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  作者: yuyu
第一章 憧れと挑戦

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10話 課題を胸に

 夏休みも終わりもうすでに秋が始まったようで最近の朝は寒くなってきていた。

 しかし、昼間はまだ強い日差しが照りつけるそのなかでも、瑠生はいつものサーキットにいた。今日は特別に「ジュニア練習会」が開かれており、参加者たちは普段より長い走行枠をもらえていた。


 「よし……今日は思いっきり走るぞ!」

 レーシングスーツのチャックを上げ、ヘルメットを抱える。


 テントでは真一がカートの最終チェックをしていた。

 「るい、今日は暑い。アクセルは全開にしてもいいが、開けるタイミングに気をつけろ。ラフに踏みすぎると簡単にリアが流れる」


 「わかった!」


 鈴がテントの下から声をかけてきた。

 「水分はちゃんと取りなさいよ。練習だからって無理しすぎないこと」


 「うん!」

 そう返しながらも、胸は高鳴っていた。


ーーー


 走行準備を終えて外に出ると、すでに健二が自分のカートの前に立っていた。

 「瑠生!」

 健二は笑顔を見せるが、その奥に闘志が宿っている。


 「今日は絶対に負けないからな。前回のフォーミュラで散々だったから……」


 「今日は、大会じゃないんだけどなー」

 瑠生も笑いながら答える。


 ふと視線を向けると、別のピットで真昼が静かに準備を進めていた。父親と二人、無駄のない手際でマシンを整えている。

 「……やっぱり落ち着いてる」

 瑠生は胸の奥に小さな焦りを覚えた。


ーーー


 コースインの合図が出ると、十数台のマシンが一斉にピットを離れた。

 エンジンの音が重なり、熱気を帯びた空気を震わせる。


 瑠生はステアリングを握りしめ、最初のコーナーに向かった。


 ――前回のインストラクターの言葉が脳裏に蘇る。


 (ブレーキは「ギュッ」と踏んで「スッ」と離す。アクセルは、ただ踏み込むんじゃない。タイヤのグリップを感じながら「どの瞬間に」開けるか……!)


 ブレーキを終えた瞬間、アクセルを少しだけ我慢し、出口が見えたところでスッと踏み込む。

 すると、リアが暴れず、マシンがすっと前に進んだ。


 「おおっ……!」

 手応えを感じて胸が高鳴る。


 一方で健二は、相変わらず全開を躊躇わない走りだった。

 「うおおおおっ!」

 出口でもためらわずアクセルを床まで踏み抜く。だがグリップの限界を超えてしまい、リアが大きく流れる。


 「くそっ、またか!」

 スピン寸前でなんとか立て直すが、タイヤを酷使する音が瑠生にまで聞こえていた。


 「健二……すごいけど、危なっかしいな」

 背後から見ていた瑠生は、複雑な気持ちでハンドルを握った。


 その二人を抜くように、真昼のカートが静かに走り抜けた。

 進入から立ち上がりまで一連の流れに淀みがなく、アクセルを開けるタイミングが完璧だった。


 「……やっぱり速い」

 瑠生は悔しさと同時に憧れを覚えた。


 だが同時に気づく。

 (少し余裕を残してる……。まだ全開じゃない)


 真昼は、自分の限界を超える走りをあえて見せていない。瑠生はそのことに気づき、胸の奥が熱くなった。そして、瑠生は真昼が走ったラインをなでるように走って行った。


ーーー


 走行枠が終わり、ピットに戻る。汗を拭きながら、3人は自然と集まった。


 「健二、すごい攻めてたね」

 瑠生が声をかけると、健二は悔しそうに顔を歪めた。

 「攻めても攻めても、出口で前に出られねえんだよ! 全開で踏んでるのに……!」


 「たぶん……踏む強さより、踏むタイミングとブレーキなんだと思う」

 瑠生が小声で呟く。


 そのやり取りを聞いていた真昼が、静かに口を開いた。

 「……無駄に回転を上げても前には進まない。路面とタイヤを感じて、アクセルを完全に開ける瞬間を決める。それだけ」


 「なんだよ、偉そうに!」健二が反発する。


 「でも事実でしょ」

 真昼はさらりと流し、タオルで汗を拭いた。


 火花が散る二人を横目に、瑠生は心の中で強く誓った。

 (僕も負けない……今日の感覚を絶対忘れない!)


ーーー


 帰り際、真一が瑠生に声をかけた。

 「今日は良かったぞ。アクセルを開けるタイミングがだいぶ掴めてきたようだな。最後の方なんて真昼ちゃんと同じくぐらいのタイムだったぞ」


 そう言って瑠生の方にタブレットを差し出してきた。最近は、ノートでも記録を取ってはいる物の反省ノートに変化しはじめデータはタブレットで記録するようになっていた。


 「ほんと!? やった!」


 「でも、まだ我慢しすぎるところもある。もっと自信を持って踏み込め」


 「うん……!」


 秋の夕焼けの下、瑠生の課題はさらに鮮明になった。

 次のレースに向けて、それぞれの走りを胸に刻みながら――。

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