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史上最強のアイドル、異世界転生して、納豆令嬢と、王道アイドルをプロデュース  作者: 逢七


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49.フェルメント帝国の秘宝⑰~忘れもの

 ピンクの衣装の上に載せられた星形のチャームがついた金色のネックレスを、シューはするりと手に取ると、ゆらゆらとイスの目の前にぶら下げた。


「それで、これ、どうするつもりなのさ。俺たちと一緒に、捨てちゃおうってわけ?」

「・・・・・。」

「何とか言ったら?」


「お、おい、シュー。」

 珍しく挑発するようにシューが言うから思わず口を挟んだのだけど、シューはきっと鋭い視線で俺を制した。

「ヒーロはちょっと黙ってて!」

「あ、はい・・・。」


 えっと・・・なんだ?

 シューは、こんなふうに、他人の領域に踏み込むようなことを言う奴じゃないのに。


「あのさぁ。これって、イス様にとって、大事なものなんじゃないの?」

 一筋の視線さえ漏らさないようにシューはじっとイスを見つめ、その目の前で、ネックレスのチェーンをぐっと握りしめる。

「ずっと身につけてただろ? なんで外すのさ。・・・それも、俺たちの思い出の()()と一緒にしてさ。」

 そう言って、イスの持つピンクの衣装を、シューは忌々しげに睨んだ。 


 一方のイスも、そんなシューをじっと見つめていたが、静かに首を振る。

「・・・捨てる、とは言ってない。僕は、忘れもの、だと言ったんだ。」


「「忘れもの?」」

 同時に言った俺とシューに、イスはぱちぱちと瞬きをすると、なぜか嬉しそうにふっと笑う。

「色々と、ごめんな。」


 あまりにもすっきりとした表情でそんなことを言うから、拍子抜けだ。

 でも、よくわかんねぇんだよな、イス様の笑顔って素直じゃないことのほうが多いしさ。


 そうして俺が訝しげに見つめていたせいだろうか、イスはもう一度、くすりと笑った。


「あのさ、僕はさ、ソウル兄さんのためって言っても、しちゃいけないことをしたんだ。だから、ここにはもういられないだろう? でもそれは、ちゃんと自覚して、いや、ちょっと違うな、覚悟。そう覚悟をしてやったことだから、後悔はないんだけどさ。迷惑をかけたソウル兄さんには、ちゃんと謝ろうと思ってて・・・。」

 淡々と、イスは言葉を紡いでいく。


 それはさ・・・、ソウ様はすげぇ心配してたし、困ってた。

 でも、ソウ様は迷惑をかけられたなんて、ちっとも思ってないはずで

 ここにいられねぇなんて、そんなことあるはずないじゃないか!


 そんな俺の思いとはうらはらに、イスは言葉を重ねる。

「僕はさ、いつも大事な人を困らせてばかりだし、そもそも生きている資格なんてないんだって、ずっとそう思ってきた。だから、ただ無為に過ごして、誰かの大切な存在になんてならずに、そうしていつのまにかいなくなったら、それでいい、って。そう思ってて。・・・ほんとは自分で手放す覚悟もないくせにさ。」


 ???

 なんか、よく分かんなくなってきたぞ。


 イスがいったい何を言いたいのか俺にはよく分からなくて首を傾げる。

 なのに


「・・・そうだったんだ・・・分かるよ。」

 さっきまでの怒りがまるで逆転したかのように、シューが小さくそう言って。

 衣装を抱えるイスとネックレスを握りしめるシューは、互いに頷き合っている。


 な、なんなんだよ、お前ら!? 俺はわかんねぇよ・・・。

 でもさぁ・・・。

 

「・・・あのさあ、生きてる資格とか、誰かに迷惑かけるとかさ、考えすぎじゃないか?」

そうだよ。そんなの生きてたら当たり前のことなのに。なのにさ。


「「そんなことない!」」

 そう言って、二人が同時に俺を睨むから・・・。


 黙るしかないじゃないか。



「それで?」

その後、シューは俺を手で追い払うようにしてイスの話を促すと、イスは残念そうに俺をチラ見して口を開いた。


「ああ。そこにちょうどカイル・デリートのことがあっただろう? それで、ここが僕の使い所だ!って、そう思っちゃったんだよね。」

「それは、思うよね!」

 思うんだ・・・。


「だけどさ、そうして離れてみたら、今度は僕の居場所がなくなるのが、我慢できなくて。」

「うん。・・・うん、分かるよ。」

 分かるのか・・・?


 イスはそこでもう一度視線を落とすと、胸元のピンクの衣装をぎゅっと抱き締める。

「・・・その時にさ、カトレット嬢が『腐っててもいいんだ』って、そう言ってくれたから。僕はしたいようにしていいんじゃないかって、そう思って、・・・そしたら、なんでかな? この衣装のことを思い出してしまって。これが『僕のカラーだ』って思って、そうして皆で並んだあの舞台のことがどうしても忘れられなくて。」


 えっ・・・、結局よくわかんねぇんだけど、これって、なんだか・・・。


 謎にどきどきした期待が高まると―――

ばっと上がったイスの頬は、きれいな桜色に染まっていた。


・・・そういえば、たしかユメちゃんは言ってたっけ。

『腐ることの何がダメなのか? 変化することはいいことで―――ようは、腐り方次第』なのだと。


 えっ、はっ、それってこういうことなのか???

 だけど、たしかに・・・。


 俺の見つめる先では、イスがゆっくりと口を開く。

「・・・あのさ。だから、さ。僕は、もう一回、ここに戻ってきたいんだけど

 ・・・・・・いいかな?」 

 ―――それは、イスからは聞いたことのない素直な言葉と表情で、言葉にしたとたんに、イスは首まで真っ赤になってしまった。


 ああ、そうか。人が変わるきっかけなんて、人それぞれで

 あぁ、でも、もうどうでもいいや。

 戻ってきていいか、なんて、そんなの決まってる!!


「「もちろん!!」」

 俺とシューは、またかぶせて言って顔を見合わせ、そんな俺らを見て、イスもまたぱちぱちと瞬きをした。


 そして、イスは

 想像していたよりも、ずっとずっと柔らかい陽だまりのような笑顔を浮かべたのだった。





「ああぁぁ、疲れた。けど、よかったぁ!」

 はあぁぁ、と息を吐いて、なんだか一気に気が抜けた俺は、ソファに身を投げ出した。


 よかった、よかったよぉ。これで、ちゃんと元どおりになったんだ!

 

 そんな俺に吊られたように、回り込んでいつもの定位置に座ったイスに、その向かいに腰を下ろしたシューがそうっと手を差し出した。

 その手には、ネックレスのチャームがきらりと光っている。


「なあ、イス様。このネックレスなんだけど・・・。」

「ああ、うん。気になるよね?」


 そうだ! そういえば、シューは、このネックレスを見てから、神経を尖らせたんだっけな。


 星と貝の形をした白い石のチャームが数個、金色の鎖の間に無造作に繋がっている。前世日本のお祭りの屋台にも並んでいるような、そんな子どものおもちゃのような、それ。


 たしかに『なんだか、そぐわない』けれど。

 シューが口にした言葉は、それとは逆だったはずだ。


 シューは、受け取ろうとしないイスの前からそれをもう一度手元に戻すとじっと見つめた。

「俺、さ。昨日ルシアナ殿下とお会いして聞いちゃったんだよね、イス様のこと。それに、イス様のお父上のことも。」


 イスの父上?


 それは、おそらくメルゼィ公爵のことではないだろう。

 きっと、それは・・・。


 公爵から聞いた、ルシアナ殿下とテオという従者の少年のことが思い浮かんだ。


 そしてシューは口にはしたものの、その先を続けるべきかどうか迷うように、ネックレスを乗せた手を握ったり開いたりしている。

 でも、やがて意を決したようにそれをぎゅっと握りしめると、真っ直ぐに橙色の瞳をイスに向けた。


「・・・君のお父上は、音楽家の卵だったんだ。俺も、幼いときに彼の曲を聴いたことがある。彼は、すごい才能だった。それで、昨日、ルシアナ殿下にお会いして、俺、感じたんだ。お二人の間には何か大変なことがあったのかもしれないけれど、お二人はほんとうに愛し合っていて、それで君が生まれたんだって。・・・だって、だってさ。彼の作ったあの『恋の曲』は、大切な人への愛情で溢れてる。それは、ルシアナ殿下と君への思いなんだよ。それを、あの方はちゃんと受け止めようとしている。だから・・・。」


 はっとしたように言葉の途切れたシューに、じっと耳を傾けていたイスが、真顔でこくりと小さく頷いた。シューが、ふうと小さく息を吐く。


「そう。だから、あの方は、きっともう、・・・大丈夫だよ。俺の弾いた、彼の『恋の曲』を聴いて、すごくすっきりした顔をしてた。これからは、お前のこと、ただ純粋に応援してくれるはずだよ。だから、イス様は、それを手放すべきじゃあ、ないんだ。」

ごぶさたしておりました。逢七です。

おいてけぼりのヒーロと読者。あかんやないかい!!


10月は実は廃ゲーマーと化してました。

いかん!死んじゃう!!

とりま、投稿応援キャンペーンのために、急いで筆をとった次第です(^^;;)


本章もあと1話、がんばります

次話は複雑思考なイス視点で

(彼は天邪鬼なのでしょうがないのです

 単純思考のヒーロは分かるはずもない)


その後は、最終章の予定です

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