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  作者: yuyu
第一章 憧れと挑戦

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17話 終わりなき競り合い、そして新しい扉

 春の二戦目が始まった。 

 日が強くなってきたグリッドに、子どもたちのマシンが並んでいた。

 観客席には色とりどりの帽子と旗。大人たちが双眼鏡を構え、子どもたちの走りを一目見ようと集まっている。


 瑠生は深呼吸し、胸ポケットのピストン片を握った。

 「負けない……」


 シグナルが消えた瞬間、轟音とともに十数台が飛び出す。

 1コーナーを制したのは瑠生。しかし真昼はアウト側から、まるで計算されたようにスピードを重ね、2コーナー出口で横に並んだ。


 「えっ……!」


 瑠生がわずかに焦った隙を逃さず、真昼はインを奪う。

 その後は互いに抜きつ抜かれつ。観客席は息をのむ攻防に立ち上がり、声を張り上げる。


 「すごい……子どもの走りじゃない!」


 最終ラップ、最終コーナー。

 並んだ二人のマシンは、ほぼ同時にチェッカーを駆け抜けた。


 結果は――0.1秒差で真昼。


 「くそっ……!」

 瑠生はヘルメットを脱ぐと、悔しさで涙が滲んだ。


 真昼は淡々と告げる。

 「勝負は結果で決まるの」


 それは冷たい言葉ではなく、確固たる信念だった。


ーーー


 夏の三戦目は灼熱の中でのレースだった

 真夏の太陽がサーキットを焼き尽くしていた。

 アスファルトは揺らぎ、靴底まで熱が伝わる。


 「集中しろ、瑠生」

 真一の声が背中を押す。


 スタート直後から、瑠生と真昼は抜け出した。

 しかし暑さは容赦なく体力を奪う。ヘルメットの中は蒸し風呂のようで、呼吸が荒くなる。


 「……苦しい」


 集中が途切れかけた瞬間、いつも握るピストン片の感触が脳裏に響いた。

 ――冬の間、凍える風の中で走り続けた日々。


 「僕は、負けない!」


 最終ラップ、出口でほんの一瞬これまで周を重ねてきた時より早くアクセルを開けた。

 真昼が迫るが、瑠生のマシンが数センチ前に飛び出す。


 チェッカーフラッグ。

 瑠生の勝利。


 真昼は悔しそうにヘルメットを脱いだ。

 「……次は必ず」


 健二は冷静に4位を確保。かつての無茶な走りは影を潜め、成長を示していた。


ーーー


 秋の最終戦になり雌雄を決する時が近づいていた。

 秋の空は高く澄み渡り、コスモスが風に揺れていた。

 観客席は何時もの様に保護者でにぎわっていた。今シーズン最後の戦いに、誰もが注目していた。


 「今年の王者が決まる……」

 社長が双眼鏡を構え、隣のチーム監督が息をのむ。


 赤ランプが灯り、消える。

 十数台のマシンが一斉に飛び出した。


 序盤で早くも二人は抜け出す。

 インを奪う瑠生、アウトから抜き返す真昼。

 「やれ! 負けるな!」

 そんな声援が飛んでいた


 残り3周。

 真昼が仕掛ける。アウトから大きな弧を描き、立ち上がりで一気にスピードを乗せた。


 「抜かれる!」

 瑠生は必死にブロック。


 最終ラップの最終コーナーでいつものように二人は並んだ。


 ――ブレーキング勝負。


 瑠生は限界まで我慢し、タイヤが悲鳴を上げた瞬間にブレーキ“スッ”と抜いた。すると一瞬車体が暴れたがそれを避けようとした真昼が普段は絶対にしないハードブレーキをした。しかしそれも一瞬のことですぐに体勢を立て直すと二人とも同時にアクセルを全開。


 ストレート。

 並ぶ二台。


 観客席が総立ちになる。

 「どうだ!? どっちだ!?」


 チェッカーフラッグは


 ピットに戻った瑠生は叫んだ。

 「やったぁ!」


 真一が拳を握りしめ、声を張る。

 「瑠生、王者だ!」


 真昼は悔しそうに唇を噛みながらも、瑠生を真っ直ぐ見つめた。

 「……来年こそ」


 健二は3位でゴール。確実に存在感を高めていた。

 コーチが満足げに頷き、背中を叩く。

 「お前はよくやった」


 表彰式では三人が初めて揃って表彰式に上がった。


ーーー


 表彰式が終わり、家に戻った夜。

 食卓には秋の味覚が並び、瑠生は優勝トロフィーを横に置いて座っていた。


 父・真一が口を開く。

 「瑠生、よく頑張ったな。だが……これからのことも考えないといけない」


 「これから……?」


 母が頷く。

 「進学よ。再来年は中学校に進学でしょ。瑠生の成績からして受験を考えてもいいと思うの。」


 瑠生は箸を止めた。

 脳裏には、真昼と並んで走ったあの瞬間、観客席の歓声、風を切る音が蘇る。


 「僕は……走りたい」


 真一は黙って息を吐き、柔らかく言った。

 「走ることも勉強することも、どちらも大切だ。将来を決めるのは、お前自身だ」


 瑠生は拳を握り、心の中で叫んだ。

 (両方、諦めない……絶対に!)


 秋の夜風がカーテンを揺らし、少年の胸に新たな葛藤を刻んでいった。

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