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  作者: yuyu
第二章 ジュニアフォーミュラ

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27話 数値の壁

 翌朝、教室に入るとすぐに健二が駆け寄ってきた。

「なあ、昨日のライン! 俺も絶対マスターしてやるからな!」


 声が大きい。まだ朝のHR前でざわつく教室が、一瞬静まった。

「レースの話?」

「昨日も行ったの?」

「またニュースに出るのかな」


 クラスの視線が集まり、瑠生は慌てて手を振った。

「いやいや、大したことじゃないから」


 真昼が後ろから、冷ややかに言った。

「健二、そういうのは学校じゃ控えたほうがいい」


「えっ、でも別にいいだろ? 事実だし」

「……事実でもね」


 その淡々とした声に健二が口をつぐむ。

 瑠生も内心うなずいた。社長に「感覚じゃなく数字で示せ」と言われた昨夜の言葉が蘇る。

(感覚だけで突っ走るのは、もう通用しないんだ……)


ーーー


 土曜日の朝から三人は何時もの様に工場のサーキットに朝から集合していた。今日は走行日ではなく、データ取得の日だ。ジュニアフォーミュラでは、車両やエンジンに細かい規定はあるが形状は自由にできるためそのパーツでの測定を行う。


 パドックにはノートPCと解析モニターが並べられ、メカニックがタイヤ摩耗率やブレーキ圧力のデータを映し出している。

 そこには先日のシミュレーターでの瑠生の「鋭角ライン」の走行記録も残されていた。


「見ろ。侵入速度は確かに速い。だが出口の立ち上がりは安定してない」

 メカニックが指し示すグラフは、スロットル開度が波打っていた。


「瑠生の勘でたまたま成立したってこと?」

 健二が首をかしげる。


 真昼はモニターに食い入るように見つめ、静かに言った。

「理屈はある。だけど、まだ再現性が低い」


「再現性……?」

 瑠生は呟き、拳を握った。

(ただ速いだけじゃダメなんだ。どの周でも、誰がやっても同じように速くなければ……)


ーーー


 測定が始まった。この測定では本来あのラインでの走行は行えないが、空力設計の担当者があのラインで瑠生は、走ってほしいと言われ走行をこなしていた。

 何度かフロアを変えウイングを変えそうして走行をしているとある組み合わせの時あのラインでのコーナリングがいきなりしやすくなった。


 それに気が付いた瑠生は、さらに細かく調整をしてもらおうとピットに戻り停止した。すると1コーナーで「ドン」という音がした。瑠生は、気になりホームストレートとピットを分けるフェンスがある場所から見てみると健二の車両が壁に当たってフロントノーズが大破して停車していた。無線で1コーナーで大破していることを知った真昼は、ピットに入ってきたのが分かった。瑠生は、それを気にも留めず健二の車両を見ていた。するといつの間にか降りて来た真昼が横に居た。


 「健二は、無事?」

 「わかんない、まだ降りて来てない」

 健二のフォーミュラの周りには関係者が集まっていた。すると健二がコックピットから出てきた。どうも無事なようで歩きながらこっちに向って来ていた。それに安心して二人は、ピット裏に入って行った。


ーーー


 結局、健二は大事を取って病院に行くことになったのだがそのギリギリまで自身の車両について聞いていた。瑠生と真昼は、健二が乗っていた時の調整値が気になり責任者の石浦に質問していた。


 「石浦さん、健二が乗ってた車両の設定てどうなっていたんですか?」

 「健二のか?」

 石浦は、手元の資料を見ながら答えた。するとウイングやフロアは、瑠生が少し乗りやすいなと途中思ったパーツの組み合わせだったが、真昼の反応は瑠生とは異なっていた。


 「確かにあの組み合わせは操作が難しかったのよね。曲がろうと思っても曲がらないし、曲がりだしたと思ったら一気に曲がるから」

 「え・・・・」

 瑠生が驚いたような反応をすると周囲に居た設計士や整備スタッフたちは驚いたようであった。


 「結構、操作しやすかったから今乗っていた車両はもっと良かったから調整してもらおうかと思って戻って来たんだけど」

 瑠生がそう言うと真昼はあきれたようであったが周囲のスタッフは瑠生のマシンでの調整をしていた。真昼にしてみればただでも操作しにくかった健二の車両に付いていたパーツの数倍も操作しにくかったのが今瑠生が乗っていた車両のパーツだった。そのパーツで真昼が操縦していた時には、珍しくコースアウトしギリギリのところでコースに戻ってきたのだがそれ以降も手一杯の状態でピットに戻って来ていたエアロパーツだった。

 

 結局その後、調整を繰り返し車両についていたエアロパーツの調整が続けられたその結果、瑠生はこのコースでのタイムレコードを記録するまでの車速になったが安定感がないときが現れるのが難点であった。


ーーー


 日曜日になっても瑠生は、あのエアロパーツのテストを続けていた。そして今日は雨のこともありされに運転がしにくい状況になっていた。昨日事故を起こした健二は、安全を取って入院することになっていた。


「くそ、雨で滑る」

 瑠生は、あのラインを試してはいたがどうしても鋭角なラインを取ろうとすると滑って取ることが出来ずにいた。結局耐えられずにピットに戻ってきた。すると既に真昼もいた。


「どうだったの」

 停車してピットに戻してもらっていると無線で聞いてきた。


「止まりはするけど、加速で滑るね」

「私の方も同じ、止めようと思えば止まるけど加速は、晴れの日のより当然だけどアクスル開いてないのに滑るのよね」

「ハイドロプレーニング起こしてそうなんだよね」

「確かに」

瑠生は、車から降りるとタオルで拭きながら話し始めた。


「それにしても速度は落としたくない」

「落としたらずぶ濡れだもの」

「そこが嫌な所よね」

「結局カートよりは濡れないけどね」


 二人が話していると石浦が中止だと告げてきた。どうも今後雨が強くなるようで二人は帰ることにした。


ーーー


 家に帰ると、母の鈴がリビングで洗濯物を畳んでいた。

「おかえり。……疲れた顔してるね」


「うん、タイムと雨にやられた」

 カバンを置きながら答えると、鈴は少し笑った。


「小学生の頃は、数字なんて気にせず走ってたのにね」

「今はそういうわけにいかないんだよ」

 鈴は、笑っていた


ーーー


 翌日の放課後。

 真昼が瑠生を呼び止めた。

「今日もサーキット行くんでしょ。一緒に行こう」


 二人は電車に並んで座り、解析ノートを広げる。

「土日のデータ、私なりに整理してみた」

 真昼のノートには、コーナーごとの速度変化とステアリング角度が細かく書かれていた。


「すごい……ここまでまとめたの?」

「あなたが“勘”でやったことを、数字で裏付ける必要があるから」


 瑠生は心の底から感心した。

(俺ひとりじゃ絶対に気付けなかった……真昼は、俺の見えてない部分を見てる)


 サーキットに着くと、健二が既にシミュレーターに座っていた。

「よーし、今日こそ成功させるぜ!」

 だが数分後、画面の中でまたスピンを繰り返していた。


「だーっ! なんでだよ!」

 ステアリングを叩く健二。


 瑠生は笑いながらも、自分の番を待ちながら考えていた。

(勘を数字に変える。それができれば、俺の走りは武器になる)


 シミュレーターに座り、データを意識しながら再現を試みる。

 ステアリングを切り込む角度、ブレーキを離すタイミング。

 頭の中に浮かぶのは、真昼のノートの数字。


 結果――画面上のマシンは乱れず、出口速度は過去最高を記録し上に10周以上±1秒以内に走り続けることが出来た。


「できた……!」

 モニターに映るタイムを見て、瑠生は息を呑んだ。


 真昼が珍しく微笑んだ。

「これで、理屈が証明できたわね」


 健二は頭を掻きながら悔しそうに笑った。

「チクショー! でも、これで次のレースは面白くなるな!」


 その夜。

 ベッドに横たわった瑠生は、天井を見つめながら思った。


(勘と理屈。両方を掴めば、俺はもっと先に行ける……)


 外では春の夜風が吹き、遠くで工場の明かりが瞬いていた。


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