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史上最強のアイドル、異世界転生して、納豆令嬢と、王道アイドルをプロデュース  作者: 逢七


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50.フェルメント帝国の秘宝⑱~絆

※イス視点です

 さっき『あの人のことを手放すべきじゃない』ってシューが言ったとき、僕はシューに何も言葉を返すことができなかった。


 彼らの言うことは、ちゃんと聞きたいと思ってたし、

 何を言われるかもだいたい予想して、頷いたけれど。


 でも、やっぱり、ルシアナ殿下の気持ちなんて、分かりたくもなかったんだ。

 今更、そんな思いなんて。


 だけど、心のどこかで、ほっとしたような、心が温まるような気持ちがあるのに気付いてしまって、嫌になる。


 そうして黙ってしまった僕を気遣ってか、ヒーロがシューを連れて部屋を出て行った。


 僕はゆっくりとソファに腰を降ろして、背凭れに身体を預けた。



 誰もいないこの部屋は、なんて静かなんだろうな。

 一人でいることがこんなに心細いなんて、僕はほんとうにだめだ。


 頭の中は、ずっとずっと、ぐるぐると色んな思いが巡っている。


 戻ってきたいというのは、僕の甘えだ。

 みんなが優しいから叶えてくれる。

 でも、このままでいいわけじゃない。

  

 『腐ってもいい』

 そんな風に言ってくれたカトレット嬢の言葉は、僕にとっては救いだった。

 誰のためにもならずにいようとしたら、誰かの害になってしまう。

 だから、苦しかった。

 だけどそれが、害になるばかりじゃないと言われて、ようやく気持ちが少しほぐれた気がした。


 『生きてる資格とか、誰かに迷惑かけるとか、考えすぎじゃないか?』

 ヒーロのあのセリフも、今となったら何となく分かる気もする。

 ああ、だけどやっぱり、そんな風に気軽に考えることができるのはヒーロだからで僕は違う、と反発もしたりして、ずっとずっと、もやもやしているんだ・・・。


 僕はいったい何を望んで、そして、ここで何ができるんだろう。





 そうやって、どのくらいの時間が経っただろうか。

 ふと気づくと、隣の部屋に人の気配がした。


 あれ? ソウル兄さん、帰って来たのかな。


 窓の外はいつの間にか真っ暗だ。

 時計を見ると、もう深夜に近い時間帯だった。


 いつもこんなに遅くまで仕事をしているソウル兄さんのことを、僕はほんとうに尊敬している。

 物心がついたときから、僕はソウル兄さんが大好きで、皇宮に来るといつも、ずっとくっついていた。そんな僕を、兄さんはいつも優しく見てくれているのが分かるから、ここに来るとすごくほっとするんだ。



「ソウル兄さん、いる?」

 こんこんと間のドアをノックして、そうっと執務室に入ると、使い込まれた大きなデスクから、兄さんが顔を上げた。


 疲れた顔をしている。


 僕はなんとなくいたたまれなくて、ドアの前で立ち止まった。


「イスか・・・。帰ってきたんだな。良かった。」

「ああ、・・・うん。心配かけて、ごめん・・・。」

「・・・いいよ。帰って来てくれたのだから。何か、飲むか?」

「うん。・・・ごめん。」


 兄さんは途中の仕事を置いて席を立つと、ぐるりと大きく僕の前を通って、ソファに向かった。

 僕は、その兄さんの肩が揺れるのをゆっくり見ながら、後ろについていく。

 そして、いつもの席に腰を降ろして、兄さんが入れてくれた濃くて苦いお茶がテーブルに置かれると、何だか無性に泣きたい気持ちになってきた。



「ソウル兄さん、僕もそのお茶、飲んでみたい!」

「イスには無理だよ。」

「大丈夫だよ、僕も飲めるよ。・・・!!?」

「・・・だから、言っただろう?」

「美味しいよ! 僕、これ、好きだ!」


 兄さんの机の隅にハルがいつも置いていくその飲み物を飲むと、兄さんは一瞬眉がぐっと沈む。

 それが面白くて、そして僕も兄さんのマネをしたくて、おねだりをしたのは、いつのことだったか。




「イス?」

 眉を寄せて問う兄さんの声にはっとして、僕はにこりと笑った。

「ありがとう、兄さん。美味しいよ。」

 そう言うと、ソウル兄さんはじっと僕を見て、ふっと唇の端を上げた。


「・・・イス。カイル・デリートのことなら、もう大丈夫だから、心配しなくていい。」

 お茶を一口飲んで眉を動かした兄さんは、落ち着いた声で言い加える。

「俺とハルが、ちゃんと片付けたから。」


 ああ、そうなんだろう。

 兄さんとハルは、いつも先回って、僕が嫌な思いをしないようにしてくれる。

 だけどね、兄さん。僕はもう、それだけじゃあ嫌なんだ。


「兄さんは、もう僕を守らなくていいんだよ。」

「イス?」

 ソウル兄さんのコールドブルーの瞳が大きく見開いて、そこに僕の姿が映ってる。


 そうだ! ちゃんと言わなくては! 

 ちゃんと僕のそのままの気持ちを言葉にしよう!

 だって、僕は変わろうって決めたんだから!


 こくんと喉を鳴らして、僕は口を開く。

「だって、僕だって兄さんの力になりたいんだ。兄さんを守りたいんだ。だって、兄さんはさ・・・。」

 一息に言って兄さんの顔を見た。兄さんはなんとも言えない無表情のままに、でもこくと頷いた。


「兄さんは、この国にとってすごく大切な人じゃないか。兄さんの能力はこの国の宝だって、みんな言ってる! 僕みたいに、どうでもいい存在じゃないんだ。」


 ああ、違う、そうじゃない。


「・・・ごめん、この国にとってじゃない。『僕』にとって、大切な、大切な存在なんだ、兄さんは!! だから、僕は・・・」


 ああ、もう何が言いたいのか分からなくなってきた。


 ぐっと唇を噛んだ僕に、兄さんはそうっと席を立つと、僕の前にやってきて

 ふわり、僕の頭を両手で抱きかかえた。


 懐かしい匂いがして、目頭が熱くなる。


「・・・イスが、俺が大切と言ってくれて、俺はすごく嬉しい。お前は知っているか? お前という存在が、俺にとってどんなに特別で、大切で、そして勇気づけてくれているか。・・・父上や、姉上が・・・、どんなにお前を特別な目で見ているか。」

 

 額の下にある兄さんの肩に一瞬ぐっと力が入って、そしてそうっと離れた。


「兄さん・・・。」


 兄さんは続けて僕の髪にふわと触れ、にこと笑う。

「俺はお前が言うほど立派な人間じゃない。頼ってくれるお前をこの手で守れる立場をずっと拠り所にしてきたんだ。だからお前が、俺を大切だと言ってくれて、不思議だけど、すごく救われた気分だ。」


「兄さんは、立派だよ! 兄さんの傍は、いつだって安心だった。」

 でも、僕は・・・! 


 そんな僕の前で兄さんはこくと頷いて、真っ直ぐに僕を見た。

 それはさっきまでの兄さんとは違う。

 胸がどきどきして、僕は背筋を真っ直ぐに伸ばした。


「ああ、お前は変わった。強くなった。そして、俺たちは変わる。大人になるんだ。周りに何かを求めるんじゃない、ただそこにあるだけじゃない、これから俺たちに何ができるかだ。一緒に考えてくれるか?イス。」


 それを聞いて、僕は思う。


 ああ、やっぱり、兄さんはすごいや。


 そうして、僕は大きく頷くと、密かに考えていたあることを、提案したのだった。

一月ぶりです 逢七です

廃ゲーマーへの道はまだまだ続いています

(課金は増える一方・・・やば~)


さて、長かった「フェルメント帝国の秘宝」はここで一旦終結なのです

『秘宝』

ソウル⇒イス、イス⇒ソウル です 

あるいは、ある人にとっては、ルシアナなのか?

そんなところです

複雑な思いの糸も少しずつ解れてきたところで

最終章へと進行します


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