アルヒモリノナカ
突然のゼウス襲来で、この星の管理神に任じられた俺は、ゼウスに承諾を得て当初の予定通りの行動をとる事にした。建前は『この世界を知り、ゼウスを楽しませる為』、本音は自分が楽しむ為。
俺はこの世界を、異世界生活を楽しむ為に朝まで休む事にした。
~翌朝~
神になれば睡眠なんて必要無いと思っていたけど、ぐっすり眠れました。下は超硬かったけど・・・。今更ながらベッドを創造すれば良かったな、なんて思うが後の祭りだ。町に行けば宿泊施設があるだろう。
身支度を整え、腰に破壊剣デストロイヤーを提げた俺は、一晩お世話になった《始まりの神殿》に「お世話になりました」と言って深々と頭を下げ、感謝を伝えてから深淵の森へと踏み出した。
武器を腰に提げたのは良かったのだが、この《破壊剣デストロイヤー》の見た目がえぐい。名は破壊剣なのだが、見た目がちょっと想像の上を行っている。禍々しいと言うか、慣れ親しんだと言うか、まぁ表現する言葉は色々あると思うが、一番適した言葉は『どうしてこうなった』ではないだろうか。
見た目がね・・・《バール》なんです。工事現場で良く見るあれです、L型のあれなんです。梃子の原理を最大限に活かす事の出来る洗練された設計。極限まで無駄を削って実用性のみを追求したデザイン。幾多の修羅場(現場)をくぐっても決して曲がる事のない強度。そんなあれが《破壊剣デストロイヤー》なのだ。
念の為鑑定しておく。【破壊剣デストロイヤー・破壊に特化した剣w。デストロイヤーにかかれば、物理的に破壊出来ない物はない。鈍器に見えるが、魔力を流せばあらゆる物を切断可能。そして強度は最強クラス。攻守共にトップクラスの神器。不壊・不汚の効果が付与されており、使用者は剣聖のスキルを獲得出来る】・・・・・・うん、見た目はともかくチートアイテムだ。使わせて貰おう。『w』が気になるが・・・。
気を取り直した俺は、深淵の森を進んで行く。
深淵の森の中は、地球では見る事が出来ないような大きさの木々が生い茂っていた。緑だけではなく、赤や黄色の葉を着けた木もあった。そして金色の葉が生えている大樹が一本だけだがあった。
気になった俺は金色の葉を鑑定してみた。【ユグドラシルの葉・エリクシールの素材。単体でもケガの治療・体力と魔力の回復・部位の欠損治療の効果がある。エリクシールにすると蘇生の効果もあり】と出て来た。とんでもないチートアイテムだ。目測で数千枚生えている葉を100枚くらいいただく事にした。
ユグドラシルの樹に「私はハカイシン。葉を分けていただきます」と伝え、感謝の祈りを捧げてから葉を摘ませて貰った。するとユグドラシルが光り出し、大きな枝がゆっくりと舞降りてきた。その枝を手に取ると頭の中に声が聞こえてきた。
『新たなる神、ハカイシン様に私の枝を捧げます。もし葉が必要になったら枝に魔力を流してください。そうすればその枝に葉が生い茂るでしょう。この世界をよろしくお願いいたします』
そうユグドラシルからのメッセージと枝を受け取ると光が収まった。俺は再び感謝を伝える為に深く頭を下げると、ユグドラシルの葉と枝をアイテムボックスに収納し歩き始めた。
ユグドラシルを離れて森の中を歩いていると、流石に異世界だと感じる物との出会いが多数あった。地球では創作物や漫画、アニメやゲームの中でしか出て来ないような魔物を多数見かけた。しかも漏れなく向かって来たのだ。
日本に居た頃は戦いとは無縁の生活を送っていた俺に戦う術なんてなかった。はずなのだが、転生特典?神様補正?何かわからないが、意外と戦えた。
ゼウスに貰った破壊剣デストロイヤーの攻撃力がとんでもなく高く、腰から抜いて構えたら剣に導かれるように身体が動いて、向かって来る魔物を斬り捨てる事が出来たのだ。
全身が緑色のドラゴンと遭遇した時なんて、ドラゴンが向かって来る前に首を斬り落とす事が出来てしまったのだ。因みに倒した魔物は全てアイテムボックスに収納してある。
どれくらいの距離を歩いただろう。時間にして1時間くらい歩き続けた頃、前方に薄汚れた小さな白い塊が見えて来た。所々赤く濡れている。普段なら気にも留めないのだが、妙に気を引かれた俺は、その白い塊に駆け寄った。
その塊は生物のようだ。蹲っていて顔が見えないが、ケガをして弱っているように見える。困った時は鑑定先生だ。
【神獣フェンリル・神獣フェンリルの成体。天を落とし地を割る事の出来ると言われた神獣。深淵の森の奥深くに生息しており、現世に生きる者は誰も見た事がない最強にして伝説の存在。過去に別個体が国を一つ滅ぼした事がある。状態:瀕死】
伝説の神獣フェンリルとな・・・フェンリルって確か大きな狼だったような・・・。それよりも治療が先だ!ユグドラシルに摘ませて貰った葉をアイテムボックスから取り出し、瀕死のフェンリルに握り潰して葉から出た雫を落とす。雫がフェンリルに触れた瞬間、フェンリルの全身が光出し暫くすると光が収まった。
光が収まるとゆっくりと首を上げ、上体を起こして俺の方にゆっくり振り向いて来た。人生初フェンリルだ。やはり漫画やアニメに出て来る凛々しい顔をしてるんだろう・・・そう思っていたのだが、振り向いたその顔は・・・
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地球では映画や漫画に登場して活躍し、好きな人には刺さりまくる存在の《パグ》だった。どこからどう見ても、何度見返してもパグだった。不安になって鑑定をかけると【神獣フェンリル】と出て来る。
いやいやいや・・・。どこから見てもパグでしょ!ほら鼻が『ブーブー』って鳴ってるし。しかも首を傾げてこっち見てるし。いやいやパグでしょ!それでも鑑定先生は神獣フェンリルと言い張って来る。
まぁ助かって何よりだ。寄り道をしてしまったが、先を急ぐ俺はパ…いやフェンリルの頭を一度撫でて「もうケガするなよ」って別れを告げてから、森を抜ける為に歩き出した。
瀕死のパ…いやフェンリルを助けて、森の外に向かって歩き出した俺は、暫くしてまたしても異世界に来た事を実感する出来事に遭遇した。日本基準で言うところの路線バスくらいの大きさの猪と遭遇したのだ。しかも目が合った瞬間『フンゴッフンゴッ』言いながら地面を足で蹴り始めた。
開戦の合図だ。俺はデストロイヤーを腰から抜き、剣を構えて猪の出方を待った。
時は満ちたようだ。猪は一度後ろ足を曲げ、重心をぐっと下げると俺に向かって飛び掛かって来た。飛び掛かって来た勢いを使って斬り伏せようと、剣を握り直してその瞬間が来るのを待った。
飛び掛かって来る猪の動きがスローモーションのように見えてくる。剣を極めた者のみ見る事が許された景色はこのような景色なんだろうな。そう思っていると・・・。
猪が白銀の輝きを放つ塊に吹き飛ばされた。吹き飛ばされた猪は轟音を轟かせながら森の大樹に衝突して、地面に落下した。
いくら剣を極めた者でも、剣を構えたまま猪を攻撃す事は出来ない。恐る恐る、吹き飛ばされた猪の元に向かってみると・・・猪は絶命したようだ。ピクピク痙攣している。鑑定でも【アビスボア・深淵の森にのみ生息する超大型の猪。非常に美味。焼いて良し、煮て良し、ただし生食は厳禁。捨てる所はありません。状態:脂肪…死亡】と出ている。
そして周囲を見渡してみると・・・居たんです。先ほど助けたパ…フェンリルが。そして舌を出しながら褒めて欲しそうに俺を見ている。もちろん尻尾は爆速で左右に振られていたが、尻尾が短いが為にピコピコ揺れているようにしか見えないのは、ここだけの話にしておこう。
フェン…リルに近寄った俺は両手で頬を包むように、わしゃわしゃと撫でて差し上げた。気持ちよくなって来たようで、ひっくり返ってお腹を見せて来た。これは撫でろって事だろうと判断し、「助かったよ。ありがとう」と言いながら、お腹もわしゃわしゃ撫でて差し上げた。その時、鼻から聞こえる『ブー』だけでなく、お腹から『グ~~』って音も聞こえて来た。
お腹が空いているようだったので、アイテムボックスからお弁当を取り出し、フタを外して「ゴハン食べる?」って聞いてみた。そしたら『ブブブブブブブッ!』っと鼻が鳴って、尻尾を振る速さが音速を超えたように見えた。その仕草を見て、ゴハンが欲しいと判断した俺は、弁当を地面に置き「どうぞ」と言ってやった。
美味しそうに弁当を食べているフェンリルを横目に、路線バスサイズの巨大猪アビスボアを収納してから、フェンリルの食事が終わるのを待っていた。
~ユグドラシル~
私はユグドラシル。この世界に魔力を供給する為に創造神に創られた神木です。新たな神、ハカイシン様の気配を感じて意識を向けてみると、非常に丁寧な方でした。私の葉を摘み取る際も、今までここまで辿り着けた方、確か自称勇者様だったと思いますが、その勇者様(自称)は乱暴にむしり取っていたのに、ハカイシン様は頭を下げられたばかりか、丁寧に祈りまで捧げてくださいました。
そこまで礼節を尽くされたら私も大判振る舞いです。本来ならお一方1枚しか摘む事の出来ない葉を、お好きなだけ摘んでいただきました。更に私の枝も差し上げる事にしたのです。
過去、ユグドラシルの枝は、森の民と言われているエルフ族に一度だけ細く短い物を差し上げただけでした。それも葉を生やす事は出来ない物です。
しかし、ハカイシン様に差し上げたのは、私の分身と言っても差支えのない枝でした。これからこの星を管理していく上で必要になる事もあるでしょう。
何よりもハカイシン様のお人柄に惚れたのです。出来る事ならハカイシン様の旅路にご同行したいものです。