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48.フェルメント帝国の秘宝⑯~シューは迷う

 イス様の顔を見たとき、俺、シュー・ホランドは、咄嗟に昨日のルシアナ皇女殿下のことを思い出して、言葉を発することができなかった。


 それに加えて、イス様が首から外した金色のネックレス―――その先についたチャームに象られた星紋。


 それが、ルシアナ皇女殿下が隠すように手首に巻いていたブレスレットについていた()()と同じものだというのは、すぐに分かったんだ。


 皇女殿下は無意識なのか、時折そのブレスレットに触れていた。その行為が、俺にはひどい不協和音のように、目と耳が、注意を向けてしまっていたから。

 だから、袖先からきらりと見えたそれに、気づいてしまったんだ。


 皇女殿下の身分と美貌には、とてもそぐわないデザイン。

 もちろん質という点でも、いかにも雑なものだったから、俺は一目ですぐに大きな違和感を持ったのだ。

 



 昨日、ソウ様に言われたのは「ルシアナ姉上の『様子』を見てきてくれないか」だった。

 ソウ様がこう言うのは、今までにも何度かあった。

 それはだいたいが、イス様のことか、ヒーロのことで

 ソウ様の言う『様子を見る』は、イコール『本音を知りたい』ってことなんだ。


 それは、ソウ様が不安に思ってるなら、俺はちゃんとやるよ。


 それにしても、ルシアナ殿下か・・・。


 殿下の噂は、音楽会でも、ご婦人方の話に上がっていたし、そしてこの国一番と言われるその美貌を一度直接見ることができたら、って内心思っていたから、ちょっと期待もするよね。


 俺の、母上のように『美しいもの』の解る人なら、もっといいよな。




 そうして、直接目にした皇女殿下は、噂以上に圧倒的な美だった。

 するりとした白皙の肌に、すっと立ち上がる鼻筋、あるべき場所に的確に開いた瞼に守られたかのようなオーシャンブルーの瞳、そこにかかる絹糸のように艶やかなプラチナブロンド。


 正直、俺は、最近ないほどの胸の高鳴りを感じた。


「まあ、お礼だなんて。たいしたことではないわ。だって、わたしにできることは、もうそれくらいしか、ないのだから。」


 そんな鈴の鳴るような美声も、心地良く頭の中に響くから、まいっちゃうな。

 穏やかに微笑むその表情もそうだ。

 見ているだけで沸き立つ創作意欲に、うずうずしてしまう。

 ソウ様の言ったことを忘れてるわけではないけど、少しぐらいならお近づきになってもいいよね。


「あのう、ルシアナ殿下。」

「まあ、なにかしら?」

「お願いがあります! 俺の、絵のモデルになっていただけないでしょうか!?」

「・・・まあ? モデル? わたしでいいのかしら?」


 うふふと可笑しそうに笑うルシアナ殿下に、俺は、やった!と、ガッツポーズを作る。


「もちろんです! あっ、それと、殿下に俺の作った曲を、お献げしたいです!」

「・・・・・まあ、曲?」


 あれ? 嬉しくない、かな?


 一瞬表情をなくしたルシアナ殿下に違和感を覚えた。

 けれど、すぐに彼女は、ふわりと微笑む。


 でも、変だな?

 どうして、あんなに、手首を触るのだろう?


「聞いたことが、あるわ。シュー・ホランド卿といえば、最近有名な、音楽家、だったわね。」


 あながち、間違いではないかな。

 俺は、こくんと頷く。


「・・・そう。それに確か、外務省のホランド大臣といえば、フェルメント港のある領地の・・・、そう領主だったわよね。外交官の時代に、若手の育成に、力を入れておられた・・・。」


 実際には母上がそうなんだけど。

 それにしても、なんか、よくご存じだな。

 俺は、もう一度、こくんと頷いた。


 ルシアナ殿下は、俺の顔をじいっと見つめながら、落ち着きなく両手を組み替えている。


「・・・そう、そうなの・・・。ねえ、あなた―――えっと、シューさんと、お呼びしても構わないかしら?」

「はい。大丈夫です。」

「もし、もしよければ、なのだけど。試しに1曲、演奏してもらえないかしら?」

「今、ですか? それはもちろん、構わないのですが、えっと・・、ご希望の曲があるのでしょうか?」

「・・・・ええ。こんな曲を――――――」


 ルシアナ殿下は、そうっと瞼を伏せると、珊瑚色の唇を緩やかに開く。


ル~ ラララ~

わたしの いとおしい君 

きらきら 星が瞬くよ

・・・・ ・・・・・




 あれ? このフレーズ――――――


 どこかで聞いたことがある。

 歌詞は少し違うけれど、どこでだっけ?

 ・・・・・・・・!!!


 そうだ、ガオさんが、酒場で演奏してくれた曲だ。


 ヴァイオリニストを目指して一緒に頑張っていて、それでダイナー侯爵のサロンでお別れをしたガオさん・・・。

 俺が音楽の道に進み始めた頃に彼と出逢って、そして俺らは演奏できる場を探して、夜の酒場に出入りした。


「ついてきな、シュー。ジャックするぞ!」

 にっと笑って酒場の舞台に立ち、おもむろに楽器を構えて演奏を始めるガオさん。


 弾くのは、だいたいがノリの良いダンスミュージックだったけれど、ある晩、一人の女性が「失恋に効く曲」をリクエストしてきたんだ。

 ――――そのとき演奏したバラード曲だ。


♩~♪. ♫♩~

 使い込まれた愛用のヴァイオリンを高々と掲げ、郷愁たっぷりに弾き上げた。


「さっきの、なんていう曲だったんですか? 俺、初めて聞きました。」

「名前は、ないよ。兄さんが、弾いてくれた曲なんだ。」

「へえ、ガオさんのお兄さんも、ヴァイオリンの名手なんですね!」

「――――まあな。俺とは、比べもんになんねえよ。あの人は、天才だったんだ。」


 そうして、ガオさんは、とても大切そうにヴァイオリンを抱え込んでいたっけ。





「――――こんな曲なのだけど、弾ける、かしら?」

 ルシアナ殿下が不安そうに小首を傾げている。


 俺は頷き、彼女の侍女が持って来たヴァイオリンを取ると、顎を乗せた。

 ツィ~ツィ~と弦に指を乗せて音の状態を確かめてから、ちらりとルシアナ殿下を見ると、彼女は胸元で両手を組み合わせ、期待に満ちた、でも不安げな表情で、じいっと俺を見ている。

 右手で握り込まれた左手首の袖口に、きらりと、指の隙間から幾つかのチャーム、星や貝の形をしたそれは、まるで子どものおもちゃみたいだ。


 俺はふぅと息を整えると、弦をすぃ~~と引いた。


♩~♪.  ♫♩~

いとおしい 君の声    

きらきらと 星の瞬く夜

ゆらゆらと 白い波間に  

甘く甘く 溶けていく

♩~♪.  ♫♩~


 あの晩のガオさんの動きを思い出しながら、身体を揺らす。

 朗々とした甘い声を、ここにいない『誰か』へと届けるように。


 あの日、リクエストした女性は、曲を聴いて涙をこぼしていた。


 そして、目の前のルシアナ殿下も

 ぽろりぽろりと真珠のように丸い粒が、綺麗な頬をとめどなく流れ落ちる。


「・・・ああ、なんてこと・・・・。テオ・・・!」

読んでいただき、ありがとうございます!


予想どおりだったでしょうか?

テオ(フェルメント帝国⑨)⇒ガオ(シューの憂鬱③)⇒シュー


ということで、『フェルメント帝国の秘宝』も、あと2話(予定)です

よろしくお願いします


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⇒⇒⇒ 逢七 のやる気↑↑↑

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