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疑念

 午前九時宝来警察署捜査本部会議室。

 捜査に出払っていて閑散としている捜査本部会議室で加藤と捜査指揮官の大石、埼玉県警から派遣された刑事二名と顔を合わせていた。

「目撃情報をあたったところ向かい側にあったマンションで証言を得ました。小菅ヶ谷郁夫三十三歳男性です」

 埼玉県警捜査一課の一人が捜査資料を加藤に渡した。

「やっと目撃者がでたか」

「そうです。ただ当初は『殺される』と口走り暴れるだけで相当錯乱しておりました」


 目撃者小菅ヶ谷は凄惨な発砲事件を見た余り精神的ショックを受けていたのだった。無断欠勤を心配した会社の上司が管理人と合鍵を使って部屋に入ったところ、浴室で布団にくるまっていた小菅ヶ谷を発見したと言うことだった。上司が言うには、歯の根が合わないくらいガタガタと震え怯えていたという。


 大石が言う。

「可哀想に。相当な恐怖にかられ、目撃したから自分も殺されると信じ込み、外に出られない状況だった、と言うことだろう」

 大石の言葉に加藤は問い合わせた。

「一般人が殺人現場に遭遇したらそうなることもあるだろう。そんな状態では正確な証言は得られないのでは?」

 岡野は報告を続ける。

「入院先の精神科での処置で落ち着きを取り戻したので、聞き込みをしました……詳しくは捜査資料に目を通してください。赤いフードと同色のジャケットを羽織っている人物から爆発音が響き赤い火の玉が三個見えたと言う証言を得ました。明らかに発砲です」

「赤い火の玉って面白い表現だ」と大石。

「突然だし素人だから、そんな表現でしか出来なかったということだろうよ。兎に角一歩前進だ、赤いフードと赤いジャケット、殺人犯の特徴が捉えられたぞ。あとは君たち埼玉県警が付近の防犯カメラの解析と新たな目撃者を探して欲しい。こっちでもその情報を元に捜査を継続する」

「は」

 二人は敬礼をすると部屋から出て行った。

 加藤は大石の顔を見る。

「埼玉の事件も同一犯とだろう。しかし厄介な事件だ。下手すると関東全体に飛び火するような事件になりそうだな」

 大石が首を振る。

「近日中に警視庁から応援が入るようになるようですよ」

「本店が乗り込んでくるのか、やれやれ……」

 椅子に座っている加藤は浮かない顔つきだった。

「手柄は本店、我々はパシリ、だろ」

 大石はいさめるように言う。

「何をおっしゃいますか、副署長。一地方警察署では荷が重いだろう、と警視庁が腰を上げてくださるのですから感謝しませんと」

 加藤は口をへの字に曲げた。

「全署員上げての歓待か。しかしこんな重大案件でも署長が不在とはな」

「それだけ副署長に全幅の信頼をしていると言うことですよ。頼りにしております、副署長」

「おいおい、大石、皮肉に聞こえるぞ」


 夕方埼玉県警から続報が入り捜査会議となった。

「埼玉県警の見解では、不審者および車両は防カメを避けて犯行に及んだと睨んでおります。付近の防カメを片っ端から専従捜査班と人工知能とともに解析し全力で目撃情報を捜査しています。現場付近の防犯カメラでは不審者は写っておりませんが、黒塗りの車、それもトランクの極一部が映り込んでいる画像を発見したそうです。ただこれが今回の事件に使われた車両かどうかは捜査中で現状車種も特定できていません。昼間の事件現場付近は人通りも車の往来もありますが、コンビニもスーパーも無く犯行時間帯では極端に少なくなるそうです。埼玉県警からは以上です」

 捜査指揮官大石が答える。

「よろしい。犯行を犯した不審者が歩いて逃走したとは考えにくい。何らかの車両を使っての犯行だと思える。では本日の捜査を各班から報告を」

 一人の刑事が立ち上がった。

「デューク内藤殺害現場での科捜研の現場分析では、被害者と犯人の距離は約二メートルで発砲されている分析結果が出ました。その距離からすると返り血を浴びている可能性もあります」

「返り血か」

 大石指揮官の答えに重伝が手を上げた。

「その返り血ですが、赤いフードと同色のジャケットを身につけていると言うことからすると、返り血を分かりにくくしているのでは無いでしょうか。例え目撃者がいたとしても赤いジャケットだと血痕が付着しても分かりにくいのでは」

 大石は頷く。

「なるほど。今回の事件は用意周到に仕組まれているというのだな。重伝君の意見ももっともだ。これは単なる強盗殺人ではない。全員心して当たれ」


 翌日暑い日の昼下がり重伝と神崎、池内はデューク内藤殺害現場を中心にさらなる聞き込みをしていた。

「おや、この前の刑事さん達かい。暑い中ご苦労なことで」

 向かい側の橋のたもとでパン屋を営んでいる初老の主人が三人を見つけ頭を下げた。

 神崎は汗を拭きながら話し出す。

「新たな証言が入りましたんで、この付近を再度調査に来たんですよ。特にご主人、犯行現場では赤い……」と言いかけた神崎に重伝は言葉を遮った。

「神崎、待って。私が聞くから。ご主人、前回、犯行現場付近で発砲音を聞いて犯人らしき人物を見たと証言して頂きましたわね」

 重伝から問われパン屋の主人は浮かない顔つきをした。

「証言? まあ、そうだねえ」

 重伝は重ねる。

「人物の特徴は分からないと言うことでしたが、もう一度お尋ねします」

 重伝の言葉に職人でもあるパン屋の主人は「さてはて」と困った、と言いたげに顎に手を置いた。

「刑事さんねえ……この前お話ししたとおり閉店作業でシャッターを下ろしていた時、爆竹のような音を聞いてそっちを見たんだけですよ。真っ昼間ならともかく、当時はあの街灯の光しか無かったんですから」

 そう言うと言うとパン屋の主人は向かいの街灯のほうに顎をしゃくった。

 重伝は食い下がった。

「ジャケットとか上着とか……何か特徴的なこと覚えてませんか?」

 重伝の問いかけにパン屋の主人は暫くして思い出したように言った。

「そう言えば上着が妙に赤かったような……」

 重伝は色めき立った。

「赤かったのですね?」

「いやいや、直ぐに消えていなくなりましたんで、確証はないですよ。なにしろあの街灯の下ですからねえ」

 重伝の気迫に押されたパン屋の主人はタジタジとなった。

「……チンドン屋じゃあるまいし、なんて派手な上着だ、とその時は思いましたんですが、黄色とか黒ではないことは確かです。……あ、そう言えば、帽子を被っていましたがね、それも同じような色だったような」

「赤いジャケットと同色の帽子ですね」

「重伝刑事、そんなに鬼気迫るような言い方だと後から自白強要罪で訴えられますよ」

 池内は重伝を窘めた。

 神崎はパン屋の主人に謝った。

「申し訳ない、捜査となると人が変わるみたいで」

 パン屋の主人は笑った。

「いやあ、それだけ仕事熱心と言うことですよ。あたしんとこもね、パン生地をこねているあんたの顔が怖いと女房が言うんですよねえ」

 三人は会釈すると隣のブティックに移動した。その道すがら神崎は重伝に尋ねた。

「私がご主人の聞き込みを止めた理由は何故ですか?」

「赤いジャケットを見なかったか、と問おうとしたわね」

「は、それが何か?」

「赤い事実を知っているのは警察関係だけよねえ?」

 謎めいた重伝の言い方に、あ……と言う顔を神崎はした。

「相手から聞き出すのが鉄則でしょ?」



 青いフードの男が唸った。

「どうした尊師」

 緑のフードを被った男が顔色を覗うように見た。

「マズいことが起きた。聖ワドムから下僕シーゲルの天誅殺現場を目撃した人間がいると報告が入った。それも横浜と埼玉、特に埼玉の証言がはっきりしている」

 黄色いフードの女が言う。

「目撃されたの? あの用意周到な下人シーゲルが? 今までそんな事はなかったのに? これは彼の落ち度ね。当分下僕シーゲルには身を隠して貰いましょう。目撃証言があると言うなら彼に天中殺命令にはいささか無理がある」

 尊師は言った。

「ふん、教祖は簡単に言うが下僕シーゲルは優秀なガンマンだ。もっともフードのおかげで面は割れていないはずだ。しかしそうだな……当分天誅教千葉教会で隠れて貰うようにする」

 黒いフードの男が言う。

「だが、今後も天誅殺命令を出さなければならない事態が発生するとも限らない。そうなれば下僕シーゲルを使わざるを得ないと思うが、どうだ尊師」

 尊師が黒フードを睨む。

「聖天使よ。優秀な日本警察だ、下手に動けば発見されるのは時間の問題だ。今後は他の暗殺部隊に任せる」

「しかし下僕シーゲル以外優秀なヒットマンはいるのか」

 紫色のフードを被った女が言う。

「確かに枢機卿の言うとおり」と青いフードの男、尊師が言う。「至急人材を育てていかなければならない」

 唐突に教祖が言い出した。

「下僕シーゲルに任せっきりだったからこんなことになるんだよ」

 青いフードの男は怒った。

「教祖、なんだその言いかたはっ。懲罰委員会にかけるぞ。とにかく至急天誅教岐阜教会に手配して暗殺部隊の育成に取りかかる」

「泥縄じゃないかしら」 

 教祖は冷ややかな目で尊師を見つめる。

「なんだとッ」

 言い争いに聖天使が割って入った。

「まあまあ、ここで言い争っても仕方ない。起きてしまったことだ。我々の目標はもっと高貴な高みにある。大和民族を洗脳支配し、日本を土台としてアジア圏を強大な帝国にまとめ上げ欧米と渡り合うことを忘れてはいないだろうな?」


 数日後の午後八時。

 閉店作業に追われているパン屋の上空から異様な音が響いてきた。

「なんの音かしらねえ」

 上空を見上げる老夫婦。

 突如目の前に爆音を上げた二機のドローンが姿を現した。

 何が始まろうとしているのか……夫婦の顔色が恐怖に変わった。

 無機質なドローン二機は空中で停止し、突如、両サイドに設置してあるガトリングガンから数十発の銃弾を夫婦目掛けて発射した。

 強烈な弾丸に哀れにも夫婦は夥しい銃弾に見まわれ、たちまち餌食になり、血が、肉片が、店内に飛び散る。

 全弾撃ち終わるまで数秒とかからない惨劇だ。

 撃ち終わったドローンは急上昇し小型ミサイル二発搭載したドローンに入れ替わったかと思うと、パン屋に向けて発射した。

 複数回の爆発音ととともに店舗がたちまち炎に包まれ隣のブティックも火の海となった。

 刺激臭が辺り一面にまき散らされた。

 ガスボンベに火がついたか、数回の爆発が轟く。そしてミサイルを吐き出したドローンも、あっという間に急上昇し闇夜に溶け込んだ。

「火事だッ」

「何か爆発したぞっ」

 近隣から大勢の男女が飛び出してきたが、二つの悪魔はすでに視界から消え去った後だった。

 爆発音はスケロク商事のビルにも谺していた。閉店後の事務所に男どもが集まる。

「今のものすごい音、何?」

 明らかに雄馬は怯えていた。銀次は一升瓶を抱え、黒川もグローリーを従えてやってきた。

「なんの音だ? グローリーも怯えている」

「野球中継が台無しだ」と的場はぼやき、越狩も「明日に備え寝ようッてぇ時になんでやんすか」

 二階からも女子どもがわらわらと降りてくる。

 事務所のガラス越しでは大勢の男女の姿が見える。皆一様に何が起きたのか、確認するかのように爆発音のする方向へ向かっているのが分かった。

「何かが爆発したようだぜ」

 ケンジは事務所のテレビをつけた。

 プロ野球の中継が放送されていたが『臨時ニュース』とテロップが映し出された。

『横浜市中区元町付近で爆発音と共に火災が発生……』

「なにさ? 元町ってこの近くジャン」

 瑠那が目を丸くした。

「怖いわ」と直美。

 そして三階から杉田が降りてきた。

「屋上で確認したが、北西の方向で煙が上がっているのが見えたぞ」

「ボス、元町で火災だ。ちょっと見てくる」

 通りでは人の声が騒ぎ立てている。杉田は通りの人の流れを見ながらケンジに忠告した。

「いや、止めた方が良い。街中がパニック状態になっている。これは危険だぜ」

 黒川が鼻をひくつかせた。

「何か、異臭がする」

「何よぉ、異臭ってぇ」

 雄馬はさらに怯えた声をあげその場にしゃがみ込んだ。

「感じないけど」

 サヤカも臭いを嗅ぐかのように鼻をひくつかせるが、これは感覚に敏感な黒川だけの能力だ。

 上空でヘリの音が谺した。

 野球中継が中断され、テレビにはアナウンサーが現れた。

「横浜市中区元町付近で大規模な火災が発生した模様です。報道ヘリからの中継です」

 スケロク商事の面々はアップされた火災現場を息を呑むように無言で見つめ続けた。

「消防車が放水作業をしています。火の勢いが収まらないようです。あ、今、爆発音が……」


 翌朝。

 辺り一面焼け野原状態だった。生々しい現場には未だ、異臭が漂っている。遠巻きで野次馬がその光景を見つめている。

 凄惨な現場は、科捜研、警察、消防他、防衛省からも技術捜査官が参加し合同捜査となった。そして次々と報告が県警本部に寄せられた。

「死者はパン屋夫婦とブティックの店員二名、家具職人一名、食器の販売に当たっていた店員三名、合計八名の死亡が確認された」

「今回の被害者のうちパン屋の主人はデューク内藤殺害の目撃証人であったと重伝から報告がある」

「防衛省の見解では現場の状況から未確認飛翔体は十二ミリ機関砲を使用したと思われる。推測係数、四十発。さらにミサイルの残骸が多数発見された。防衛省と合同で分析中だが、判明するには数日を要する」

「消防および科捜研は現場周辺に残留している異臭を収集し分析している」

「多数の目撃情報が寄せられ、目撃情報からすると中型の無人機、いわゆるドローンと呼ばれる飛行体が銃撃および火災を発生させたと思われる」

「未確認物体は北西方向に向かったと推察するが、残念ながら付近の防カメは破壊されており確認が取れない」


 この事件に対し防衛省も臨時会議が首相官邸地下三階でなされた。

「この事態がドローンの仕業とするとなれば、こうも易々と侵入されてよいのか。この事案に対し我が国防は誠に心許ない。防衛大臣並びに防衛事務次官の意見を聞きたい」

 首相の発言に対し防衛大臣は防戦一方だ。

「このことについては防衛省でも想定はしておったんですが、まさか現実にこの様なことが起ころうとはまさに青天の霹靂でございまして」

 首相鶴田は憤懣やるかたなく怒鳴った。

「何が青天の霹靂だよ。それでなくても高性能レーダーが各所に設置してあるんだろう。国民の血税を使って装備したんだぞ。何か映ってないのか」

「レーダーとおっしゃいましても低空飛行をされては……」

 防衛大臣の言い分に首相が皮肉った。

「手も足も出ん、と言うのか坂田防衛大臣。アンタ、亀かよ。これは我が国の国防を根幹から揺るがす事態だぞ。分かってるのか」

「はあ、至急対応策を講じます」

 国防大臣はしおれた花のようにしゅんとなった。

「国民に不安を与えてはならんぞ、坂田君。君は副総裁の孫、として大臣に起用したのではない。手腕を買ったのだ」

 会議が終わりぞろぞろと政府関係者が長い廊下を歩いている。

 防衛大臣のあとを追うようにして防衛事務次官がヒソヒソと話をしている。

『副総裁の孫ったって、俺たちが針の莚だよ』

『しかしなあ、どこからやってきたんだ? だが、こうも易々と侵入されてはなあ』

『あっという間の出来事だ。これでは航空自衛隊出動も発令できんだろう』

『法令を考えなくてはな』

『結局、我が国の国防は穴だらけってことか』

『なんとか対策を講じないと、大臣より俺たちの首が危ないぞ』



 照明を落とした死体安置所に白木の棺がふたつ。

 重伝達は手を合わせ頭を垂れた。

『協力してくれた夫婦なのに何故こんな酷い殺されたを……』

 捜査官といえども人の子。手を合わせた重伝の目から一筋の涙が頬を流れた。

「証言者を殺害するにも酷いやり方だ……」

 重伝の背後にいる神崎がつぶやいた。

「あの時再捜査しなければ……」

 重伝は後悔の念が頭を過る。

「こんなことにはならなかったと重伝警部補は思っているんでしょうが、あの証言だけでは証拠として薄いのではないでしょうか」

 重伝の背中から池内の声が届く。

「なんて事、言うのよ」

 涙を拭うこともせず、重伝は振り向き池内を見つめた。ふとある疑惑が湧き上がった。

『なんでこうなったんだろう。何かおかしい……』



 天馬のマンションにて。

 楓は珍しく早く帰ってきた重伝と夕食を共にした。

「どうしたの琴葉、食が進まない?」

 楓の言葉にはっとなった重伝だった。

「アタシの調理、上手くいかなくてごめんね」

 琴葉は慌ててて否定した。

「いや、そうじゃなくて、捜査の進展を考えてたんだ。餃子と焼売、片手で調理したとは思えないくらい美味しいよ」

 とってつけた琴葉の言い方に楓は言う。

「それ、中華街で買ってきただけなんだけど」

「そうなの? でもパリッとした焼き目といい美味しいなあ」

「チンしただけだけど」

「いやいや美味しいよー」

 照れ隠しのように琴葉は缶ビールをかかげ、ごくごくと飲み干した。

「それじゃあ、身体に悪いわよ」

 そう言う楓は琴葉の顔をじっと見つめた。

「もしかして元町のパン屋さん?」

 琴葉は頭を垂れると涙ぐんだ。

「そう……協力的でよいご夫婦だった。それが無残な殺され方をして。でもなんだか捜査情報が筒抜けのような気がするんだよ……」

 話を聞いていた楓は無言で餃子を口に運ぶと 数十秒の時が流れ……。

「それって……警察内部にスパイがいるんじゃないかしら?」

 琴葉は顔を上げ楓をじっと見た。

「ねえ」と琴葉。

「なに」

「スケロク商事の杉田社長が持っている天誅教会の情報、警察に提供してくれるように言ってくんない?」

 突然の言い方に楓の箸が止まった。

「はあ? 何言ってんのよ。それ、あなた方警察の役目でしょ」

「あたし一人で社長と話がしたいんだ」

「それってあなたの公休日と社長の話せる時間との摺り合わせをあたしにして欲しい、ッて事?」

「まあ、そう言うこと」

 琴葉は繰り返した。

「うちの社長も仕事確保の営業であちこち飛び回っているから。難しいわねえ。それに同居人がばれてしまうわよ」

「ばれてもいいさ。何も悪いことしるんじゃなし。とにかくそこを何とか。お願い」

 懇願するようなことはの問いかけに楓は困った顔をした。

「次の休みは何時?」

「ちょうど明日、非番なんだよ。ここで待機しているから分かったら直ぐ連絡頂戴、駆けつけるから」

 楓は呆れたように言う。

「これまた随分急なことですこと」



 一方、夫婦の殺害と現場の火災は埼玉県警に流れ、急遽小菅ヶ谷の身辺警護がなされた。証言者を亡くすわけにはいかないのだった。



 某所。

「天中殺命令の指示はしたがドローンを使え、とは言っていないっ」

 青フードの男『尊師』はまくし立てた。

「尊師の指示が悪い。殺害方法まで細かく指示するのが尊師の役割だ」

 「なんだとッ」教祖の文句に尊師は怒った。

 枢機卿が言葉を添えた。

「教祖が言うのも分かるわ。具体的な指示を出さず、ただ『れ』では現場だって相当困ったはずよ。だいいちドローンは首相官邸強襲用に準備してるんでしょう? 幸いなことにドローンは教会岐阜支部に戻ったと報告を受けたけど、多数の証拠物件を相手に渡したは事実ね」

 枢機卿の女が言うと尊師は押し黙った。教祖はさらに尊師を非難した。

「尊師はいつも中途半端だ。催眠音楽でにわか信者をかき集めるまではよかったが、その後の思想説法、教義固着、行動洗脳、すべて生久慈南悦なめくじなんえつ大僧正に任せっぱなしだ」

 険悪なムードに割って入った。

「言い合いはよそう。起きたことにあれこれ言っても仕方ない。確かに証拠物件をばら撒いたのは痛い。日本の警察は執念深い。薬莢や残骸、現場の状況から我々の手がかりを掴む恐れがある。至急埼玉のほうに手を打たねばならない」

 教祖は皮肉った。

「そうは言ってもこんなに派手にやらかしたんだ、もうドローンは使えないぜ。まあ、強襲テストには合格だけどな」

「下人シーゲルに戻って貰おう。秘密裏に始末するには彼の手を借りるしかない」

 尊師は決断するように言った。

「それにドローン空輸を急がせよう。そろい次第『雷鳴計画』を発動するよう提案する」

 しかし教祖は反論した。

「そう言うが、かき集めるにも時間がかかる。特に問題は大型機のエンジン音だ。人里離れた山の中腹に教会を建てたといえども、あの音で大量に日本に送れば発見される恐れが充分にある。人知れず深夜早朝、少しずつ移動させなければならない。それに核融合炉製造、さらに空間移動実験も始まったばかりだ。それらも解決せねばならん」

「爆走天使らの処遇はどうするつもり?」

 枢機卿の疑問に対し尊師は言う。

「こうなった以上()()には戻せない。こっちで飼い殺しだ」

「信者獲得に発揮してくれたけどね」

 教祖は冷酷に言い放った。

「奴らに用は無い」

 



 ……この暴力集団はどこにいるのだろうか?




 昼下がりの横浜元町。

 杉田は左右に顔を見回しながら火災現場を眺めていた。

 焼け跡にはまだほんのりと臭気が漂い、あちらこちらですすけて立ち尽くしている木造の柱や、爆発によって破壊された建物から出たコンクリの破片が飛び散っている。

 物見遊山の見物人が規制線ギリギリのところでヒソヒソと立ち話をしている。

『酷いな。しかし何故こんな場所で、なんの目的があってか』

 物思いにふけっている杉田の背後から女性の声が杉田に響いた。

「ご無沙汰です」

 振り返ると重伝だった。杉田は確認するように目を細めた。

「ああ……覚えてるぜ。あの時の刑事さんだな。瑠那が大変お世話になったなあ」

 嫌みのように杉田は言う。

「杉田社長」

 重伝は杉田を見ながら言った。

「何だよ」

「社長が知り得ている天誅教、私に教えてもらえないだろうか」

 真剣な眼差しの重伝に対し、はぐらかすように杉田は戯けた。

「そーれが、何も持っていないんだなア」

 いきなり重伝はその場で土下座した。

「この通りお願いだ」

 杉田は冷ややかだった。

「おいおい、やめてくれよ。まるで俺がアンタをいじめているようじゃないか」

「頼むッ」

 重伝の決死の覚悟だ。

「天馬から聞いたぜ。行き詰まっているんだってな。さ、頭をあげな。しかし俺たちが天誅協会を探っているのは、とある人物を探しているだけだ」

 重伝はゆっくりと立ち上がった。

「社長は個人を探しているだけだろうが、私たち捜査官は事件の真相を暴くために狂奔している。是非捜査に協力して貰いたい」

 杉田は戯けた。

「俺がここに来ていることを何処で知ったあ? ま、おおかた天馬から聞いたんだろ?」

 しかし重伝は無言だ。

「取るものも取りあえず、て感じで飛び出してきたようだな」

 重伝には、ふふん、と笑いかける杉田の真意を測りかねた。

「Tシャツ、後ろ前だぜ」

 それに気がついた重伝の顔が真っ赤になった。

「やだ……」

「ま、うちの事務所に来てもらおうか。話はそれからだ」

 かくして杉田と重伝は事務所に戻った。

「おかえりー、あれー、お客さん?」

 瑠那は杉田達を陽気に迎えたが、次の瞬間、眉間に皺を寄せた。『この前のデカ?』

 瑠那には苦い記憶が蘇った。

「ばったり会ってな、お話がしたいとさ。いやいや瑠那の話じゃないからな」

 そう言って杉田はチラリと天馬を見た。天馬は電話応対をしている。

「さて、そこの応接室で話をしよっか。瑠那、お客さんにお茶。和道君例の物を。そうそう、そこの給湯室でシャツを直しな」


 ややあって和道はポータブル映像再生機とカードを渡した。

「これを見て貰おうか」

 徐に杉田はカードを差し込み、映像を再生させた。じっと見守る重伝だったが、簡易的に仕切られた衝立の内側から重伝の吃驚した声が二度三度響いた。

「何、この映像は……信じられない……何処でこんな映像を? 場所は何処?」

 矢継ぎ早に問いかける重伝に杉田はにやりとする。

「作り話で誘ったわけじゃないぜ。管弦君、こっちへ来てくれるかな」と杉田が声をかけた。

 杉田の声に瑠那は渋々立ち上がり、古ぼけたソファに腰を下ろした。杉田はにこやかに管弦を促した。

「管弦君、あの時の恐怖を話してくれ。あの時味わった恐怖をね、この刑事さんに」

「なんで刑事さんに話さなきゃなんないのサ」

 瑠那は不服そうな顔をした。

「キョーフの体験をしたのは君だけだからなア、けけけ……」と杉田は朗らかに笑う。

「恐怖の体験?」

 重伝は意味が分からない顔をした。

「思い出したくもない」 

 杉田はにたにたと意味ありげに笑った。

「まあまあそう言わずに。キョーフのタイケンダンをしてくれ、キョーフのな」

 仕方ないと思った管弦は今までの経緯を重伝にぼそぼそと話し出した。

「……と言うようなわけがあって、洗脳されかけたってことだ。危うく会社の金が盗まれるところだったよ。またまともにするのも大変だったんだなあ」と杉田は言葉を加える。

「そんな話なんて信じられない」

 聞き終わった重伝は爆走天使の音楽にそんな秘密が隠されていたとは全く思っていなかった。どれもこれも常識を遙かに上回る話だったからだ。

「まあ、信じられない話ばっかりだろうけどな、重伝君。ほらこのカードと再生機持っていきな。煮るなり焼くなり君の好きなようにしてくれ。ただし、だ。今の話は内密に、な」

「何故?」

 受け取った重伝の問いかけに杉田は謎めいた顔をし、膝を叩いた。

「さて、スケロク商事の持っている情報は以上だ。さ、お引き取り願おうか」

 毒気に充てられたように重伝はスケロク商事の事務所を後にした。



 天馬のマンションにて。

「ただいま」と天馬がドアを開け声をかけた。「お帰り」と重伝の声がリビングから響く。

「こんな暑い日に鍋?」

 ぐつぐつと煮えている鍋を見ながら天馬は驚く。

「まあ良いじゃん。冷蔵庫の中見たら鍋にしたくって。さ、手を洗って」

 何とも吹っ切れた顔の重伝だ。そんなに杉田からのプレゼントが気に入ったのだろうか。

 天馬は鍋を突きながら尋ねる。

「社長の話、どうよ」

 重伝はワインをあおりながら「全く信じられない話ばっかで」と言葉を出す。

「でも映像のトリックとか分かったでしょう」

「うん。それにあんたんとこの社長の謎めいた言葉の意味が分かったんだ。それで祝杯~」

 そういいながら空になったグラスにワインを注ぐ重伝。

「ちょっと止めたら。飲み過ぎよ」

 天馬の忠告に耳も貸さず、ワインを並み何と注ぐ。よく見ると足元に空っぽのワイン瓶が転がっている。

 楓は呆れた。

「琴葉、一体何本目?」

「未だ二本目だよーん」

 重伝は陽気に笑い声をあげた。

「分かったって、何が分かったの」

「捜査上それは言えないわあ。それよか、飲も飲も」

「飲めないこと知ってるんでしょう?」

「そうだったねー。残りは全部頂くよ」

 飲み助の心理は分からない、と楓は呆れた顔をした。



 翌日の宝来警察署。

 大石は全捜査員を前にして訓示していた。

「今回起きた殺傷および火災事件は県警本部でまとめられることになった。こっちで立ちあげている殺人事件は継続となるが進捗状態により県警本部で統一されるかもしれない。それまでに目星をつけなかればならない。各人一層の努力を」

 捜査指揮官の訓示の後、重伝はカードの内容を神崎と池内に見せた。二人とも吃驚顔をした。

 池内が口火を切った。

「出動前にこんな茶番、見せられても。何の意味があるんですか。これだけで天誅教川崎支部を捜査するには無理ですね」

「天誅教会とは言ってないけど?」

 重伝が言うと池内は頭を掻いた。

「申し訳ないです、警部補。どうも事件と天誅教会を結びつける癖がついてしまってまして」

「神崎はどう思う」

「どう思う、と問われても、何時何処で何の目的で録画されたのか、池内が言うように茶番劇ですよ。なんの証拠にもなりません」

「重伝警部補は何処でこれを?」

 池内はが問いかけるが重伝ははぐらかす。

「とある人から。さて、意見を聞くためにプレーヤーごと休憩室に置いとくか」

 池内は慌てるように言う。

「趣味悪いですよ、重伝警部補。人事考査に影響が出ますよ」

 しかしその口調には何処かしら毒を含んだ言い方だった。



 天誅教会川崎支部。

 鼻歌を交えた鈴木は、いつものように業務用掃除機で礼拝堂を掃除していた。騒々しい音を立てている掃除機が、突然カラカラと乾いた音を響かせ『何か』を吸い込んだ。

「あらまあ」

 鈴木は音の正体を確かめようと掃除機のスイッチを切り、蓋を開けた。しかし大量の綿埃や砂で確認出来ない。

「ま、いいか」

 鈴木は蓋を閉め、再度掃除に取りかかった。

 その時、近藤は廊下で落ちていた『サイコロ』を拾い上げた。近藤は思っているサイコロにしては明らかに大きい。

『なんでこんな所に?』

 つまみ上げしげしげと眺める近藤。

 六の目に粘着テープが貼られている。どうやら何処かに貼られていたサイコロが粘着テープの劣化と共落ちた、としたか考えられない。一の目を見ると何やら光っているのが分かった。

『レンズがはめ込まれている? 誰が一体こんな悪ふざけを?』

 近藤は怪しんだが、懐に納めている携帯が独特な呼び出し音とともに鳴ったのを聞いて、直ぐさま慌てるように事務長室に駆け込んだ。

 鍵を閉め端末機器の電源を入れると、画面に青いフードの男が現れた。いつもながら口元しか写らないのでその表情は窺い知れない。

 突然、青い男は言う。

「川崎教会閉鎖だ」

 予期しない言い方に近藤は吃驚した。

「何ですと」

「聖ワドムから緊急報告が入った。誰かがそこの礼拝堂を許可無く撮った者がいる」

「信者の中に裏切り者がいると?」

「詮索は後回しだ。これから輸送トラックを手配する。お前達は極秘資料、全て箱に入れ、到着次第トラックに乗せろ。グズグズしている暇はない。大至急取りかかれ」

「はっ」

 近藤が言い終わらないうちに端末から男が消えた。

『大変だ』

 ことの重大さを感じた近藤は事務長室から飛び出し、喚くように部下に命令した。

「おい、鈴木ッ、掃除を止めろ。大急ぎで撤退準備ッ! 理由は後だ。ありったけの段ボールでぶち込めるだけぶち込めっ」

 教会内部は慌ただしい動きになった。台車が用意され、棚から、机から、運び出された書類関係が整理されることなく次々と段ボールに放り込まれる。

「事務長、段ボールが全く足りませんっ」

「田中、及川、お前達はホームセンターに行ってありったけ段ボールかき集めてこいっ」

 教会の慌ただしい動きに見張っている警察署員も驚いたようだ。

「なんだか、忙しない動きだ。本部に連絡」

 連絡を受けた川崎港湾署は警邏中のパトカーに指示を出す。

「二号車、川崎教会の動向を探れ」

 ドタバタしている中、おどおどしたような表情で鈴木が近藤に声をかけた。

「事務長、警察の方がお見えです」

 近藤は舌打ちしたが、おくびにも出さず対応する。

「警察の方? 何かご用かな?」

「近隣から騒音の苦情が入りましてね」

 教会内部では職員が右往左往し、代車も数台音を立てながら移動を繰り返している。

「引っ越しですか」

 警察官の問いかけに近藤は言う。

「教会が手狭になりましてな」

「にしては随分と急な様子ですね」

「教会の運営事務局はいつも急ですからな」

 威厳を保つように近藤は話すが、内心は気が気では無かった。

「どちらへ引っ越しですか」

「本部からの指示待ちだ」

 いくつかのやり取りの後、警官達は立ち去って行った。

「クソ、こんな時に来やがって」

 近藤は毒づいた。


 教会の動きは宝来警察署にも伝わった。

「何かが始まったようね」

 重伝は報告を聞きながら思った。

『やっぱりあの映像、もう一度確認しよう』

 そう考えた重伝は休憩室に向かうと……何故か記録用磁気カードだけが抜かれていた。

「ここに指していたカード、誰か知りませんか」

 休憩室に数人の警察関係者がいたが、一様に首を横に振るだけだ。

『おかしい』

 妙な胸騒ぎを感じた。腕組みしていた重伝の元に神崎が顔を出す。

「重伝さん、こちらでしたか。まもなく全体会議が始まります。どうやら県警本部に設けられている事案が警視庁に移管されるようですよ」

「本店が動き出したか。分かった」

 会議室へ向かう中、重伝は神崎に訊いた。

「あら、池内は?」

「憚りに行くと言ってましたが遅いですね」と神崎。

 会議室の席についても池内の姿がなかった。

 重伝には一点の疑念が浮かび上がった。

『何故あの時、池内は川崎支部とはっきり言ったのか、まさか…』


「大型トラックが教会に横付けされ多くの段ボール箱が運び出されています。何処かに移動するようです」

 天誅教会を見張っている捜査員から川崎港湾署本部に連絡が入った。

「警邏中の八号車、追跡準備。警視庁交通課信号指揮司令に八号車の位置座標報告」

 県警の指揮官が命令を下す。

 運び終わった大型トラック二台が教会駐車場から出るのを確認した近藤は左右の鉄扉を閉め、チェーンで施錠した。道路脇に停車していたワゴン車に乗り込むと運転手に行き先を命令した。

「岐阜教会に向かう」

「岐阜ですか」

 運転手は吃驚した。

「そうだ。後方の車両に伝言する。無線を貸せ」

 運転手は近藤にマイクを渡した。

「全車これより岐阜教会に向かう。固まるな。ばらけろ。運転手は適宜交代だ。各車の判断に任せる。事故を起こしても事故に巻き込まれてもならん。白バイや覆面には決して捕まるな。事が起きたら我が天誅教会が危うくなる。ッ交通道徳を守れ。速度遵守。無事全員、岐阜教会で落ち合おう。以上だ」

 了解……と言う声が無線から響いた。

「よし、こっちも出発だ。くれぐれも警戒を怠るな」

 数台のワゴン車が動き出すと、待機していた覆面パトカーの八号車が気がつかれないようにあとを追う。

「追跡開始します」


 丁度その頃神奈川県警捜査本部八城本部長と警視庁暴動対策課鳴鬼課長でテレビ会議が催されていた。鳴鬼は五十代半ばと思われる精悍そうな顔だ。

「捜査資料全てサーバーに送れ。八城本部長と指揮官もこちらにお越し願う」

「了解しました。現在警視庁交通課信号指揮司令所と合同で県警覆面パトカー八号車に追尾命令を出しております」

「それはこちらでも把握している。警視庁からパトカーを手配している。八号車と合流後県警に帰投して貰う。後はこっちで対応する」

「宝来警察署に設けられている殺人事件捜査本部は如何致しますか」

 八城の問いかけに鳴鬼は淡々と対処する。

「それはそっちに任せる。こちらは事件の重要性を鑑み、そろい次第防衛省と合同捜査本部を立ちあげる」

「了解」

 電話を切った八城は部下に命令した。

「本店が乗り込んできたんですね」

「そうだ、最重要案件は警視庁の支配下になったよ。早速だが捜査資料を本店サーバーに送ってくれ。私は捜査指揮官とともにこれから警視庁へ赴く。捜査車両の手配を」

「これから本店詣でですか」

「ああ」

 本部長は腕時計を見た。

『こりゃ徹夜だな』


 警視庁信号指揮司令所の大型スクリーンには無数の信号機が点滅し、その中で八号車は青い光りの点で表示され、二人の捜査官が動きを追っていた。

 司令所に一人の中年女と背の高い男が入室してきた。

「捜査本部に任命された小室と鳴鬼だ。事情は聞いた。さて、状況はどうなっている」

 鳴鬼は大型スクリーンを睨んだ。

「神奈川県警八号車の動きからすると目標は横浜青葉インターに入る模様です」

 中年女性小室はかけている眼鏡をずり上げた。

「高速を使って何処に……恐らく全国各地に点在している教会のどれかに身を隠すのでしょうよ」

 鳴鬼は命令する。

「よし、八号車と直接交信する」

 八号車の無線周波数を合わせるとスピーカーから声が漏れる。

「ハイ、こちら神奈川県警八号車」

「警視庁合同捜査本部鳴鬼。目標のナンバー、車体確認」

「川崎ナンバー……イズズ車体製八トントラック、車体色、銀。あと二十分で静岡に入ります」

「静岡県警高速隊と連絡を取る。合流後帰署せよ。小室君ナンバー紹介」

「了解」

 鳴鬼は動きを推察して矢継ぎ早に指令を下す。

「こちら静岡高速隊四号車、目標、第三新東名、名古屋方面進行中」

「長野県警連絡。追跡手配。合流後四号車帰署」

「了解」

「こちら長野県警高速隊四号車、目標、まもなく愛知県」

「愛知県警高速隊連絡」

「豊田ジャンクションより東海環状自動車進路変更、土岐方面進行中」

 次々と各警察署に指令が飛び、その都度覆面パトロールカーがトラックを追跡する。

 ふと、鳴鬼は時計を見た。追跡からすでに五時間、午後九時を回っている。

「失礼します」と小室が入室してきた。

「捜査本部長、トラックの所有者が判明しました」

 鳴鬼は小室を見る。

「トラック所有者はぶっとび運送ですが、株主を調べると天誅教会に行き当たりました」

 鳴鬼は眉間に皺を寄せる。

「やはりそうか」

 二人のやり取りの最中、愛知県警高速隊から無線が入った。

「国道四七五号線、北進中」

 それを聞いた小室は手にしていた端末を操作した。小室の眼鏡が光った。

「この方向からすると天誅教岐阜教会に向かっている……」


 それより数時間以上前。

「池内の自宅を捜査したい?」

 対策会議室で捜査指揮官の大石と重伝、神崎が言葉を交わしていた。

「そうです。捜査本部長、許可願います」

 重伝と神崎が頭を下げた。

 大石が目の前の端末を叩くと池内の情報が画面に表示された。

「自宅は東京都大田区蒲田本町だ。蒲田署に依頼した方が早いぞ」

「この目で確かめたいことがあるんです」

「それと事件捜査と関係があるのか」

「関係を知るためにも必要、と考えております」

「赤い男の行方を捜査が先だ」

 操作指揮官大石部長は重伝の申し入れに頑なに拒否をする。しかし……。

「今から、うちの捜査員がお邪魔するって蒲田署に一報入れとけばいいじゃないか」

 突然の声に三人は吃驚した。いつの間にか加藤が立っていたからだ。

 大石は慌てる。

「副署長、お言葉ですがね」

 加藤は指揮官の言葉を遮る。

「わしは捜査情報が漏れているんじゃないか、つまり内部通報者がいるんじゃないか、と思っている」

 大石は驚く。

「池内刑事がスパイですか」

「そうとはいっとらんぞ。スパイかどうか断定する証拠は未だない。池内の失踪は別件かもしれん。それを探るにも必要だ。それにこれが判明したら宝来警察の失態に繋がる。本店から調査が入り、わしの首もどうなるか分からん」

「それを知る上にも許可願います」

 加藤の援護に重ねて重伝は頭を下げた。

 大石は渋々決断した。

「今回だけだぞ。分かり次第直ぐ帰ってこい」

「了解」二人は声を揃えた。

 加藤は大石に念を押すかのように言った。

「蒲田署のほうは上手くいっといてくれよな」



 池内の自宅は古びたマンションの一室だが、周辺は歓楽街に近く深夜になっても人通りは多い場所である。

「ここか……」

 『池内三郎』と書かれている表札を間に、重伝はインタホンを押したが思った通り反応はない。ドアを叩いても無人のようだった。

「捜査に協力して頂きたい」

 人の良さそうなマンションの管理人に身分証を示し合鍵で開けて貰うよう要請した。

「こちらです」

 開けられると、なだれ込むように入る二人。

 眼前に飛び込んできた部屋の様子は異様だった。

 キッチン、リビング……全体的に爆走天使のポスターがびっしりと貼ってあり、次の部屋の正面にはこじんまりした天誅教の祭壇が設えてあった。状況証拠とはいえ、それは天誅教の証だ。

「やっぱり……」

 想像できていたとはいえ、事実を見せつけられた重伝はがっくりと両肩を落とした。



 深夜午後十時。

 二台のトラックが到着するとそのあと続くように複数の教団ワゴン車が次々と岐阜教会に終結していく。

「やっとついたか」

 車から降りた近藤は月明かりの中、教会を見上げた。

 しん、と静まりかえっている暗闇の中でも、その一角だけ照明で煌々と照らされた天誅教岐阜教会は、切り開かれた山の中腹に威風堂々とそびえ立っていた。周囲には人家も無く、そこだけ異様な建物は巨大な城砦のようだ。

 教会最上部には天誅教会と示す独特のモニュメントが見える。

 三方向に森林が密集し容易に入り込めない地形となっており、それは天然の防衛要塞だ。



天誅教その2 第二部 完


 聖ワドムの正体は池内であり、彼は天誅教のスパイと判明された。しかし消えた池内は何処にいったのか?

 赤いマフラーと同色の上着の男の正体は?


 無人攻撃機ドローンの構想は、ヴァイオボーグの作中に出す予定でしたが、当時としてはアイディア倒れで先に進めることが出来ませんでした。

 昨今の世界事情もありこの様な形で披露してみたわけでございまして、また、我が日本の防衛問題も考え、ちょっとした問題提起になるのかもと。


 次のお話はスケロク商事の杉田が赤いフードの人物をおびき出すような展開です。

さて、下人シーゲルの正体は? ま、お気づきの方もおられようかと思いますが、乞う、ご期待。

 なんてね。

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