ショウゲキテキナ
俺の名前は破戒 臣34歳。
普通高校を卒業後に就職難の中、なんとか入社出来た会社で働いている。仕事の内容は日々数字と社長の罵声に追われる、しがない建築系の営業マンだ。
事業内容は『揺り籠から墓場まで』ではないが、建てるところから壊すところまで、全てを賄う事業を行っており、入社直後は仕事を知る為に現場へと配属され、職人として数年間勤務させられた。
そして仕事を覚えると、適正にあった部署か欠員の出た部署へと配属される。たまたま欠員の出ていた当社一番の不人気部署(※当社調べ)の営業部へと配属された。
ハラスメントって何ですか?それって美味しいんですか?・・・労働基準法?新しい祝日の事ですか?などと思いつつも、いつもと同じ代り映えの無い刺激的な仕事を終え、時計を見ると21時を過ぎていた。そう・・・日本の国技となりつつある、所謂残業ってやつだ。
平均年収を下回る給料で生活している為、自炊は欠かせないのだが、21時を回って退勤ともなると流石に自炊は面倒になる。「今日くらい手抜きしてもいいか・・・」誰に聞かせる訳でもない言い訳をしながら、コンビニで夕食の買い物をした。
食事をしながら動画サイトの動画を見て、食後は一杯やりながらネット小説を読む。サブカル大好きな俺はオフの時間を楽しみたいのだが、今日は時間が遅いので難しいかもしれない。そう考えつつ買い物を進めていった。
お気に入りのコンビニ弁当、お気に入りのカップラーメン、新作のスイーツとお菓子、水とコーヒーと黒い炭酸飲料、安物のウイスキーにビール、切らしていた調味料数種、そして生命の源タバコを買った。
コンビニの怖いところは、必要以上に買い物をしてしまうところだ。節約の為に自炊を心掛け、浮いたお金を一瞬で溶かしてしまう。
そんな矛盾だらけの買い物を終え店から出ようとした時、目の間に車のライトが見えた。そう・・・世にも有名な○○○○ミサイルだ。
まさか自分が遭遇するとは思ってもみなかったのだが、ワイドショーを賑わしている『よく日本海に墜ちるミサイル』と『よく建物に突っ込むミサイル』の、ミサイル2台巨頭の片側にまさか自分が遭遇するとは・・・。
迫り来る車のライトに視界を埋め尽くされ、光に包まれながら俺の意識は途切れる。
はずだったのだが、コンビニで買い物をした袋を持って見ず知らずの明るい浜辺に立っていた。
そんなはずはない。買い物に立ち寄ったコンビニは、国道沿いにある自然とはかけ離れた場所にあった。しかも22時が近い暗い夜の時間帯だった。
左手首に着けている愛用の腕時計を見るも、【21:55】と表示されている。
現実を理解出来ないまま立っていると、俺の目の前に全身真っ白の服装で、大きな白い羽の生えた男性が現れた。
「破戒君。残念ながら君は亡くなってしまったよ。いや~凄いね~。平和の国と言われた日本でミサイルに直撃されて亡くなるなんて・・・ぷぷっ・・・まぁミサイルはミサイルでも○○○○ミサイルなんだけどねww。運が悪いのか、はたまたとんでもない幸運なのかわからないね。まぁ亡くなってしまったのは過ぎた事だから仕方がない事だけど、死者の書では君の死は予定外だったから、君には選択肢をあげるよ」
「○○○○ミサイルに遭遇して、ライトが目の前に迫ったと思ったら、次の瞬間砂浜に立っていて、自分の置かれている状況の理解が出来ていません。理解が出来ていないのに選択肢と言われても、混乱するのですが・・・それと、失礼ですが何方様でしょうか?」
俺は目の前に現れた白い男性にそう答えた。サブカルが好きな俺は正直次の展開が予想出来ている。
白い男性に言われるがまま異世界に転生するのか、ここで魂の死を迎えるのか、最近流行りの異世界小説での流れ通りならこの選択肢が与えられるのは間違いない。そして次の言葉を待った。
「ごめんごめん、自己紹介がまだだったね。僕の名前は・・・神格の無い君には教えられないね。だけど神の中では最高位である事だけは教えといてあげるよ。君には地球と違う世界に行って貰う。魔王を倒せとか、世界を救えとか面倒な事は言わないから安心して欲しい。たまに上から見ているから僕を楽しませてくれたらいいかな。これが一つ目の選択肢。
もう一つは、輪廻転生の環に入って数万年後か数億年後か、いつになるのかは順番次第だからわからないけど、地球で転生をするか。これは転生を迎えるまでは無の世界でひたすら待たないといけないよ。しかも何に転生するのかは運次第だからね。さぁ、どうする?」
出された選択肢は異世界に転生か、遥か未来の地球に転生するのか、この二つだった。異世界を選んで異世界に行けば普通に暮らせそうだが、転生を選んだらいつになるかわからない転生を待たなければいけにようだ。転生できたとしても数万年から数億年後に、人類が存在しているのかも定かではない。
とすれば、答えは一択だろう。
「異世界に行かせていただきます。異世界でお願いします」
俺は異世界を選んで、神にそう伝えた。予想通りの流れであればこの後、チート盛盛祭が始まるはず。
どれだけ優れた能力を得る事が出来るのかは、チート盛盛祭に掛かっている。
「オッケ~。理解が早くて助かるよ~。まぁ普通に考えたら、遥か未来に何に転生出来るのかわからない転生を待つよりも、異世界に行って生活した方がいいもんね。それじゃ~行く世界の説明をするよ」
これから俺が向かう世界は、よくある異世界物と同じ中世程度の文明で、魔法が存在し魔物も存在しているファンタジックな世界らしい。しかも色々な種族が居るらしく、主な種族はヒューマン・エルフ・ドワーフ・獣人・竜人・魔人、他にも少数の種族が居るとの事だ。
星の大きさは地球と同程度だが、半分以上が未開の地で、力が物を言う『生命の軽い』世界らしい。各種族が固まり国家を形成しているが、種族間での差別や紛争は起きていない。
「ざっと説明したけど理解は出来たかな?破戒君の国では『異世界に行くならチート』みたいな感じらしいけど、そんな時間はないから、僕から加護と特別な能力を一つ付けといてあげるね。能力の名前は『名は体を表す』。むこうに着いたら『ステータス』って念じて内容の確認してね。それじゃ、いってらっしゃーいwwwww」
その言葉を最後に再び視界が切り替わった。