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  作者: yuyu
第一章 憧れと挑戦

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21話 テストと揺れる心  

 春の朝は、冬の名残をわずかに残している。

 登校途中の空気はまだ冷たく、制服の上から羽織ったジャケットに肩をすくめる。


 瑠生は教科書とノートの詰まった鞄を背負いながら、歩調を少し早めた。

 眠気が体を重くしている。昨夜は結局、参考書を開いたまま机に突っ伏し、目を覚ましたのは夜明け前だった。


 「……大丈夫、大丈夫」

 小さく自分に言い聞かせる。


ーーー

 

 教室に入ると、美咲がすぐに声をかけてきた。

 「るい君、最近眠そうだね。大丈夫? 勉強、進んでる?」


 高志も横から冷やかすように笑う。

 「おいおい、美咲。るいはカートばっかだろ。そろそろ成績やばいんじゃね?」


 「そんなことは、無いよ。前回のテストは満点だったし」

 それを聞いて高志は「げええーー」と言た。その横で美咲は楽しそうに笑っていった。


 授業が始まると、瑠生は黒板に書かれる文字が頭に入ってこなかった。

 昨夜のシミュレーターでやったシフト操作、ハンドルのボタン配置……そればかりが脳裏をよぎる。


 (やばい……集中できない)


 気づけば、ノートに書いていたのは「ブレーキバランス」「シフトタイミング」といったカートに関係する文字だった。


ーーー

 

 放課後、三人はサーキットへ向かっていた。

 今日はチームによる初めての「内部テスト」――正式にタイムを計測し、各ドライバーの実力を数値で把握する日だった。


 ピットに入ると、黒いカーボンのモノコックが三台並んでいた。

 それぞれのマシンにはセンサー類が取り付けられ、データを収集できるようになっている。


 社長と数名のメカニックが無言で待ち構え、その視線は鋭かった。

 「今日は本気で走ってもらう。記録はすべて残る。遊びではない」

 社長の低い声が、張り詰めた空気をさらに強くした。


 真昼は表情を変えずにヘルメットを被った。

 健二は大声で「よっしゃ、やってやる!」と叫びながらも、声の奥に緊張が混じっていた。

 瑠生は深呼吸を繰り返した。


ーーー

 

 最初にコースに出たのは真昼だった。

 彼女の走りは冷静そのもの。

 無駄なステアリング操作がなく、シフトもスムーズ。


 1周目からコンスタントにタイムを刻み、ラップを重ねるごとに確実に更新していった。

 ピットに戻ってきたとき、モニターには過去最高のタイムが表示されていた。


 メカニックが小声で「安定してるな」とつぶやき、社長も満足げに頷く。



 次に健二がコースへ。

 立ち上がりの加速は鋭く、直線では歓喜の叫びを上げた。

 だが、ブレーキで何度もタイヤをロックさせ、コーナリングで大きくタイムを失う。


 「ちくしょう!」

 ハンドルを叩く健二の声が無線に乗って届く。


 それでも彼のアグレッシブな走りは観る者の心を動かした。

 戻ってきたとき、タイムは真昼に及ばなかったが、確かな成長が感じられた。


 最後に瑠生がコースに出る。

 エンジンの振動が体に響き、手が震える。


 (落ち着け……受験のことは今だけ忘れろ。走りに集中だ)


 1周目、ブレーキを早めに踏み込む。

 結果、立ち上がりは安定するが、タイムは伸びない。


 2周目、意識して遅らせる。だが怖さが勝り、踏み切れない。

 モニターの一番下の瑠生のタイムが表示された


 (だめだ……頭のどこかで「失敗したら勉強も終わる」って考えてる……)


 それでも周回を重ねるごとに少しずつ改善し、最終ラップではなんとか健二に迫るタイムを記録した。


 ピットに戻ると、体中から力が抜け、シートから立ち上がるのもやっとだった。


ーーー


 三人が並んでモニターを見つめる。

 真昼がトップ、健二が二番手、瑠生は僅差で三番手。


 社長は三人を見渡し、低い声で言った。

 「まだ未熟だ。だが、確実に前へ進んでいる」


 瑠生はただ頷くしかなかった。


ーーー


 その夜、瑠生は机に向かっていた。

 だが、数式を前にしても、頭はサーキットの映像でいっぱいだった。


 (両立……できるのか?)


 ペンが止まり、瞼が重くなる。

 机に突っ伏しそうになったとき、机からピストン片が転がり落ちた。


 手に取り、冷たい感触を確かめる。

 「……やるんだ。どっちをやりたいんだ。どっちも諦めない」


 小さく呟き、再びノートを開いた。

 鉛筆の先が震えながらも、文字を刻んでいく。

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