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異世界ウラカタ~女神に「ここで働かせてください」と土下座したらあらゆる異世界系主人公を陰ながらフォローする裏方になりました~

作者: 翠川ヤサメ

 俺、原雲祥佑二十歳はパチ屋の仕事帰り、トラックに撥ねられて死んだ。

 死んだってわかるのは、俺にまだ意識があって、その話を聞かされたからだ。


 目の前の自称神に。


「自称だなんて酷いゾ☆ 今がもう非現実的な状況なんだからサ。そろそろ信じなヨ」

「だから勝手に心を読むんじゃねぇ」


 何もない白い空間、そこいる宙に浮いた女。

 確かにこの状況は現実離れしているし、こいつが神だというのも嘘ではないのだろう。


 ただ、目的がわからん。


「だって説明する前に拒絶するんだモンッ……ぷんぷんだゾ」

「気持ち悪ぃな。いいから話せよ」

「仕方ないナァ」


 そりゃ、いつの間にか知らない場所にいて、お前は死んだって言われたんだ。警戒しない方がどうかしている。


 この自称神も神で、真っ白で足元まで伸びた髪とか、蒼い瞳とか、小柄だが外見だけは魅力的で俺の好みなのに。口を開いたらこれだ。酷いおっさん臭がしやがる。


「なんト! ワタシの見た目が好みですト? うい、ういういぃ」

「やめ、近づくなっ、ちょ、離れろ!」


 いきなり抱き着いてきやがった。

 ちょっといい匂い……って変なこと考えんな。


「脇の匂いでも嗅ぎたいのカナ?」

「嗅がねぇよ! いいから説明をしてくれ!」

「もう、わかったヨ」


 中身が残念過ぎるぞ、この神。

 俺から一歩距離を置く神は悲しそうな表情から一転、真面目な顔でこちらを見てきた。


「じゃ、改めテ。ワタシは審判の神ポコロン。あ、イントネーションはポコ〇ンと一緒だヨ」

「うるえぇよ! てか、そのイントネーションならポケ〇ンでいいだろ! どっちにしろ伏字(ピー音)が必須だけどな!」

「よく喋るネ」

「引くなよ……お前のせいだろうが」


 どうして死んでまでツッコミなんてしなくちゃならない。

 というか引くならツッコミ前提のボケをするな。


「そういうことにしておくヨ」

「……」


 もうつっこまない。つっこんでたまるか。

 自称神ポコロンは俺の反応を見て「ぷくく」と笑いながら続ける。

 ようやく本題に入ってくれるらしい。


「ワタシの役目はネ、寿命が来る前に不幸な事故で亡くなった人をサ、異世界に送って夢をかなえてあげることなんダ」

「夢だ?」

「ウン。キミってアニメとかラノベって読むのカナ」

「ま、まあ、人並みには」


 実をいうと結構好きで家にいる時は大体アニメかラノベを読んでいた。


 今の時代、別に恥ずかしがるような趣味ではない。ただ、元々少しやんちゃしていたってこともあってあまり公にはしてこなかったのだ。


「ウンウン。あるよネ。周囲の反応を気にして好きなものを好きと言えないことっテ。わかるヨ」


 また心を読みやがった。

 内心を何もかも読まれるって本当に不愉快だ。同時にこいつが本当に神なんだという証明でもあるが。


 ともかく、こいつに同情されたってなにも嬉しくない。


「で、それがどうした?」

「いやサ、ああいうのにはジャンルとして異世界ものってのがあるじゃナイ?」

「ああ、異世界召喚だの異世界転移だの流行ってるな――て、まさか」


 こいつ、俺を異世界に送り込むつもりか?

 それが創作の話ではなく、現に俺の身に起きているって?


「まあそういうことだネ。あの手の作品っテ、大抵主人公の周りには可愛い女の子がいるハーレムだったリ、そうじゃなくても最終的には己の欲望を叶えているんだヨ」

「それがお前の仕業だって? 創作の話だろ」

「人がこれまでに妄想してきた数多の死後の世界に、一つくらい正解があってもおかしくないサ」


 天国、地獄。輪廻転生。三途の川。国や宗教、個人の妄想、様々な『死後の世界』が現世にはあった。


 そんな数ある『死後の世界』の正解が異世界転生やら異世界召喚だと、こいつは言っているらしい。馬鹿げていると笑い飛ばせばそれまでだが、信じる要素は今俺がこいつと話していることだけで十分だ。


 まじかよ。


「ウン、マジマジ」

「で? 俺にその夢を言えと?」

「ソユコト! なんでもいいんだヨ? 好きなゲームがあればそのゲームの世界で好きなキャラクターに転生させてあげるシ、ほのぼの、チートで無双、成り上がり、ざまぁ、もう遅い、どんなシチュエーションでも叶えてあげるヨ」


 それは……確かに夢のような話ではある。


 俺は元の世界じゃクズだった。碌に勉強もせず遊び惚けた中学、高校時代。働きたくないからと親の金で進学したFラン大学でもパチ屋に入り浸り、一応就職はしたけれど借金地獄で親に面倒を掛ける始末。


 そんな俺が望む人生を歩むことができる?


「それは……」


 どうなんだ?

 そもそも俺は自分がしたいように自由に、身勝手に生きてきた。

 その結果がクズみたいな親不孝者の俺だ。


「別に現世の生活なんて気にしなくていいんだヨ? キミは本来まだ生きるはずで、その人生を理不尽に終わらせられたんダ。夢を見たっていいじゃナイ」

「たしかに、そうかもな」


 死んだ後くらい、夢を見てもいい。

 俺が自分の現世をどう思おうと、この神が夢を叶えるというのならそれでいいじゃないか。


「でも、やっぱり俺はいいや。充分自由に過ごさせてもらったし、最後くらい理不尽な方がいいんだよ」


 やっぱり俺が幸せになるべきではないと思うから。

 好き勝手生きてきた報いを大人しく受けよう。


 異世界に行ったところでどうせ俺の性根は変わらないだろうし。

 俺の答えに、ポコロンは子供のように駄々をこね始めた。


「……ヤダヤダヤダ! どうしてこんなメリットしかない話を断るのサ! わけわかんないヨ!」

「そう言われてもな……てか、断ったら俺は消えてなくなるのか?」

「……ぃヨ」

「あ?」

「なくなんないヨ! ワタシが掬い上げた時点でキミは異世界に行くか、ここにいるかしか道はないんだヨ!」


 え、じゃあ何か? 俺はこのまますんなり死ぬことはできないってのか?


「そうサ! ああもう最悪だヨ……掬った魂は必ず幸せにしなくちゃ天使に降格しちゃうヨヨヨヨ」


 神の世界ってそんな一般企業みたいな仕組みなんかい。

 涙を流す姿を前に若干申し訳なさを感じる。


「ヨヨ?」


 けど、俺の結論は変わらない。


「ヨヨヨヨォォ!」


 勝手に心読んで勝手に期待したお前が悪い。


 しかし、異世界に行くかここにいるかしか選択肢はないのか。こいつが勝手なことをしてくれたばっかりに死して尚死にきれないとは……これも罰か。


 ならばどうする? この状況に甘えて異世界に行くか、ここに残るか。


 ……異世界には行きたくない。俺の欲望か叶うのなら、きっとこれまでと変わらないから。

 ……ここに残る。ここで何か俺に出来ることがあるのなら、それはありだ。


 これまで自堕落な生活を送ってきた分、働いてこれまでの恩を返したい。それが神に対するものであっても、これが俺の贖罪になるのなら――


「なら、俺をここで働かせてくれ!」

「…………へ?」


 ため口じゃダメか。


「ここで働かせてください!」

「い、イヤイヤ。おかしいヨ。何を言っているのサ」


 これでもダメか。なら、土下座で頼み込んでやる。

 両膝を地面? なのかわからんが立っている場所に付き、頭を打ちつけて。


「ここで働かせてください!」

「そ、そんなこと言われてもネ……前例がないシ」

「前例ならあるぞ」


 不意に、高い男の声が聞こえてきた。

 打ち付けた頭を上げ、声のする方向に顔を向ける。


「レンチン兄さん」

「レンチン……?」

「レンチだ。その呼び方やめろって言っているだろポコロン」


 そう言って頭を掻くのはポコロンに似た白い髪を肩まで伸ばした、中性的な顔つきの青年だ。兄さんというからには兄妹なのだろうが、なるほど確かにどことなく雰囲気は似ている。


 ポコロンと違って真面目そうな印象を受けるが。


「前例があるって、どういうコト? レンチン兄さん」

「……はぁ。とりあえずついてこい」


 この人も苦労していそうだ。

 ともかく、俺とポコロンはレンチの後を追って何もない空間を進んでいった。


 こんな白くて何もない空間を進んでいると、自分が本当に前に進んでいるのか、どれくらいの時間が過ぎたのか。そういったあらゆる感覚がマヒしてくる。


「人間には退屈な場所だろ。ま、もう少しの辛抱だ」

「ほんと、退屈すぎて頭おかしくなりそうだわ」


 どれくらいの時間が経っただろうか。


「ここだ」


 わからないが、不意に前を歩くレンチが立ち止まった。

 言われて顔を上げると、そこには黒い扉があった。


 建物はない。扉だけがそこにある。ピンク色じゃなくてよかった。


「行くぞ」


 レンチは微塵も躊躇せず、そのどこでも――じゃない、黒い扉を開いて進んでいく。

 ポコロンもその状況に疑問を抱いておらず付いていった。


 俺も立ち止まっているわけにもいかない。

 続いて足を踏み入れると、ひとりでに扉が閉じだ。少しビビッて肩を震わせる。


「意外とビビりなのカナ?」

「うるせ」


 もはやこいつには内心が筒抜けだから誤魔化すのは無駄だろう。

 適当に顔を背けてやり過ごす。


 扉の中は普通の家のようでログハウスのような作りになっていた。久々に白以外の色が目に入ったので視界がチカチカする。


 幾度か目を擦ったり大げさに瞬きをしていると


「お帰りなさいませレンチ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そんな女性の大声が耳を劈いた。


「うるさい。離れろルーラン」


 見てみると、金髪のお姉さんがレンチに抱き着こうと迫っていることが分かった。

 そんな彼女の頭を鷲掴みにし、距離を保つレンチ。


「スーハ―ス―ハ―うぶぶ……レンチ様のいい匂いがしますぅ」


 うわ……この人見た目は清楚なのに相当な変態さんだわ。

 鼻を広げてレンチの手首の匂いを嗅いで興奮している。


「気持ち悪い」

「うぶっ」


 レンチは鷲掴みにしたままの頭部を勢いよく地面に叩きつけた。


「そ、それはやりすぎじゃ」


 確かに度が過ぎた変態なのは間違いなさそうだが、女性相手にそこまでの暴力はちょっと。


「問題ない。こいつもお前と同じ死者だし。それと、君の世界には男女平等パンチってのがあるだろ? それだ。だから気にするな」

「それはあくまでも創作の話なんだけど」


 現実にそんなことする奴は日常的にはいないはずだ。元ネタは創作だったはずだし。


「ワタクシは大丈夫ですわ。寧ろご褒美です」

「いやでも、鼻血……」

「おっと、これは失敬しましたわ」


 何事もなかったかのように笑顔で立ち上がる女性。ルーランだったか。


 彼女の鼻からは赤黒い血が流れだしていた。俺の指摘を受け、ハンカチで血を拭っている。

 てか、死後の世界で怪我とかあるのかよ。


「ワタシも、生で血を見るのは初めてですヨ……ウウ……クラクラしまス」

「ちょ、大丈夫かよ」


 血の気が引いたのか、態勢を崩すポコロンの背を支えた。


「ポコロンはまだ新米だから知らないのも無理ない」


 本当に新米だったのか。


「簡単に説明すると『ここに残る』という選択は『ここというお前にとっての異世界への転生若しくは召喚』という形で処理される。だから実体があるし死も存在する」

「なる……ほど」


 確かにこの場所は間違いなく俺にとっての異世界だ。

 というか、俺って今どうなっているんだ?


「キミにはまだ実体はないヨ……神であるワタシ達には触れられるケド、例えば彼女なんかには触れられないんじゃないカナ」

「握手でもしてみます?」


 ポコロンの話を受け、ルーランが手を差し出してきた。


「ああ……ほんとだ」


 差し出された手を握ろうと手を伸ばすも、その手は彼女の手をすり抜けた。


「で、本題だ。前例というのはもちろんルーラン達のことだけど、彼女達にはここを拠点にとある仕事をしてもらってる」


 呆然と立ち尽くす俺に対し、話を切り出すレンチ。

 ポコロンも落ち着いたのか礼を言って俺から離れ、レンチに向き直る。


「ルーラン以外の奴らは今その仕事に出ていてしばらく帰らない」

「時間がかかる仕事なんだな」

「そうだ。一仕事辺り短ければ数か月、長ければ数年と言ったところだな」

「どんな仕事だよ」


 ここが本部だとして出張先に出たら数か月か数年は帰れない。

 もはや転勤だ。


「仕事内容は『異世界転生、召喚された主人公が思い描く結末に辿り着く道を補佐をする裏方』だ。そいつらがいることで転生者や転移者は夢を叶えることができる」

「え、レンチン兄さん、ワタシ初耳ですヨ!」

「言ってなかったからね。今は魂の選定とその魂に合った異世界選定を学ぶべき時期だったし」

 

 要は異世界に行ったからと言って勝手に幸せになるわけではない。ということだろうか。

 ちょっとまだ想像できないな。


 項垂れるポコロンを他所に、レンチが俺の前にやってきた。


「つまり、だ。『ここに残る』という選択をした場合、お前にはここで働いてもらうことになる。人の幸せのためにその身を削るということだが、それでもここで働きたいと思うか?」


 まだ具体的に何をするのかは理解できていない。

 それでも、人の幸せのために働けて、それが贖罪になるというのなら。


「ああ、思うよ。改めていう。俺をここで働かせてくれ」

「……わかった。では、お前を――いや、ショウスケをここ『異世界ウラカタ』で雇う」


 レンチがそう言った直後、俺の体が淡い光に包まれる。


「……ハレ?」


 ん? あれ? 俺だけじゃないわ。

 ポコロンの体も俺と同じように光っている。なんで?


「ポコロンも魂の選定ミスの罰として、しばらく実体を持って働いてもらう」

「なんでそうなるノ!?」


 光が体の中央に集約し、弾けた。

 なんとなく、感覚が先ほどよりも鋭くなっているような気がする。


「改めて、よろしくお願いしますわ。ショウスケ」

「よ、よろしく」


 不意にルーランから差し出された手を握り返と、今度はすり抜けることなくしっかりと彼女の細い指を感じることができた。


 そこまで大きな実感はないが、どうやら実体が戻ったらしい。


「ヨヨヨ……ヨヨヨヨヨ」


 隣で座りこんで泣いている神も含めて。


「じゃあ、後は頼んだルーラン」

「承知しましたわ」


 レンチを最後にそう言うと、元来た扉をくぐって姿を消してしまった。

 このログハウスに残ったのは俺とルーラン、そしてポコロンだ。


「さて、ここでうずうずしていてもなんですし。早速仕事をしましょうか。詳しい自己紹介やお話は道中にでもいたしましょう」

「そうだな……]


 行くのは構わないが、隣のこの神どうすんだ。


「さ、こちらですわ」


 ルーランは気にせず入ってきた扉に向かっていった。


「おいポコロン行くぞ」

「イントネーションが違いますヨ……正しくはポコチ――」

「もういいから! そのネタ二度目だから!」

「ヨヨヨ」


 しょぼくれるポコロンの腕を掴み、強引に引きずっていく。

 腕は細くて掴みやすく、体重も軽くて簡単に引きずることができた。


「こんな状況で口説かれても困りまス」

「口説いてねぇよ!?」


 こいつに構うと疲れる。

 俺は首を振って意識を切り替え、ルーランの後を追った。


「は?」


 扉をくぐると、そこは知らない場所だった。来た時に通った白い空間ではなく、見覚えのない森の中に出たのだ。


 まさかあの扉、ガチでどこでも行ける青狸アイテムだったのか?


「ここが今回の仕事場である異世界ですわ」

「異世界……あんまそんな感じしないな」

「ですわね」


 森の中なんて現世も異世界も同じか。魔物でもいるのだろうか。


「ぎゃああ! 魔物! 魔物ですヨ! 怖いデスゥ!」

「ちょ、抱き着くな」


 突然大声をあげて抱き着いてくるポコロン。

 鬱陶しく引き剝がそうとしたが、その前に信じられないものを目にして固まってしまう。

 だってそこには、ゲームやアニメでしか見たことがないスライムがいたから。


 スライムイコール雑魚敵。そういう認識があるから恐怖はあまりない。が、創作の中でしかなかったファンタジーな存在をいざ目の前にすると動揺する。


「大丈夫ですわ。スライムはスライムが転生者でない場合を除いて、基本は雑魚敵ですので」

「そ、そうか……だよな」


 目の前のスライムが認識通りだと知って追いついた。

 少しして、スライムは俺たちの傍を離れていく。


「そろそろ離れてくれ」

「ウウ……上から見るのと生で見るとではグロさが違いますネ」


 そう言いながらようやく一人で立ってくれるポコロン。

 なんか言い方の表現があれだが、気にしないようにしよう。


「で、これからどうするんだ?」

「そうですわね……とりあえずこの世界の転生者、主人公を殺しますわ」

「はい?」


 聞き間違いか? 主人公を殺すって、俺たちの仕事はそいつを助けるんだよな?


「この世界の主人公はアンデッドになって可愛いヒロインのネクロマンサーに召喚されることを望んでおりましたので」

「なにそのエムっ気を感じる望み」

「さあ、ただ天界でレンチ様にそれを望んだのは間違いないですわ。まあ、今の彼は天界での記憶を持っていませんけど」


 にしてもネクロマンサーに使役されることを望むとか、間違いなくそいつはエムだ。

 せっかく夢を叶えるために異世界に来たってのに望んで死ぬとか頭おかしいだろ。

 しかも記憶がないとか、自分が望んだとも知らずに死ぬわけだ。


「そういう人もいますヨ。ワタシが一番驚いたのはゲーム世界のモブに転生してメインキャラクターに関与せず、生で主人公たちの物語を見たいってやつでしタ」

「へぇ……変わったやつもいるもんだな」

「しっ」


 突然、ルーランが唇の前に人差し指を立てた。

 意図を汲み取って俺とポコロンも口を閉じる。


「主人公が来ましたわ」


 ルーランの小声に従って森の奥をのぞき込むと、一人の青年が大きな籠を背負って現れた。

 どうやら薬草か何か、草を摘んでいるようだ。


「早速殺しますので、お二人は少し下がていてください」

「へ? もう?」

「ええ」


 言われるがまま一歩下がると、ルーランは何もないところから弓と矢を取り出した。


「これについては後で説明いたしますわ。では」


 そのままルーランは弓矢を構え、主人公に狙いを定めて。


「ふっ」


 矢を放った。

 矢は彼の無防備な頭部に命中。

 パタン……と音を立て、前のめりに倒れる。


「さて、このままではアンデッドになりませんから、遺体を回収してこの近くのダンジョンの最下層に連れて行きましょう。この世界では瘴気の強い場所に長時間晒された死体はアンデッドになりますので」

「まじですか」

「ええ」


 目の前で人が殺された。

 その異常性に頭が混乱するも、ルーランは当たり前のように死体の元へと進んで行く。


 すぐ隣ではポコロンが嗚咽していた。

 どうやらこれが異世界ウラカタの仕事らしい。


「俺、やっていけるかな」


 早くも未来に不安を抱きながらも、俺はポコロンを引きずって死体の元へと向かっていくのだった。

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[良い点]  すごい勢いで話が進んで終わる。
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