながら腕時計を見た。

「今日も一時間半は走れるわ。調整するには十分」

淡々と告げる声に、瑠生と健二はうなずいた。


「来週だもんな、大会……」

健二が口にすると、胸の奥がぞわりとした。緊張と期待、その両方が混じり合った感覚だった。


「そう言えば、健二テスト大丈夫だった」

「あったりまえよ」

「何が当たり前よ。後、一問でも不正解だったら補習だったくせに」

「何で、知ってるんだ」

「あっ、やっぱりそうなのね」

「はめやがったな」

「勝手にはまったのよ」


 健二は何とかテストはクリアしたようであった。


ーーー


サーキットに着くと、石浦や黒宮たちがすでに準備を進めていた。

ピットの明かりが路面を白く照らし、三台のフォーミュラは静かに並んでいる。


「よし来たな三人」


 石浦は先ほどまで触っていたタブレットを机の上に置き今日のコース上の説明を始めた。

 どうも、コース上のほとんどドライのようだが一部がハーフウエットになっているようで路面温度が場所によっては大きく変化するようだった。


「最悪だ。俺対応できるかなー」


何時もは元気な健二が珍しく弱音を吐いて、フォーミュラに向って行った。


ーーー


走行開始されるとサーキット場にはエンジンが一斉に咆哮を上げ、サーキットに響いた。

最近恒例になってきた真昼が先頭、瑠生、健二が続く形で走行が始まった。


最初の数周は、真昼が見本のようなラインを刻む。

安定している。だが、出口でアクセルを開けるタイミングが絶妙に早く、その「攻め」が後続をじわじわと引き離していく。


瑠生はその走りを目で追った。

(昨日の修正は悪くない。けど……まだ出口で置いていかれる)


健二はストレートで強引に追いつくが、コーナーで差を広げられるたびに舌打ちを漏らす。

「くっそ……全然追えねえ!」


数周後、真昼が合図をしてラインを外す。

「前に出て」


すぐに瑠生が前に出た。

新しく掴んだ“アクセルを残す走り”を試す。

滑らかにコーナーを抜ける感触に、少しずつ確信が芽生えてきた。


健二は何度も横に出て仕掛ける。だが立ち上がりでわずかに遅れ、抜ききれない。


ピットに戻って


走行を終えた健二は、ヘルメットを脱いで荒い息を吐く。

「なんでだよ! ブレーキも遅らせたし、アクセルだって踏んだのに!」


石浦が肩を叩く。

「お前はまだ0か100だ。プロはその“間”を使うんだよ」


「間……?」

健二は首をかしげた。


その横で瑠生は、自分のタイヤを見つめていた。

昨日ほどではないが、それでも減りが早い。

(まだ答えは遠い。でも、確実に近づいてる……)


ーーー


機材を片付ける間、石浦と黒宮が二人だけで話していた。


「どう思う、黒宮」

「真昼はすでに安定してる。問題は……あとの二人ですね」

「瑠生は伸びてる。ただ、タイヤの扱いがまだ粗い」

「健二は?」

「……あいつは一発の速さはある。けど安定しない」


石浦は笑った。

「だが面白え。三人とも、伸びしろだらけだ」


ーーー


六月の湿った風が、教室の窓から入り込む。

昼休み、三人はいつものように窓際の席で弁当を広げていた。


「お前ら、最近また毎日一緒にいるな」

クラスの誰かがぼそりとつぶやく。


「……仕方ないだろ、部活みたいなもんだし」

健二が笑って返す。


周囲との距離はある。だが、三人の輪は揺るがなかった。


「なあ、テストどうだった?」

「まあまあ」

「私は満点」

真昼の即答に健二がうなだれた。

「……リーダー様は違いますね」


そのやり取りに、クラスの空気が少し和む。


ーーー


週末の木曜日さすがに大会も近くなった上テストも終わった三人は、木金で学校を休んでいた。

曇天の下、三人は再び工場サーキットに集まった。


この日は模擬レース形式の練習。

三台並んでスタートラインに立ち、旗が振られる。


健二が勢いよく飛び出す。

だがコーナーでアウトに膨らみ、真昼に差し込まれる。

瑠生はその背中を冷静に追う。


数周にわたり、三人は激しく順位を入れ替えた。

最後の周、三台はストレートで横一線。


真昼は少しの乱れを見逃さず、インから差し込む。

チェッカーフラッグが振られたとき、トップに立っていたのはやはり真昼だった。


ーーー


練習を終えた三人は、それぞれの家で夜を迎える。


瑠生は机に広げたノートPCで走行データを確認していた。

(出口の速さ……まだ足りない。けど、ここまで来たんだ。明日は全力で)


健二は布団に寝転びながら、拳を握る。

「絶対に、二人に追いついてやる……!」


真昼は静かに窓の外を見ていた。

「負けられない。……私が、引っ張る」


六月の夜風が、カーテンを揺らした。

明日は大会本番。三人の挑戦が、いよいよ始まる。

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