31話 リーダーのライン
日曜の午前。
工場サーキットのコースはまだらな色になっており、アスファルトの表面には水滴が付いている箇所もあった。
「今日は私が先頭を走るから」
真昼がヘルメットを抱え、きっぱりと言った。
その表情は普段よりさらに引き締まっていて、誰も異論を挟めなかった。
「お、おう。リーダーってわけか」
健二が冗談めかして返すが、声には少しだけ緊張が混じっていた。真昼は、大会が終わり社長に「リーダーとして2人をまとめてくれ」と言われていた。
「文句ある?」
「いやいや! むしろありがたいっすよ、リーダー!」
「リーダーって言うな」
「はーい」
ため口の応酬に瑠生が苦笑する。
この三人だからこそ、ただの練習が特別になる。
ーーー
最初の数周、真昼はまるで教科書のような安定したラインを刻んでいた。
アウトインアウトを正確に描き、ブレーキングも無理がない。
(さすが真昼……安定感が半端じゃない)
後ろについた瑠生は、ハンドルを握りながら思わず唸る。
だが、その中に「攻め」が確かにあった。
ブレーキを離す瞬間、イン側へ切り込む角度。
立ち上がりでアクセルをわずかに早く開ける勇気。
(なるほど……こうやって安定と速さを両立させるのか!)
健二も気づいていた。
「チッ、遊ばれてんな俺たち……!」
悔しそうにアクセルを踏み増すが、前との差は簡単には縮まらない。
数周後。
真昼は合図するようにラインを外し、二人を前に出した。
「さあ、見せてもらおうかしら」
「言うねえ!」
健二が勢いよく前に躍り出る。
瑠生も負けじと追随。健二は、昔の様にただ多々加速してブレーキを掛けるのではなく、先ほどまで真昼が走っていたラインをなぞって行くような形で走行していた。瑠生もそれに倣うような形で走行していたのだが少し違和感を持ちながら走っていた。結局数周は健二が先頭を走っていたのだが最後の1周になったときに三台はストレートで横一線になり、ブレーキポイントを競い合った。
熱を帯びるサーキット。
だが真昼は冷静だった。二人の後ろにつきながら、わずかな乱れを見逃さず、再び鋭く差し込む。
その一連の流れはまるで「答え」を示すようで、瑠生と健二は走りながら理解させられていった。
(真昼のラインは、安定の中に攻めがある。俺たちがただ突っ込むより、確実で速い……!)
やがてチェッカーフラッグが振られ、三人は同時にピットへ戻った。
「……っはぁ! 心臓バクバクだわ!」
健二がヘルメットを脱いで笑う。
「真昼の後ろ走ると、全部見透かされてるみたいだな」
「まあ、リーダーだから」
涼しい顔でそう言う真昼に、二人は顔を見合わせて吹き出した。
ーーー
健二は走行が終わるとそそくさと家に帰って行ったのだが瑠生は、シミュレーターでの連取を続けていた。その走行のラインは先ほどまで真昼が走っていたラインと同じではあったのだが明らかに加速の仕方が真昼とは異なっておりゆっくりとした加速の仕方をしていた。それを疑問に思いつ周回を重ねていくと段々と早くなっているが、瑠生の普段の走り方よりも0.9秒ほど遅かった。
「遅いなー」
瑠生の独り言は誰にも聞かれていないと思っていたのだが返事が返ってきた。
「仕方ないじゃない、瑠生の走り方と私の走り方は180度違うんだから」
「真昼か、驚いたぞ」
「気が付かないものね。5周前ぐらいから見ていたのに」
「そうなのかそれはすまん」
瑠生は、フォーミュラのコックピット部分から出て、飲み物を飲みだした。瑠生の格好はラフなものになっていたが、足元だけは室内用ときめたレーシングシューズを履いていた。
「どこが上手くいかないの?」
「加速の仕方かな、平均して各コーナーで0.05秒から0.1秒近くまで差が出来るね」
「そうかな、私的には早く加速しているように思うんだけど」
「いや、実際一番僅差だったのが0.9秒差だからね」
「そうなら、コーナの中での位置取りの違いかしら」
「そうかも」
「走ってみようか」
「いいのか」
「良いわよ。少し待って」
真昼は、シミュレー室から出て行った。恐らくだが、シューズと椅子型を取りに行ったのであろう。実際瑠生も椅子型を使用しており、その型は、フォーミュラに乗り出して作成されて物で3人はそれぞれ2つほど持っており瑠生が使用しているのもその一つではあるのだが、真昼は身長が140ほど 工場サーキットのコースはまだらな色になっており、アスファルトの表面には水滴が付いている箇所もあった。
「今日は私が先頭を走るから」
真昼がヘルメットを抱え、きっぱりと言った。
その表情は普段よりさらに引き締まっていて、誰も異論を挟めなかった。
「お、おう。リーダーってわけか」
健二が冗談めかして返すが、声には少しだけ緊張が混じっていた。真昼は、大会が終わり社長に「リーダーとして2人をまとめてくれ」と言われていた。
「文句ある?」
「いやいや! むしろありがたいっすよ、リーダー!」
「リーダーって言うな」
「はーい」
ため口の応酬に瑠生が苦笑する。
この三人だからこそ、ただの練習が特別になる。
ーーー
最初の数周、真昼はまるで教科書のような安定したラインを刻んでいた。
アウトインアウトを正確に描き、ブレーキングも無理がない。
(さすが真昼……安定感が半端じゃない)
後ろについた瑠生は、ハンドルを握りながら思わず唸る。
だが、その中に「攻め」が確かにあった。
ブレーキを離す瞬間、イン側へ切り込む角度。
立ち上がりでアクセルをわずかに早く開ける勇気。
(なるほど……こうやって安定と速さを両立させるのか!)
健二も気づいていた。
「チッ、遊ばれてんな俺たち……!」
悔しそうにアクセルを踏み増すが、前との差は簡単には縮まらない。
数周後。
真昼は合図するようにラインを外し、二人を前に出した。
「さあ、見せてもらおうかしら」
「言うねえ!」
健二が勢いよく前に躍り出る。
瑠生も負けじと追随。健二は、昔の様にただ多々加速してブレーキを掛けるのではなく、先ほどまで真昼が走っていたラインをなぞって行くような形で走行していた。瑠生もそれに倣うような形で走行していたのだが少し違和感を持ちながら走っていた。結局数周は健二が先頭を走っていたのだが最後の1周になったときに三台はストレートで横一線になり、ブレーキポイントを競い合った。
熱を帯びるサーキット。
だが真昼は冷静だった。二人の後ろにつきながら、わずかな乱れを見逃さず、再び鋭く差し込む。
その一連の流れはまるで「答え」を示すようで、瑠生と健二は走りながら理解させられていった。
(真昼のラインは、安定の中に攻めがある。俺たちがただ突っ込むより、確実で速い……!)
やがてチェッカーフラッグが振られ、三人は同時にピットへ戻った。
「……っはぁ! 心臓バクバクだわ!」
健二がヘルメットを脱いで笑う。
「真昼の後ろ走ると、全部見透かされてるみたいだな」
「まあ、リーダーだから」
涼しい顔でそう言う真昼に、二人は顔を見合わせて吹き出した。
ーーー
健二は走行が終わるとそそくさと家に帰って行ったのだが瑠生は、シミュレーターでの連取を続けていた。その走行のラインは先ほどまで真昼が走っていたラインと同じではあったのだが明らかに加速の仕方が真昼とは異なっておりゆっくりとした加速の仕方をしていた。それを疑問に思いつ周回を重ねていくと段々と早くなっているが、瑠生の普段の走り方よりも0.9秒ほど遅かった。
「遅いなー」
瑠生の独り言は誰にも聞かれていないと思っていたのだが返事が返ってきた。
「仕方ないじゃない、瑠生の走り方と私の走り方は180度違うんだから」
「真昼か、驚いたぞ」
「気が付かないものね。5周前ぐらいから見ていたのに」
「そうなのかそれはすまん」
瑠生は、フォーミュラのコックピット部分から出て、飲み物を飲みだした。瑠生の格好はラフなものになっていたが、足元だけは室内用ときめたレーシングシューズを履いていた。
「どこが上手くいかないの?」
「加速の仕方かな、平均して各コーナーで0.05秒から0.1秒近くまで差が出来るね」
「そうかな、私的には早く加速しているように思うんだけど」
「いや、実際一番僅差だったのが0.9秒差だからね」
「そうなら、コーナの中での位置取りの違いかしら」
「そうかも」
「走ってみようか」
「いいのか」
「良いわよ。少し待って」
真昼は、シミュレー室から出て行った。恐らくだが、シューズと椅子型を取りに行ったのであろう。実際瑠生も椅子型を使用しており、その型は、フォーミュラに乗り出して作成されて物で3人はそれぞれ2つほど持っており瑠生が使用しているのもその一つではあるのだが、真昼は身長が140㎝ほどしか無くそれに対して瑠生は、160㎝と比較的高い方であった。そのため着座位置が全く異なりそれを調整するために取りに行くのだろうと思いながらも瑠生は、今まで走っていたログを見ていた。10分ほどして瑠生が思っていた物とは異なり完全装備な真昼が現れた。
ーーー
真昼は、スーツまできていた。
「何でそんな完全装備なの?」
瑠生は、疑問でしかなかった。しかし、その疑問は先ほどまで真昼が着ていた服装を思い出して簡単に解決してしまった。真昼は、先ほどまでスカートを履いていたこともあり裾が邪魔をすると思い着替えたのだろう。
「あー、そう言うことか」
「何よ、文句ある」
「無いよ」
「それじゃあ始めるよ」
そう言って、コックピットに自身の肩を入れて乗り込んだ。真昼は、乗り込むとすぐに車体を動かし始めた。シミュレーターであるためウォームアップをすることもなくすぐにアタックの時と同じように走らせ始めた。
真昼の走り方は先ほどまでコースで走っていた。走り方よりも安定した走り方をしておりどこにも攻めた様子がなかった。何周かしているうちに瑠生は、その違いに気が付いた。
「そう言うことか」
「どういうこと」
「真昼は、縁石には乗らないやり方で走っている」
「そうね。縁石に乗ると速度やバランスが変わるからね」
「それは知ってはいるんだけど。普段の走り方とは違うからどうしても縁石に乗っていることが多かったから遅くなっていたんだなと」
「初歩の初歩で引っかかってるじゃない」
「それは、仕方ない」
「やってみたら」
真昼と入れ替わるような形でコックピットに入り操作を始めた。その練習は、中学生にしては遅い時間までやったがために真一に二人そろって怒られる羽目になった。
ーーー
翌日の学校では三人は大会も終わり少し肩の力が抜けた雰囲気になっていた。
だが、教室では周囲の空気が微妙に違っていた。
「あの三人、また一緒にいるね」
「仕方ない、瑠生くんと真昼ちゃんは成績優秀だし、健二君はギリギリだけど」
そんなひそひそ声が耳に入る。
距離感。
誰も敵意はないが、どこか「別枠」として見られているのが伝わった。
「なあ瑠生、昨日の真昼やばかったよな」
健二が、わざと大きめの声で話しかけてきた。
「完全に遊ばれてたもんな」
「俺もだよ。ライン示されてる気分だった」
「それ、気分じゃなくて事実」
真昼が健二にテストの対策部分が掛かれたノートを見せながら突っ込んでいた。
「お前なー、せめて少しは隠せよ」
「隠す意味ないでしょ」
「くっそ、リーダー様は違うな」
「それよりも健二今度のテスト赤点取ったら、補講がある見たいよ。しかも大会の日に」
「マジかよ、何の補習?」
「数学の補習」
「数学かー嫌いなんだよな」
「諦めなさい」
そう言われてうなだれたしまった。
三人のやりとりに、クラスの空気が一瞬和んだ。
周囲との距離はある。
でも、この三人の輪は揺るがない。
昼休み、窓際で弁当を広げながら瑠生は思った。
(真昼の走りは安定と攻めのバランス。その背中を追い続ければ、俺も次のステージに行けるはずだ)
春の風がカーテンを揺らし、机に置いていたノートのページをめくって行った。




