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本日二話目(完結)です。


 潮風に当たり続けて髪は艶を失い、肌は荒れている。

 離島に送られてしばらくは不運を嘆き、なんでも自分でしなければいけないことに不満を感じ、貧しい環境に放り込まれたことを呪った。

 小さな修道院は在籍者も少なく、皆訳有りの身であることも察せられた。私が自分の身に起きた不幸を訴えても、反応が芳しくない。

 「…結局は自分のしたことで、ここに来る破目になったってことだろう?冤罪でもないのにどうして悲劇の主人公みたいに振る舞ってるんだい?あたしは二十年以上島から出てないから外の事情はなんにも知らないし、あんたの言ったことが本当かどうかもわからないけど」

 「本当に決まっているでしょう!」

 「だとしても、聞いた限りじゃ王子様と平民の子が実際に浮気してたかどうかも怪しいじゃないか。むしろそっちの方が冤罪だったかもしれないよ」

 「何も知らないのに、勝手なことを言わないで!」

 「何も知らない相手に、勝手なことを聞かせないでおくれよ」

 うんざりしたように言われ、いい加減に聞き流されているうちに私は身の上話をすることを止めた。

 神に祈り、畑の作業や手仕事をさせられる単調な毎日。考えるのは過去のことばかりだ。起こったことと自分のしたことを何度も思い返し、徐々に冷静になってきたのかこれまでと違う視点から記憶を辿るようになっていた。

 …確かに、パーヴェル様がラリサに心を寄せていたという決定的な証拠はなかった。

 私は勘違いで、国が将来を期待していたラリサを虐げていたんだろうか。

 それならばこの結果は自業自得だ。信じたくはなかったが、ここで残りの生涯を過ごすことが決定した今は不当だと全てを恨んで暮らすより、正当な罰だと思う方が心静かに生きられるだろう。

 いくつかの季節を島で迎えるうち、私はこの生活を諦念とともに受け入れた。

 

 どれほど時が過ぎても、ふいに過去の出来事を夢に見ることがある。家族とのなんでもない日常が出てきた時は起きてから泣いた。私を思って応援してくれた父と母と兄に、迷惑をかけてしまったことは悔やんでも悔やみ切れない。

 …エフィム王のように、時を遡ってやり直すことができたら。

 そんな夢のような空想をしてみる。思い込みが激しく脇が甘いところのある私のことだから、やり直しても結局失敗したかもしれない。ここにきて客観的に自分の評価を下せるようになっていた私は、そんな風に考えて自嘲気味に笑った。

 そしてなぜか、あんなに好きだったパーヴェル様よりも多く夢に現れる人がいた。

 侯爵令嬢のアドリアーナ様とは社交の場で話すことはあったし、学院でも優しく声をかけていただいた。けれど夢の中ではそれ以上に親しく、お互いの部屋に招きあってお茶を飲みながらお喋りをしたり、学院で一緒に行動したりと実際には起こらなかった出来事が頻繁に出てくるのだ。

 まるで仲の良い友人だったかのような錯覚をおぼえ、現在のアドリアーナ様はどうしているかを考えるようになっていた。レオニート様と結婚されて公爵夫人の役目を立派に果たされているだろうか。まさか私が婚約を解消されたことで、王家から要請されてパーヴェル様と婚約を結び直されていないだろうか。

 島に外の情報は入ってこない。わざと遮断しているのだろうが、定期的に生活用品を届けに来ては修道院で作っているささやかな手工芸品と引き換え、去っていく小さな船だけが下界との繋がりなのだ。

 その船に時々、修道院への寄付や寄贈品が積まれて来ることがある。贈り主を知らされることはないが、たまに届くチョコレートの焼き菓子は材料も上質で技術も高いのでどこかの貴族からだと思う。私の好みにとても合っているので密かに楽しみにしている。

 その菓子を食べながらアドリアーナ様とお話する夢を見た日、礼拝の時間に私は祈った。

 ──アドリアーナ様が今どのような道を歩まれていても、どうか幸せでありますように。

読んでいただき、どうもありがとうございました!

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